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5章2話 お宅訪問

「すいません、騎士学校初級2位の、タルーニャとアイラに取り次いでいただきたいのですが」


 俺とアプトは、騎士学校側の寮入り口にある、受付所に来ていた。

 建物としては繋がっているものの、内部は明確に区切られていた。これも露骨な青田買い的なスカウトなどへの対策らしい。


「ん?……どうぞお入りください。2人の部屋は突き当たりを右に曲がった奥です」


 一瞬間が空いたとき、守衛のおじさんの視線が、アプトの襟章を見ていたのに気が付いた。恐らく魔法学校上級と見て取り、何の問題もないと判断したのだろう。名前すら聞かれていないのだが、魔法学校の上級生は2人しかおらず、聞くまでもないとの判断なのだろう。

 俺は付き人か何かと思われたのだろうか、その後は視線すら寄越さなくなった。


「なんか、傷だらけだね?」


 騎士学校の寮内は、魔法学校のそれと作りは全く同じだったものの、廊下は傷みが激しいというか、傷が床だけではなく壁や柱などにも数多く見られた。

 鎧を着た人間が行き来したせいもあるのだろうが、多分に生徒達の気性による物も含まれていると思われた。


「え〜っと、あった。ここだ」


 そこは何十とある部屋の中でも、本当に寮の一番奥の部屋だった。

 探しているときに気が付いたのだが、日が射さない北面にあるせいかあまり使われていない一角らしく、タルーニャとアイラの部屋だけぽつんと離れている印象だ。

 俺は気を取り直して部屋の扉をノックする。


「タルーニャ、アイラ、いる?ラフです」


 部屋の中で何かごそごそ音がしたかと思うと、扉が少しだけ開き、そこからアイラがするりと外に出てきたと思ったら、後ろ手に扉を閉める。


「ら、ラフ、さん、いらっしゃい。あ、アプトさんも、いらっしゃい」


 心なしか笑顔がひきつっているアイラ。

 おかしいな、最近は普通の会話も出来ていたし、笑顔も自然で打ち解けていたのに。

 いきなり訪ねたのはまずかったかな。また心の扉が閉じて……そう思っていると、扉の中からドスン、バスンと変な音が聞こえてくる。

 なんだ?と思っていると、扉が開きタルーニャが顔を出す。


「よ、良く来てくれたにゃ。どうぞだにゃ」


 少し汗をかいているのが気になるが、部屋の中へ入れて貰う。


「何もないけど、どうぞ」


 アイラが床に置かれた机の上に、水の入ったコップを置く。

 部屋は床の3分の1を2段ベッドが占めており、さらに壁には2人分の勉強をするための机も据え付けられており、ただでさえ狭い部屋が窮屈に感じる作りだった。救いは壁面に収納がついているところか。心持ち両開きの扉がこんもりしているように見えるのは、気のせいか。

 正直同じ初級2位のはずなのに、自分の使っている魔法学校の部屋より狭いし、どことなく質素な感じがするのは何故だ。


「え〜っと、これ、お土産です」


 俺はここに来る道すがら、お菓子を作っているお店で買ったケーキと紅茶のセットを、机の上に差し出す。

 あ、床にあるのは机かと思ったけど、木箱の上に花の絵が買いてある布を敷いただけだ……質素な感じはこれか。


「!!ケーキにゃ!!」「わぁ!」


 袋から取り出したお土産のケーキに、子供のように喜ぶ2人。


「ケーキなんて数ヶ月ぶりだにゃ!ラフ!アプト!大好きにゃ!」


 ……こんどウェンデール館に招待しよう。いっぱい好きな物を食べて貰おう。


「それで、今日はどうしたんですか?」


 アイラが食堂で貰ってきたお湯で、紅茶を入れながら俺に聞いてくる。


「どうって事はないんだけど、集団戦の基礎練習が出来ないかと思って」

「お?人が集まったにゃ?」


 フォークを握りケーキから目を離さずに、会話に参加するタルーニャ。


「いや、まだ全員じゃないんだけど、さらに3人ほど参加して貰えるんだ。しかも、そのうち1人は僕が知っている限りだけど、彼より強い剣士を見たことがない人だよ」


 この言葉に、タルーニャの耳がぴくりと反応し、ケーキから目線を離す。


「それは、すごい人にゃね?ラフよりも強いって事かにゃ?」

「足元にも及ばないよ。というか、僕なんかタルーニャにも勝てないじゃないか」

「ん〜、魔法も使った本気の戦いなら、ラフが圧勝するにゃ」

「魔法を使っても、その人、ハインラットには勝てないよ」

「それは是非とも稽古を付けて貰いたいにゃね」


 タルーニャは剣技に関して、とてもどん欲に勉強や練習をしていた。一度、何でそんなに頑張るのかと聞いたら、自分の頑張りが、群島に住む獣人全体の評価に繋がるから、と、さらりと言われてしまった。


「ん?な、何かにゃ」

「あ、いや、ケーキ食べよっか」


 いかんいかん、凛々しいタルーニャの一言を思い出して、思わずタルーニャに見とれてしまっていた。綺麗な輝くような毛並み……はっ、何でもないよ視線が痛いよアプトさん?


「あぁぁぁ、甘くておいしいにゃ、いつから始めるにゃ?おいしいにゃ」

「タルーニャとアイラの都合が良ければ、明日にでも顔合わせぐらいはしても良いかなと思ってるんだけど」

「おいしいにゃ、集団戦のために授業も軽くなっているし、甘いにゃ、大丈夫にゃよ、幸せにゃ」


 会話の間にもフォークでケーキを少し切り取っては口に運ぶタルーニャ。

 あ、上品に少しずつ食べてるのかと思ったけど、大きく食べるとすぐ無くなるから、ちょっとずつ食べてるんだ……


「う、うん。よし!明日ウェンデール館でお昼を食べながら顔合わせしよう!」


 決めた。おいしい物を食べて貰おう!


「ウェンデール館?あぁ、ラフのおうちにゃね?あ〜、大丈夫かにゃ?うちらが」そう言ってアイラの方をちらりとみる「行っても?」


 言外に「獣人が貴族の家に行ってもいいのか」という言葉が含まれている。


「タルーニャ、アイラ。僕は君たち2人をとても大切な友達だと思っている。ウェンデール館において、君たちが不愉快になる事なんて絶対にさせない。誓って」


 タルーニャとアイラがうれしそうに笑う。


「ありがとうにゃ」「ありがとうです」


 その時、壁面の収納からがたんと音がしたと思ったら、こんもりしていた扉が一気に解放され、中に押し込められていた衣類や装備、ダンジョンで手に入れたアイテムなどが床になだれ落ちてくる。


「ち、違うにゃ!今日は荷物の整理をしていただけにゃ!」

「タルーニャ姉様が普段から片づけられないから……」

「にゃっ!?アイラ!ひどいにゃ!」

「普段から片づけてと言っているのに片づけないお姉さまが悪いんです。このさいラフさんからもきつく言って下さい!」

「は、はは、気持ちは分かるよ、僕も片づけ苦手だから」


 そう言って片づけるのを手伝おうと、床に落ちている白い布を拾うと、小さいリボンの付いた、可愛らしい三角形の布だった。


「にゃああぁぁぁーーーーーーーーー!!」


 今まで見たこともないようなスピードで、俺の腕からその布をひったくるタルーニャ。

 よく見ると、他にも縞々や水色、ピンクの三角が散らばっている。

 それらをすごい勢いで耳まで真っ赤にしながらかき集めるタルーニャ。


「自業自得です」


 アイラがジト目でぼそっと言うのが少し怖い。




「すごく、仲がいいよね」


 帰りの道すがら、アプトがタルーニャとアイラ二人との仲を、少しすねたように聞いてくる。


「うん。この学校に来て良かったことの一つだよ」

「わ、私は、あんまり良い事なんて無いよ……」


 俺はこの言葉にはっとする。

 アプトはこの学校で上級になり、周りからも実力が認められ、ポラルトだけではなく、他の国の生徒からそれとなく卒業後の去就の話を聞かれたりしている。

 俺からすれば、アプトにとって良いことばかりだと思っていた。


「こんな事なら、ポラルトでエトナ先生やハイン先生から教えて貰ってる方が、幸せだったよ……」


 これが良いことかどうかは分からない。だが。


「ご、ごめん!アプトがそんなに寂しい思いをしているとは思わなかった!でもタルーニャもアイラも本当に良い子なんだ。だからアプトとも仲良くなってほしくて」

「うん、タルーニャとアイラはとても良い人だし好きだよ。ただ、その、」

「その?」

「ラフが……取られちゃう」


 きゃあぁぁ!俺は思わずアプトを抱きしめる。可愛い!やきもちも可愛すぎる!


「アプト、どんな事があっても、僕から君を離す事なんてあり得ないから!」

「え、う、うん!ありがとう!」


 アプトが耳まで真っ赤にしながら、腕の仲で小さくなる。

 もう、食べちゃいたいなぁ。

 そう思ったら、後頭部に懐かしい衝撃が走る。


「あぁ!まさか、生きてこの目で2度も女神様の御手(みて)を見ることが叶うとは!」


 あ、これまた懐かしい展開と思って、声の方を見ると俺が聖者の認定を受けたあの事件の時にいた、奇跡認定者アンナが地面に跪いて(ひざまずいて)両手を胸の前で組み祈りを捧げている。

 何してるのやめてこんな往来で。うわ、めっちゃ注目されてる。


「聖者ラフエ――――」

「わあああー!お久しぶりですアンナさんんんんん!」


 俺は久しぶりに会って喜ぶ振りをして、跪く(ひざまずく)アンナに飛びつく。


「教都においでになってるとは知りませんでした!こ、今度教会の方にも寄らせていただきます!」

「まぁ!それは兄弟神の司祭様もお喜びになると思います!」


 やめて、抱き寄せないで、シスターアンナ様の溢れる慈愛が具現化された柔らかい物に挟まれて、気持ちい、じゃなくてアプトの視線が痛いから!

 俺は心残りながら何とか引き剥がし、アンナを教会の方へ送り出す。


「きっとですよ〜」


 振り返り振り返り手を振りながら去っていくアンナ。


「は、はは、久しぶりにポラルトの教会の人に会ったよ」

「なんか、聖者とか言ってたし」

「え?そんな事言ってた?」

「それに、抱きついて抱きしめられて、嬉しそうに……」


 うぅ!し、仕方ないじゃん。男の子だもん。弱いよそりゃ。


「……エトナ先生は仕方ないけど、だ、ダメだからね」

「は、はい、気をつけます」


 何がダメなのか良くわからないけど、とりあえず素直に謝って、拗ねるアプトの手を取って帰路に就く。





(こんな事で力を使ってしまった……ただでさえ消耗しているというのに……でも、ラフエルがダメなんだよ?)


 人の世に力を顕現させるのには力がいる。


(このままだといろんな物がラフエルから薄れていく気がする。何かチャンスがあったら、行くしかないわね)

週に一回は更新できるようになりたいです。


毎日更新している人とか、ほんと尊敬します。

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