4章4話 認められたは良いけれど
俺たちは一旦寮に戻り体を洗った後、学長にアースイーター討伐の報告をした。戻ってすぐ報告をしても良かったのだが、昔ロプトルに指摘された匂いをさせたまま学長に会うのが、気が引けたのだ。
その後食堂で合流することになった。何故かグラスドールやロプトルも一緒に。
「でだ。お前達はなぜ初級なのだ?」
席に着くなり、グラスドールが机に手を突いて、前のめりに俺に詰め寄る。
近い近い近い。イケメンだから少し変な気分になるだろ!
「どう、と言われましても、試験の結果なので自分では如何ともし難いと言いますか」
「だが、あの迷宮で見せた魔法に、それに、そうだ!あの剣の技!どう見ても上級クラスではないか!」
「確かにタルーニャの剣は明らかに上級のそれだと思います。私が思うに、問題は試験のやり方にあるのではないかと」
「ふん。獣……タルーニャの話だけではないのだがな。で、その問題とは何なのだ」
「まず一番最初に思ったことは、タロス先輩のことです」
「タロス?誰だ?」
そう言いながら、グラスドールは俺の視線をたどり、自分の横に座っているタロス先輩を見る。タロス先輩は少し困ったような笑みを浮かべ頭を下げる。
「それで、問題とは何なのだ」
少し見ていたが、迷宮で合っているにも関わらず「誰だ?」という疑問は解けなかったようだが、気にせず俺に最初の疑問をぶつけなおしてきた。
「試験の内容が技術と言うより、戦闘での威力や効力に偏りがあるように感じられます」
「ふむ。しかし、実際問題として、魔法使いに求められることは、その一点に絞られるではないか。騎士とて戦いにおける剣技を重点的に見られる。指揮や儀礼などは入ってから学ぶものだ」
「その点においては異論ありません。しかし、戦闘において大事なのは、攻撃力だけでしょうか?」
「敵を早く倒せば、それだけこちらが攻撃される可能性が減るではないか」
「その理論も理解は出来ます。ですが、今回倒したアースイーター、あれを本当にその攻撃力だけで倒せたでしょうか?」
「あれには驚いたな。普通なら騎士団を投入するレベルの敵だそうだな。ランクの高い冒険者でも、普通10人位で挑むと。しかし実際戦ってみればあんな物なのだろう。あれなら我々だけで倒せたという物だ」
フェリス学長からは、アースイーター討伐の報告をしたとき、少し厳しく怒られていた。そんな危険なことをすべきではなかったと。
だが、それでもワンリッチを助けるために動いたことは、深く感謝をされた。たとえ第11王子とはいえ、迷宮で死んだとなればいらぬ問題が起こる。
いや、フェリス学長は単に自分の学校の生徒を助けてくれたことに礼を言っていた。そして、自分の生徒が危険なことをしたことに、怒ったのだ。
「アースイーターの脅威は、ブレスあっての事です」
「あぁ、最初に言っていたな。ブレスが吹けないなら討伐のチャンスだと……そうだ、そのブレスをどうやって使わせたのだ?騎士学校の学長に報告したら、ブレスはどう処理したのかと、しつこく聞かれたのだ」
「ブレスは、そこに見えるタロス先輩と、俺で防ぎました」
俺がタロス先輩を示すと、グラスドールがまたタロス先輩を見る。
「初級の魔法使いが防げるのか?それともお前と同じように、何か隠しているのか?」
「それこそが試験の問題なのです」
「だからどこが問題なのだ」
「攻撃に偏りすぎています」
「偏り?」
「はい。私の受けた試験でも、威力と精度などは見ていましたが、回復や守り、身体強化などは対象外でした」
「威力や精度が高ければ、自ずと能力が見えて来るものではないのか?」
「人により得手不得手があります。そちらに見えるタロス先輩は、正直、攻撃魔法は初級2位相応なのですが、回復や障壁、魔力の伝達など、主にサポートの分野では確実に中級以上です」
皆が一斉にタロス先輩の方を見ると、恥ずかしいのか謙遜するようにいやいやいやと手をぶんぶん振る。
「ラフ君の買い被りだよそれは」
「とんでもない!タロス先輩がいたからこそ、アースイーターのブレスを防げたんです」
「なんだと?だが、それほどすごい物なのか?ファイアドレイクのブレスなど、我が輩の盾だけでも防げるものだが」
アースイーターの触手をはじき返していたアレか。確かにアレはすごかった。マジックアイテムの効果もすごいが、グラスドールもそれを的確に使いこなしている。
「アースイーターのそれは、恐らく上級魔法使いがぎりぎり防げるかどうかかと」
「では我がパーティーなら防げていたな」
「私たち、だ」
ロプトルがグラスドールの言葉を訂正する。
「ええ、アプトならロプトル先輩となら、1度はブレスを防げたかと」
この言葉にロプトルの目線が鋭くなるのが分かる。
「どう言うことだ?2人いるのだから、2回とも防げるのだろう?」
グラスドールが良く分からないと言うように、ロプトルの方を見る。
「グラスドール先輩、本人を前に申し上げにくいのですが、人には得手不得手がございます。アプトは昔からヒーリングや障壁の魔法に適正を示してきました」
「私がその手の分野で後れをとるというのか!」
ロプトルが珍しく大きな声を出して立ち上がる。
「いえ、あくまでも、アプトがその分野では特異な才能を持っていると」
「ふん、そんな事は試験を見ていれば分かる」
グラスドールがロプトルの肩をたたいて着席させる。この2人、本当に仲良くなったな……
「お前が何を言いたいかは分かった。要は攻撃力だけではなく、サポートも含めて審査されていれば、お前やタルーニャ、あと、あー」
「タロス先輩」
「そう、そのタロス先輩とやらも正当な評価を受けていたはずだ、と」
あなたは呼び捨てで言いと思いますが。
「そうですね、どう言った評価が出るかは分かりませんが、順当な結果は出たかもしれません」
「ふむ。では差し当たって、ラフ、騎士学校の試験を受け直すというのはどうだ。先の剣を見る限り、お前なら上級になれるだろう」
「お心遣いありがとうございます。しかし私はこの魔法学校で学びたい物が多くあります。なのでそのお話はお受けしかねます」
グラスドールはまた「ふむ」と考えるような顔つきになる。
「ならば仕方ない。お前はそのサポート魔法の有用性を示すために、模擬集団戦に出なければならんな」
「模擬集団戦?」
「そうだ。半年後に開かれる、騎士学校主導で行われる団体戦だ。ここでは個々の剣技はもとより、集団を集め指揮する能力が問われる」
「そうだ!出るべきだ!俺様はお前をそこでぶったおしてやる!」
いきなり後ろの席から声をかけられ驚いて振り返ると、いまだ足が痛むのだろう、騎士に肩を借りたワンリッチがそこにいた。
「ふん!助けられたのは感謝しているがな、集団戦となれば話は別だ!」
「すいません、坊ちゃんは第11王子として生まれ、魔法の才能に恵まれてちやほやされたため、傷ついたプライドを立て直そうと必死なのです」
「ちょ、おま」
肩を貸している壮年の騎士が身も蓋も無い事を言う。
「うるさい!それにいくら剣と魔法があっても、指揮を執ると言うことはまた別のことだ!」
「ぼっちゃんは中級の魔法使いとして天狗になっていたので、自分より年下のあなたに助けられて、プライドがずたずたなのです」
「お、おい!」
ワンリッチが少し涙目になっている。
「先ほども「偉そうなことを言っておいて、あんな助けられ方をして、なんて言えばいいんだ」って、治療中にめそめそ泣いている始末」
「ソウマ、うん、本当にごめん、もう言いつけ破らないから……」
「あー、はい、分かりましたから、許してあげてください」
「う、うるさい!ありがとう!」
うるさいと言った瞬間にソウマに睨まれ、変な礼をするワンリッチ。
「そう言うわけでして、後日助けていただいたお礼はさせていただきます。ですがこの通りの甘ったれとはいえ我が主君。どうか集団戦の折りはよろしくお願い申しあげる」
そう言ってソウマはワンリッチに肩を貸すというか、脇を固めるようにして引きずって連れて行く。
こうして、俺は集団戦という物に出ることになった。え?




