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6章5話 来ちゃった

「来ちゃった」


 顔にどこか少し恥ずかしそうな、それでいて見る者の心を掴んで離さない、少し幼い感じの残る笑顔。

 真っ白な薄手のドレスを身にまとい、暗雲を裂いて延びていた光が消えた後も、まだわずかに光を放っているように見える、腰まで伸びた輝くような金色の髪の毛と、白い肌。

 おれはこの女の子(同い年ぐらいだが)を知っていた。

 夢の中でしか出会ったことがないはずなのに、一目見たときから何故か恋い焦がれていた少女。

 でも、あれ?なんか違和感が……?


「あれ?縮みました?」

「地上で久し振りに再会して、最初の言葉がそれかっ!」


 少女は目の前にいるのに、何故か後頭部をはたかれたような衝撃。あぁ、おなじみの衝撃だ。


「……アプロテ様、お久しぶりです」


 夢で何度も会っていた。

 なのに、自分の胸に去来するのは、長く引き裂かれていた恋人に、やっと再会することが出来たという、その強い思いだった。

 でもなぜ?ぼやけていた夢での記憶が、鮮明になったから?違う。

 夢の記憶がぼやけていた時から、寂しさのような物は常に感じていた。 だが、記憶がはっきりしてくると、半身を引き裂かれたような、強烈な喪失感が、今、埋め合わされたような幸福感。

 わからない。まだ記憶が、夢の記憶が戻っていないのか。


「本当に、本当に久しぶりだわ。ラフエル」


 少し泣きそうな表情で笑いながら、俺を手招きするアプロテ。

 俺は手招きに応じ、数歩前に進みでる。

 すると、アプロテは俺の顔を両手で挟み込むと、顔を寄せ、唇を重ねてくる。

 それは、最初優しく確かめるように触れ、徐々に強さを増してくる。


「「あああぁぁぁーーーーー!」」」


 アプトと、タルーニャの叫ぶ声が聞こえる。

 あ、アプトが貴賓席付近から観客席を駆け下りてきて、闘技場に飛び降りてきた。あ〜、もう、そんなに勢いよく飛び降りるから、ローブがひるがえって下着が見えそうじゃないか。他の男に見られたらどうす――――


「こら!私とのキスの最中に、他の女を見ているなんていい度胸だわ!本当にあなたは昔っから変わらないんだから!」


 唇を離し、両手で俺の顔を掴んだまま怒った顔をするアプロテ。


「ご、ごめんなさい」

「いいわ。お説教は後でたっぷりしてあげる。今私はここにいるんだもの」


「ええい、何をじゃれ合っている!」


 突然、頭上に黒い陰が現れたかと思うと、その陰を作っている黒い球体が、俺とアプロテに向かって急速に落下してくる。

 ロムロスが最初に放った魔法だ。


「うるさいわね!感動の再会に水を差すなんて、いかにもロウレスの使徒よね!」


 アプロテが右手を一振りすると、その球体が音もなく消え失せる。


「な、なん……」


 ロムロスの顔が、驚きで固まる。


「とにかく、詳しい話は後。私は疲れたから少し休ませてもらうわ。だから、あの無粋な邪魔者を、早く排除してね」

「排除って、しかしアプロテ様」

「そのための力は渡したはずよ」


 そう言ってアプロテは自分の唇を触り、幼い顔に似つかわしく無い、妖艶な笑みを浮かべる。

 アプロテにそう言われると、確かに全く問題がないように感じる。


「わかりました。ゆっくりお休みください」

「ら、ラフ!その人は、誰?」


 アプトが、聞いて良いものか迷うのか、少しおびえるように、アプロテのことを聞いてくる。


「アプト、タルーニャ、アイラ。しばらくの間この人を守ってもらいたい」

「この人は……大事な人なの?」


 俺は無言でうなずく。


「わかったわ。必ず守る。だから、あとで全部聞かせてね?」

「ありがとう」


 こういう時のアプトは、本当に頼りになる。


「ラフは、大丈夫にゃ?」

「うん、ちょっとあそこの黒竜と使徒を排除してくるから、安全なところで待っててほしい」

「分かったにゃ」

「あの、無理は、しないでください」


 アプロテを引き連れて下がりながら、アイラがおずおずと振り返り、心配そうに言う。


「大丈夫。まーかせて!」


 俺は黒竜とロムロスの方に振り返る。

 なぜか先ほどまでの不安や焦燥と言った物はなくなり、心の中は晴れやかな気持ちと自信に満ちあふれていた。


「何を言っている!神降ろしは失敗し、父神の力はここに届いてはいない!この私の魔法を一つ打ち破ったぐらいで、いい気になるなよ!」


 ロムロスが我に返ったのか、まくし立てる様に言った後、黒竜に何事か命令をする。

 それに応じるように、黒竜が自分自身が纏っている黒い霧を、その口に吸い込みはじめる。


「グラスドール先輩!私が合図したら、黒竜に攻撃を開始してください!」

「む、そうは言うがな、あの高さでは剣も届かんし、弓も効果的とは思えん」

「それは何とかします!」

「……わかった」


 俺はグラスドール先輩から、貴賓席の方へ向き直る。


「教皇様!」

「ラフエル、と言ったか。ポラルトの聖者、なのか?」

「はい!お願いがあります!天への祈りを続けてください!暗雲に開いた傷はそう簡単には閉じません!」


 教皇はしばらく考えるように、俺を見つめる。


「聖者ラフエル。今、神はお前に、降りているというのか?」

「ある意味降りておいでです」

「……良かろう。教会の忠実なる信徒よ!今こそ信仰を示すのだ!」


 その時、黒竜が口を開け、吸い込んだ黒い霧を叩き降ろすように闘技場へ向けて吹き出す。


「させるか!」


 俺は即座に密度を上げた風を作り出すと、黒竜を吹き飛ばす勢いで上昇気流を作り上げる。

 吹き出した黒い霧が吹き散らされ、ついでにロムロスも体勢を崩し少し飛ばされそうになってあわてている。


「この力、貴様父神の使徒なのか!?」


「天に在す(まします)偉大なる父神よ、あなたの娘の忠実なる(しもべ)に、力をお貸しください!お父さん!」


 何故か最後にお父さんと口に突いて出た。その途端、後頭部に激しい衝撃が走る。アプロテの衝撃の10倍はある。一瞬意識が飛びそうになる。

 俺は何とか意識を保ちながら、それでも通じた祈りのおかげか、右手に力が集まるのを感じつつ、次の詠唱にはいる。


「あぁ、大地の母、偉大なる母神よ!あなたの娘の忠実なる僕に、力をお貸しください!お母さん!」


 やっぱり、最後に口に突いて続けてしまう。俺はもう一度来ると思われる衝撃に首を縮めたが、次に来たのは、とても暖かくて柔らかい、抱擁のような温もりだった。その大きさ(・・・)に別の意味で意識が飛びそうになる。

 左手に右手より遙かに大きい力が集中するのが分かる。


「き、貴様、父神の使徒でないとするなら、何なのだ!」

「今度は逃がさないぞ!ロムロス!」


 両手に集まった力を、天に返すように黒竜の上空へ飛ばし、傘を広げるように展開する。こんな力今まで使ったことが無いはずなのに、体が覚えているかのように淀みなく行使できる。

 だが、今はその疑問を奥に押しやり、黒竜の動きを注視する。

 黒竜は展開した傘に反応してか、身をよじって逃れようとする。


「もう遅い」


 広げた光の傘をそのまま黒竜の上に叩きつける。

 黒竜が咆哮し、その傘にあらがおうとするが、徐々に黒い霧が弾け飛び、遂には背中の翼が光の傘に触れ、右翼が根本からちぎれ飛ぶ。

 空中にとどまることが出来なくなったのか、その巨体が地上にそのまま落下する。

 痛みからか、怒りからか、コロシアムを揺らすほどの咆哮をあげ、いまだ落下を続ける光の傘に、黒いブレスを放つ黒竜。


「我が神ロウレスよ!この矮小なる使徒に、今一度力をお貸し下さい!」


 ロムロスが祈りを捧げると、ドス黒い腕のような物が空中に現れ、黒竜のブレスと同時に光の傘を潰しにかかる。


 激しく明滅する傘と、その傘に当たった部分から蒸発するように消えるブレスと崩壊していく黒い腕。 そのまま傘が押し切るかと思われた瞬間、光の傘がガラスが割れるように砕け散る。


「貴様!ただではすまさんぞ!」


 ロムロスが肩で息をしながら、鬼のような形相をする。


「グラスドール先輩!」

「おう!」


 グラスドールが剣を振り下ろし、仲間の騎士全員に突撃を命じる。

 本当にかっこいいな。THE騎士だ。

 グラスドールを先頭に、そのTHE騎士達が地に落ちた黒竜に襲いかかる。

 しかし地に落ちたとはいえ、竜は竜である。頭の先から尻尾の先まで、20メートルはあるだろうか。

 だが、グラスドール率いる騎士達は、全く怯むことなく、盾を構え乱れることなく突撃する。

 黒竜が不愉快そうにその巨大な口を開けて吠え、騎士達にブレスを吐こうとしている。


「こっちを向け!」


 左手に残っている母神の力で、黒竜をひっぱたくようにこちらを向かせる。

 それに怒ったのか(当然だが)、騎士達に放とうとしていたブレスを、こちらに向けて放ってくる。


(アースイーターみたいに、回数制限はないのか!)


 俺は障壁をやや角度をつけて展開し、黒竜のブレスを上方に反らすように弾く。それでも障壁の一部が削れて消えそうになるが、いまだ左手に残る暖かな温もりの母神の力が、その削れた部分を瞬く間に修復してしまう。

 思わず心の中でありがとうお母さんと祈ると、頭をゆっくりと撫でられる感触に包まれる。子供の頃、テテュスに撫でられた時を思い出す。


 どうも先ほどからお父さんお母さんと呼んでしまうのは、アプロテの力が流れ込んでいるためらしい。


「せいっ!」


 黒竜から少し離れた位置からグラスドール達が剣を振り、その剣から光の刃が鋭く飛び出す。

 光刃という騎士の技だ。一度ハインに見せてもらったのだが、庭に生えていた太い木を、根本からすっぱりと切断していた。後でテテュスが大事にしていた木だったようで、ものすごく怒られていたが。


 その光刃が、黒竜の後ろ足に集中して着弾し、その堅そうな漆黒の鱗を削り、さらにえぐり、食い込む。

 後ろ足だけで立っていた黒竜はバランスを失い、前足を地面に付けてなんとか体制を保つ。

 度重なるダメージの蓄積のせいか、体を守るために身にまとっていた黒い霧は姿を消し、翼も片方失って飛ぶこともままならないようだ。


「もう勝負はついた!降伏しろ!」


 黒竜がバランスを失った折り(おり)に、地面に投げ出され、無様に地面に転がっているロムロスに向けての言葉だ。


「勝負?降伏?ロウレス様に仕える我ら(われら)が、死を恐れると思っているのか。黒竜よ!」


 黒竜がまた息を吸い込み、その口を開く。


(!?こちらを狙っていない?)


 足下にいるグラスドール達でもなく、黒竜は俺の方でもなく、俺の後方少し上の方……しまった!黒竜が狙っているのは、貴賓席だ!


「教皇!障壁を!」


 俺は叫びながら、体に残る父神と母神の力をかき集め、身体強化を行うと共に貴賓席前の観客席に飛び移る。

 振り返り、障壁を展開しようとした所に、黒竜のブレスが直撃する。


「うっぐっ!」


 ぎりぎり展開し始めた障壁と、黒竜のブレスが俺の目の前で激しくぶつかり合う。そこに、ロムロスの黒い玉がさらに撃ち込まれる。


(まずい、近すぎる!)


 激しい圧力は身体強化の名残で受け止めることは出来た。

 だが、障壁は展開し切れていない上に、ブレスを真正面から受け止めてしまって反らすこともままならなかった。


(うっ、ぐ、手の感覚が)


 見ると、浸食したブレスが右手を侵したのか、指先から黒ずんできたのが見える。


(くそっ、また失敗か)

やっと出てきました。

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