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3章4話 別々の部屋

「では、アプトさんは私について来てください」

「え?え?でも、ラフは?」

「アプトさんは上級クラスなので、当然相応の部屋になります」


 アプトは戸惑いながら、女性教師の後をついて行く。


「では、ラフ君はこちらに」


 俺はとぼとぼと男性教師の後をついて行く。

 初級、かぁ……もっと実力があると思ってたんだけど、やっぱり教都のレベルは高いんだなぁ。

 アプトは上級に入れたみたいだなぁ。良かったなぁアプト。

 なぜかあのイケメン二人が頭に浮かぶ。

 ロプトルとか呼ばれたイケメン魔法使いは、この魔法学校唯一の上級クラスの生徒らしく、一応貴族らしいのだが複雑な事情があるようで、卒業後の就職先が未定とあって、各国から引く手数多らしい。

 まだしばらく研究を続けたいらしく、しばらく卒業する予定はないようだが。

 そしてもう一人のグラスドールとか言う、派手な騎士見習いも上級クラスらしく、一軍を率いて戦う術を学んでいるとか。

 ポートヴェイルの跡継ぎらしく、事ある毎に学校の将来有望な生徒に粉をかけているらしい。


 二人ともイケメンなのに、優秀だなんて、チートだチート。

 アプロテもなんだよ。俺結構頑張ってハインの稽古も受けてたし、エトナやケリーの授業だって真面目に受けてたし。スカートもたくさんめくったし……どっちつかずになっちゃったのかなぁ。絞った方が良かったのかなぁ。


「……君」


 でも、顔とかは生まれつきだし、


「……フ君」


 アプトはかっこいいって言ってくれたけど、あれは顔の事じゃないと思うし、


「……ラフ君!どうしたの!?」

「え!はい!」


 俺は突然肩を揺さぶられ驚いて視線を上げると、目の前で心配したような顔をしている、試験官の先生がいた。


「どうしたのいったい。ぶつぶつ言って全く反応しないし、試験の結果がショックだったのかい?」

「……あー、いえ、すいません、何でもありません」

「とりあえず、ここが君の部屋になる。同室の先輩にもきちんと挨拶するんだよ?」

「え?同室?あれ?アプトは?」

「アプト君は上級クラスだから個室だし、そもそも女の子と男の子の部屋は別だからね?」

「あぁ、そう、ですね」

「本当に、大丈夫かい?」


 先生は心配しながらも、寮の2階にある部屋をノックして、扉を開ける。


「今日から同室になる子を連れてきたよ」


 俺は先生に背中を押されて部屋に入る。

 中にいたのは10代前半と思われる、メガネをかけたおとなしそうな少年だった。


「は、はじめまして、ラフ・ド・ウェンデールです」

「やぁ、いらっしゃい。僕の名前はタロス、最近初級2位に上がったばかりだけど、え〜君は……あ、ラフ様って呼んだ方がいいのかな」

「いえ、とんでもない。普通にお願いしますタロス先輩。それに僕も初級2位です。よろしくお願いします」

「おお、その歳で2位入学はすごいね。良い先生がいたのかな?」

「はい、シルエ族の女性に学びました」

「うおぉぉぉお!シルエ族の女性!ふおおぉぉお!」

「ど、どうかしましたか?」

「どうかしたかって、知っているかい?ここの学長であるフェリス先生はシルエ族の血が入ってる事で、もう40になると言うのに、あんな可愛らしい姿で!君の先生だった方はどんな人だったんだい!」

「え、学長ほどではありませんでしたが、とても若々しい二人でした」

「二人も!」


 タロス先輩は興奮のあまり椅子から飛び上がるように立ち上がり、俺の前にダッシュしてくる。


「なんてうらやましい」


 ストレートな先輩だ。というか、少し怖い。


「機会があれば、紹介してほしい」

「は、はい」


 迫力に負けて思わず返事をしてしまったが、ケリーはしばらく帰ってこないし、エトナもポラルトから出ることは希だし、多分会うことはないだろう。


「さて、先生はこれで戻るけど、何か困ったことがあれば何でも相談してください。あと、タロス君はラフ君に施設の案内などして上げてください」

「わかりました!」


 先ほどの約束が良かったのか、勢いの良い返事をするタロス先輩。


「あ、一通り案内したら、教員室に寄って下さいね」


 そう言って先生は去っていく。


「さて、どこから案内したものか」


 タロス先輩は寮を出て、隣に建っている魔法学校校舎の1階廊下を進む。


「ここが教員室で、ここが医務室。あと、初級2位の教室は2階にあるよ」

「生徒は多いのですか?」

「初級1位は多いよ。100人はいるかな。僕たち初級2位になるとぐっと減って、40人ぐらい。後は中級1、2位合わせても20人はいないかな。上級に至っては一人……あ、そういえば今日一人増えたから、2人だね」」


 そう言ってタロス先輩が隣に並ぶ俺の方を見る。


「可愛い子だったけど、同郷だっけ?」

「えぇ、まぁ」

「知り合いなの?」

「一緒に学んでいました」

「シルエ族の先生に……可愛い同級生とか……本当にうらやましい」


 実にストレートな先輩だ。


「よし、紹介して……じゃなくて、案内を続けよう」

「よ、よろしくお願いします」


 タロス先輩は気を取り直したように歩き始める。

 

「ここは魔法を使う際に使う道具や、筆記用具、日用品なんかも売ってるお店。街で買うより安いし、粗悪品もないから便利だよ。何か必要な物はあるかい?」

「あ〜、本とかはありますか?」

「本?確かあったと思うけど……高いよ?」

「どんな物が置いてあるかだけでも、見られますか?」

「見られるとは思うけど」


 そう言って先輩は、お店の奥で座っている店員に話を付けてくれ、店員がカウンターの後ろに並ぶ棚の鍵を開けて扉を開くと、中にぎっしり本が並んでいた。


「この辺が魔道書ですね、後は歴史物語や世界史などもあります」


 俺はその棚に並ぶ本の一部に、見覚えがあることに気がついたというか、この学校に来てから引っかかっていたことが何なのかはっきりと思いだした。


「その魔道書は」

「あぁ、この一番上の棚に並んでいるのは、学長の書かれたものですね。上級の授業でも使われているものですよ」


 フェリス・ド・パロ。

 ポラルトの店で買ったあの本だ!

 いやそれだけじゃない、その後に書かれたらしい続巻が二冊も出ている。


「そ、その2冊はおいくらですか?」

「これかい?この2冊はこっちの2冊の続編だから、まずはこっちを……」

「その2冊は持っています!新しい2冊はおいくらですか!」


 この言葉に少し驚いたような顔をする店員と、タロス先輩。


「そ、そうかい、値段は全部一緒で、1冊金貨4枚だよ。これは学長の好意でこの学校の生徒は安く買えるようになってるんだ」


 俺はポラルトの店で買った値段を思い出す。

 確か、1冊金貨4枚だったはず。あの店主、利益無視で譲ってくれたのか。ポラルトに戻ったら、あのお店を贔屓にしよう。

 なんなら、王室御用達の看板をあげても良いかもしれない。


「まぁ、いくら安くって言っても金貨4枚だからな。おいそれとは買えないよな」


 ポラルトのお店に思いを馳せているのを、価格で悩んでいると勘違いした店員が本を戻そうとする。


「く、ください!」

「え!?この本をかい?」

「はい」

「えぇっと、こっちを持ってるんなら、これかな」

「いえ、2冊ともください!」


 店員とタロス先輩の動きが止まる。


「あぁ、ラフ君、先輩から少し助言させて貰うと、いきなりそんな高度な本を無理して買うことはないんじゃないかな?」

「ですが、そちらの2冊は本当に素晴らしい本で、じっくり読みたいのです」

「気持ちは分かるけど……フェリス学長の本なら、図書館でも読めるから、まずは中身を確認してみては?」

「図書館があるなら先に教えてください!」


 俺は出しかけた財布を懐に戻す。


「いやいや、まさか本気で買おうとするとは思わなくてさ」


 ごめんごめんと言いながら、校舎から渡り廊下でわたった先、特徴的なとがった屋根を持つ、3階建ての円筒形の建物に案内される。


「ここが図書館」


 タロス先輩は扉を開けて中に入ると、すぐ目の前にある受付にカードを提示する。


「初級2位、タロスさん。確認しました」


 受付の女性がカードをタロス先輩に返し、何かを待つように俺を見つめてくる。


「ほら、ラフ君も学生証出さないと」

「……え?」

「あ、今日クラスも決まったばかりだから、まだ貰ってないのか。この学校は買い物するにも図書館なんかの施設を利用するにも、学生証がいるんだよ」

「そうなんですか……」

「う〜ん、多分今夕方までには貰えると思うんだけどね。これが無いと食事も出来ないから」


 手に持ったカードをひらひらさせるタロス先輩。

 ちょっと貸してもらい、タロス先輩のカードを確認する。


 ――タロス 魔法学初級2位 ランクF―― と書かれている。


「先輩、ランクって何ですか?」


 受付で何か話していたタロス先輩が、振り返って俺からカードを受け取り、説明してくれる。


「これはね、学校の外での実力というか、校外の実績に対して与えられる物だよ。迷宮の攻略や、魔物の退治、困っている人を助けたりしても評価される場合があるよ」

「へぇ〜。冒険者みたいですね」

「そうだね、卒業後はそのまま冒険者ランクとしても適用されるよ」

「あ、やっぱりあるんですね」


 タロス先輩は「やっぱり?」と頭を傾げているが、つくづくここはファンタジーなんだと思わずにはいられない。


「僕はまだ校外実習をしたことがないから、最低ランクFのままだけどね」


 えへへと、少し恥ずかしそうに笑うタロス先輩。


「多分僕もFなので、いろいろ教えて下さいね」

「教えるというか、一緒に頑張ろう」


 本当に良い先輩だな。口が少し欲望に忠実だけど。

 一通り施設を見て回った後教員室に寄ると、学長に会いにいけと言われる。


「入りなさい」


 中に入ると、相変わらず大きい机に不似合いなサイズのフェリス先生が椅子に座って書類を眺めている。


「ラフ君、学生証が出来たので、渡しておきますね」


 俺は前に進み出て、机越しにカードを受け取る。


 ――ラフ・ド・ウェンデール 魔法学初級2位 ランクE――


「え、フェリス先生……ランクが」


 後半声を落とし、フェリス先生に顔を寄せて小声で確認する。

 念のために間違いでは無かった場合、扉の外で待つタロス先輩に聞かれたくなかったのだ。


「ふむ。これはですね――」


 フェリス先生は俺からカードを受け取ると、机の上に置いてある幾何学模様で周囲を縁取られた、厚さ1mmも無い鉄板の上にかざす。


「……ナイトウルフとワイバーン討伐の功績が含まれていますね」


 俺がこそこそと小声で喋ったのに合わせてくれたのか、フェリス先生も俺に顔を寄せて小声で言った後、幼い顔に不似合いな感じでにやっと笑う。良い匂いがする。

 あ、これはバレているというか、後ろから手が回っている感じか。


「あぁ〜、わかりました」


 学長室を辞して、廊下で待っていてくれたタロス先輩の元に戻る。


「どう?フェリス学長は可愛かった?」


 そこかよ。本当に自分の思いがダダ漏れの人だな。


「良い匂いで可愛かったですが、学生証を貰えました」

「君とは仲良くなれそうだよ――え?Eランク?」


 俺のカードを確認したタロス先輩が、ランクを見て驚いている。そうだよな、俺も驚いたもん。


「どうも、地元にいたときに行った、狩りの評価が含まれているようです」


 適当にバレ難そうな嘘をついておく。


「あぁ、狩りか〜。狼とかを排除してもポイントになるらしいからなぁ。まぁ狼すら僕は一人で狩れないけどね」


 少し悲しそうに笑うタロス先輩。


「もしよかったら、今度狩りに行きませんか?僕もうまいわけではないですが、少しは心得がありますし」

「ほ、本当かい?それは願ったり叶ったりだよ」


 後日、先輩の印象を良くしようと軽く言ったこの発言が、すこし面倒くさいことになる。

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