5章1話 集団戦とは
模擬集団戦って何だ。何故そんな物に出ることになったんだっけ。
「大丈夫?」
ウェンデール館にて、別途にうつ伏せになってどうしたものかと悩んで顔をしかめている俺に、心配したアプトが話しかけてくる。
「大丈夫、じゃないなぁ」
そう、大丈夫じゃない。
あれから申し込みをして4ヶ月経った。集団戦と言うには少ないが、それでも自分を含めて11人のチームを作らなければならいのだが、これがまたぜんぜん人が集まらない。
模擬集団戦。騎士学校が主体で開催される、秋のお祭りみたいなもので、教都に大昔からあるコロシアムで開かれる。
観客は大勢で、将来自分の国に引き抜けそうな逸材がいないか、各国のお偉方が探しにくる場でもある。
まぁ、優秀な生徒はほとんどつばが付いているのだが、おもしろいことに、指揮をする人間以外は学校の人間に限定しておらず、このイベントを就職活動と見る者も多い。
そのため、当然のように自分が有利になりそうな、要するに勝ちそうなチームには参加希望が殺到し、初級のよく分からない魔法使いなんか、見向きもされない。
そんな中、タルーニャとアイラが参加を表明してくれたのは、本当にうれしかった。
アプトとタロス先輩も参加を申し出てくれたのだが、魔法使いは1チーム一人まで。バナナはおやつに入らない。
「ウェンデールの人に頼めないの?」
「多分頼んだら人を寄越してはくれると思うんだけど、なんというか、迷惑じゃないかなと思って」
これは少し嘘。
多分頼んだら喜んで乗り込んでくる男がいる。でも、こんなお祭りが如き見せ物に、ハインを呼び寄せるのが気が引けたのだ。
しかしそろそろそんな事も言ってられなくなってきていた。模擬戦とはいえ練習の時間もあるし、何とかしなくては。
そう思っていた明くる日朝。
アプトと買い物にでも行こうと玄関を出ると、丁度1台の馬車が門の前に停止するところだった。
お客さんかな?と思っていると、門衛が馬車に走り寄って深々と頭を下げながら扉を開ける。
えらく丁重に迎えるな、そう思って馬車から降りてくる人を見ていると、メイド服を着た可愛らしい短い栗毛の、もう一つ言うなら耳が長い女性が下りてきた。
俺は思わず全力で走り出し、その胸に飛び込んで思いっきり抱きついて深呼吸をする。
「エトナ!なんで!?」
「え!ラフ……様、お久しぶりです!少し大きくなられましたか?」
「エトナ先生!」
エトナが優しく俺の頭をなでていると、さらに横からアプトも抱きついてきた。
「どうしたんですか!?いつまでいられるんですか!?」
「はいはい、話は中に入ってからしましょうね。あと、もう一人びっくりする人がいますよ」
そう言いつつエトナが俺たちを連れて門の前に移動すると、馬車の中から黒い長髪の男が下りてくる。鋭い目がゆだんなく周囲を伺っていたが、俺と目が合うと僅かに、長年付き合わなければ分からないレベルで本当に僅かに、目尻がゆるむ。
「ハインっ!」
「!……ラフ様」
なんとなくぎこちない挨拶になってしまったが、名前を呼んだ瞬間ハインの目尻が誰の目から見てもゆるんだ。
甘い大人だなぁ。もしお年玉があったら、いっぱいくれたかもしれない。
「どうしたんですか、2人そろって」
「どうしたではありません。聞けば集団戦に出ると言う話。ウェンデールの名を背負って出る以上、みすぼらしい戦力で出すわけには行きません」
「そのために来てくれたんですか!」
「もっと早く連絡を貰えていれば、兵を鍛えて連れて来ましたのに」
「いや、こんなお祭りみたいな事に、迷惑かなと思って」
恥ずかしいじゃないか。子供の喧嘩に親が出るようで。
「迷惑などと!私ハインラットは、ラフ様にこの命を捧げた者。死ねと言われればすぐにこの首差し出しましょう」
重い、重いよハイン。離れてる間に何かあった?落ち着いて。
「でも、来てくれてうれしいよ!立ち話も何だし、中へ入ろう」
使用人たちが手慣れた様子で荷物を運ぶが、エトナの荷物もハインの部屋へ運び込もうとしたため「エトナの荷物は私達の部屋へ」と伝える。
「でも、どこから集団戦の話を?」
「どこからも何も、普通に登録の書類がウェンデールに届きました」
「あぁ、そうか、登録地をウェンデールにしたから」
「はい。ち……バルター将軍も駆けつけると言って聞かなかったのですが、さすがに私と2人合わせて留守にするのはと、諫めるのが大変でした」
「……見えるようだ」
俺の脳内で完全武装のバルターがハインに羽交い締めにされている絵が再生される。うん、多分そんなに外れていない。
「じゃぁ、兵士も連れてきてくれたの?」
「えぇ、腕利きを用意しました。トラムとセコイエを覚えておいでですか?こちらに来るときに護衛をした兵なのですが」
「覚えてるよ。トラムは冷静でしっかりした良い騎士だ。セコイエも若いのに鋭い剣筋をしていたのを覚えている」
「その言葉を聞けば、本人達も喜ぶでしょう」
「じゃぁ、明日からは暇を見つけて練習しないとね」
「そうですね、兵が決まり次第、すぐに始めましょう」
「え?十人連れてきてくれたんじゃないの?」
「いえ、私とトラムとセコイエの3人です。あとはこちらで集めた兵と合流すればよいかと。今集まっている兵はどれほどですか?」」
「それがね……」
俺が現状を話し始めると、ハインラットの顔が難しい物になる。いや、これは、
「ハイン、怒ってる?」
「なぜラフ様が初級なのですか。アプト殿が上級であるのなら、ラフ様も上級以上のはず」
両腕を組み、普段からきつめの目がさらに鋭くなっている。
「もうその話はいいんだよ。おかげで良い経験が出来たし、とても素晴らしい、その、友達も出来た。そうだ、その内の2人は集団戦に参加してくれるから、残りは後5人いれば大丈夫だよ!」
実際は知り合い以外1人も集まっていないのだが、ハインの顔が怖いので努めて明るく振る舞う。
「そうですか……もう少しウェンデール館で兵の都合を付けてみましょう。顔なじみの傭兵なども教都に来ているかもしれませんし」
「そうして貰えると助かります」
「とりあえず募集しつつ、今いる5人とラフ様で、郊外に狩りにでも出て連携を考えてみたいと思います」
「そうですね。とりあえず今日はハインとエトナはゆっくり休んでください。私は集団戦に出て貰える2人に、会いに行ってきます」
屋敷を出ると、アプトが俺ろから俺をつついてくる。
「どうしたの?」
「ん〜、前から思ってたんだけど」
「なに?」
「ハイン先生とエトナ先生とラフの関係って、先生だけじゃないよね?」
アプトは、剣を教えてもらっていたハインと、魔法を教えてもらったエトナを未だに先生と呼んでいる。
「え?いや、アプトより長く教えて貰ってるだけで、2人は先生だよ?他には何もないよ??」
俺はアプトの質問にドキッとして、変な返しをしてしまう。
「え〜。でもハイン先生はものすごくまじめな話をするとき、ラフに対してものすごい敬語だし、エトナ先生には……おっぱい貰ってたでしょ」
最後のおっぱいの部分で、少し赤くなりつつ、怒ったような表情をする。
何で知ってるの……
「それに、ポラルトのお城にいたときから、周りの人の反応もどこかぎくしゃくしてたし、もしかしてラフって……」
「え、いや、違うよ!?」
「もうポラルトの魔法使いとして仕事してるの?」
「……あ、あぁ、うん、それは、あるかも、ね」
「やっぱり!じゃぁ私がポラルトの魔法使いになれたら、一緒に仕事出来るね!」
アプトがとても上機嫌な笑顔で笑う。
うん、王子とかそんなのどうでも良いな。アプトと一緒に魔法使いで良いな。
そんな幸せな未来を思い浮かべながら、手を繋いで騎士学校の寮へ向かった。




