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幕間4

「では、代表はタルーニャとアイラとする」

「はいにゃ!」「はい!」


 他の獣人より背が低く体が細い狐に似た族長が宣言する。

 2人の猫型と思われる若い女獣人、柔らかそうな白い毛を皮鎧に身を包んだタルーニャと、獣人らしい部分と言えば頭の上に猫耳が生えているだけのアイラが返事をする。2人とも人間に当てはめれば10台前半に見える。


「意義ありだ!」


 皮の鎧に屈強な体を窮屈そうにしまい込んだ、若い男の獣人が座っていた観衆の中から立ち上がり声を上げる。


「意義ありだぞ!」


 硬そうな黒い毛の狼のような容貌の獣人が、タルーニャとアイラの前に出る。殊更に胸筋を誇張させ、威圧する。


「何故タルーニャとアイラなのです」

「お主も見ていたじゃろう?タルーニャとアイラが勝ち抜いた、ただそれだけじゃ」


 族長はやれやれといった風にため息を付く。


「それは分かる。だが、アイラはどうだ。弓の腕は確かだが、剣の腕は俺よりも劣る。俺の方が代表にふさわしいはずだ!」

「アイラの事をバカにするのは、ゆるさにゃいよ?ガルーダ」


 族長の前で片膝を付いていたタルーニャが立ち上がり、ガルーダと呼んだ男の獣人の前に立つ。ガルーダの方が頭一つ分以上背が高いのだが、臆することなく腕を組み、下から睨みあげる。


「だ、誰もバカになんかしてねぇだろ!ただ、人見知りのアイラに、親善……なんとかなんて、勤まるのか!?」

「親善留学ね」


 タルーニャに気圧されるように顔を近づけて挑まれ、少し腰が引けて顔を背けるガルーダ。心なしか毛の生えていない耳の内側や、鼻が赤い。


「そこなのじゃよ、ガルーダ」

「そこ?」


 長老に言われ周りをきょろきょろするガルーダ。


「場所の意味じゃない」


 小さく細い体を伸ばし、少しため息を付く族長。


「アイラは見てのとおり人族に近い姿をしておる。おまえ達も知っての通り、我らの姿は人族には威圧感があるでな。こういう場には適している」

「しかし、2人だけではしん……心許ない!」

「それはあちしとアイラに対する侮辱にゃっ!」

「だ、誰も侮辱するつもりは!、ち、近い!匂いが!」


 ガルーダが耳と鼻を真っ赤にしてタルーニャから顔を逸らす。狼型のガルーダはみた目通り鼻が良く効くため、タルーニャの匂いが鼻腔いっぱいに広がる。

 ガルーダが狼狽えたのを見て、タルーニャは自分の言い分が通ったと思い満足して族長の前に戻る。


「ではタルーニャ、アイラ。群島代表として精一杯頑張ってくるのだぞ!」

「はいにゃ!」「はい!」




「これを持って行け」


 タルーニャとアイラが船に乗り込もうとタラップに足をかけると、ガルーダに呼び止められる。


「ほらっ」


 ガルーダが顔を横に向けたまま、手に持った細長い荷物を、2人にぶっきらぼうに付きだしている。


「なんにゃ?」


 アイラはガルーダが苦手なのもあり、タルーニャが手を出して荷物を受け取る。

 ガルーダは荷物を渡すと、そのまま2人に背を向けて去っていく。


「全く何なのにゃ」


 意味が分からないと、受け取った荷物をほどいて取り出してみると、1つは見事な装飾が施された曲刀で、タルーニャが気を送り込むと僅かな力でスムーズに刀身が光り輝くのが見て取れた。ガルーダが昔タルーニャに見せびらかすように自慢していた逸品だ。

 驚いてもう一つの袋を開けてみると、弦が張られてはいない物の、持ち手部分が曲刀とお揃いの装飾になっており、こちらもすぐに曲刀と同等の品だとだと言うことが理解できた。


「ガルーダ!行ってくるにゃ!」

「あ、有り難うございます」


 港から出ていこうとしていたガルーダの背に、精一杯大きな声で礼を言うと、2人の方を見もせずにガルーダが右手を振る。

 アイラは何となくタルーニャの顔を覗き込む。

 何の他意も無い満面の笑顔のタルーニャ。

 おそらくタルーニャに気に入られたいが為だろうが、アイラにまで高価な弓を用意したというのに、タルーニャには全くその気がないことに、少しだけアイラはガルーダが可愛そうな気がした。


「なんにゃ?」


 微妙な表情をしたアイラと目が合う。


「なんでもない。楽しみだね、タルーニャお姉ちゃん」


 本当はアイラは不安の方が大きかった。一緒に行くのがタルーニャでなければ、確実に断っていた。だが、心の底から楽しそうにしているタルーニャを見ると、自分も頑張らなければと、そう思うのだった。

 アイラとタルーニャは、姉妹ではなかった。獣人よりも人族に外見が近いせいか、アイラは人見知りが激しかった。そんなアイラに対し、いつも優しく接していたタルーニャにアイラが懐くのに時間はかからなかった。


「わくわくするにゃ!」



 そんな2人が留学したのは、人族でも教会圏と呼ばれる国家群の中心国、アドレアの騎士学校だった。

 留学は魔法学校か騎士学校、どちらでも選べたのだが、タルーニャとアイラの国には、まともに魔法を覚えようと言う者はおらず、自然騎士学校に決まっていた。


「それでは試験を開始する」


 二人の前には、分厚い傷一つ無い鎧を着込んだ、若い男が立っていた。試験官だ。


「まず、剣に魔力を通して見ろ」


 男は手に持った指揮棒で、校庭に試験のために置かれた机をぞんざいに叩く。


「魔力?」

「そうだ。騎士の基本技術である、魔力を装備に纏わせる力で、おまえ達のクラスが決まる」

「魔力……」


 タルーニャとアイラが良く分からないという風にお互いを見る。


「はぁ、まぁそんな事だろうと思ったよ。とりあえず試験はもう良い。本来なら魔力すら通せない者は初級1位なのだが、仮にも親善留学だからな、2位に入れてやるからありがたく思え」

「まだ、何もやってにゃいよ?」

「わかったわかった、部屋も2人一緒にしておいてやる。お前等が泊まったことも無いような綺麗な部屋だぞ」 


 この言葉にタルーニャは一瞬ムッとしたが、隣にいるアイラが争いを嫌うため、耳を下げぐっとこらえる。




「私は大丈夫だから」


 案内された部屋に荷物を入れていると、アイラがタルーニャに向かってつぶやく。


 そういうせりふは大丈夫な人は言わない、そうタルーニャは思ったが、確かにこの程度で気にしていても仕方ないので、明日からの授業を楽しみにすることで嫌な気分を振り払うことにした。


「それに確かにきれいな部屋だしね」


 アイラに言われて改めて部屋をよく見るタルーニャ。

 きっちりとはめられた壁板はすきま風が入ってこず、なんと窓にはガラスまで入っている。群島ではガラス製品は高価だったため、貴重品として扱われていた。そんなガラスが飲み水の器としても用意されているし、至れり尽くせりだ。

 そしてベッドは清潔なシーツが引かれ、僅かに良い香りのする毛布もある。

 そこには文化の違い以上の格差が確かに存在していた。


「ん〜まぁ、明日から頑張るにゃ」


 しかし、その後も謂われのない差別は続く。


 南方に存在する群島連合と教会圏との、友好のための交換留学。

 過去に獣人の奴隷や小さい争いなどがあり、教会圏も兵を送り込んで制圧しようとしたが、獣人たちのゲリラ戦の巧みさもあり、手を拱いて(こまねいて)いた。

 そんなとき、現教皇が奴隷の廃止、南方との融和を宣言。市民レベルでの交流を計るため、まずは若者の偏見をなくすための交換留学だった。


「あ〜、動物は厩舎で餌を食えよ。臭うんだよ」


 一度染み着いた差別は、そう簡単には拭えなかった。

 極端な態度を取る者はごく一部だったが、その行いを止める者はほとんどいなかった。

 そう、あのときまでは。


「あ、あの、すいません、お名前をお教え願えませんか」


 その日から、タルーニャとアイラは、日々の授業に日が差し始めたような気がしていた。

忙しく、遅くなって申し訳ないです。

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