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3勝3話 初登校ですぐ試験

「お、大きいね」

「そうだね、校庭も含めたら、ポラルトのお城より広いかもしれない」


 馬車から降りた俺とアプトは、広大な敷地を覆う壁に作られた、3メートルはあるように見える門の前に立っていた。

 その門の奥に、一見教会風の4階建てぐらいの建物と、要塞風の厳ついこれまた4階ぐらいの建物が見える。

 恐らく魔法学校と騎士学校の校舎だと思われた。

  そしてその二つに挟まれて、少し奥まった場所に、作りは簡素になっているものの、同じぐらいの大きさの建物が見える。寮だろうか?


「何か用かね?」


 大きい門の脇、恐らく人が通るための小さい通用門が開き、中から黒色で統一された制服を着た中年のおじさんが出てくる。守衛の人のようだ。

 今日からお世話になるものですと伝えて書類を提示すると、中に通され、教会風の建物の中、一つの部屋に案内される。


「新入生を連れてきました」

「どうぞ」

「失礼します」


 守衛のおじさんに促され、扉を開けて中に入る。


「ラフ・ド・ウェンデールさんと、アプトさん、ですね?」


 青い細身の服を着た女性が重厚そうな机に座り、目を通していた書類から顔を上げる。背が低いのか、机からは顔と肩が少し見えるぐらいだ。

 かなり若く、10代前半ぐらいか。髪は白髪で、それを後頭部でまとめている。銀縁のメガネから覗く目は優しそうな光をたたえている。


「はい、今日からお世話になります、ラフ・ド・ウェンデールです」


 俺は驚きを隠しつつ、右手をお腹のあたりに添えて礼をする、貴族風の挨拶をしてみる。


「あ、アプト、です」


 俺のを見て慌てたように同じやり方で挨拶をする。

 それを見ていた女性は机から立ち上がり、右足を少し引いて両手で少しだけスカートを持ち上げる。


「私はこの学校の学長を務めさせていただいております、フェリス・ド・パロと申します」


 そういってアプトの前に立ち、もう一度スカートを持ち上げる礼をする。

 え、学長?


「アプトさんの挨拶はこちらの方がよろしいかもしれませんね」


 にこやかに笑うフェリス。


「あっ!」


 アプトが顔を真っ赤にして、慌てたように同じ様な礼をする。


「私も堅苦しいのは苦手なのですが、あくまでもここは学校なので、学べるものは何でも学んでいくと良いでしょう」

「はい」

「あと、ラフさんは、何か気になることがあるようですね?」


 俺は驚きで少し口が開いた状態でアホ面をさらしていたようだ。

 

「あ、その、すいません。学長が、かなりお若いので、少し驚いてしまって」

「いいんですよ。初めての人は大抵驚かれますしね」


 そういってフェリスはくすくすと笑う。


「実は魔術の探求をしすぎた結果、年を取らない呪いにかかってしまったのですよ」

「「ええぇえ!」」

「嘘です」

「「うえぇぇ?」」

「本当は母がシルエ族で、その血が濃いせいか40歳になってもこんな外見です」


 俺はエトナとケリーのことを思い出す。

 確かエトナは50歳ぐらいだったはず。でも、もう少しお姉さんだったような?


「その顔だと、それにしても小さいとか思っていますね?」

「いえ、そんなことは……ただ、私の知っているシルエ族の女性は、同じぐらいの歳でももう少し年上に見えた気がしたので。……すいません」


 なんとなく謝ってしまう。だが、俺が気になったのはそんな部分ではなく、何か頭の隅に引っかかる物があったのだ。


「別によいのですよ。若く見られるというのは、悪い事じゃありませんしね!」


 フェリスが満面の笑みで顔をのぞき込んでくる。

 あ、可愛いなぁ。と思っていたら、アプトがほっぺたをつねってきた。

 あら、焼いてますか?


「さて、お二人には、クラスを決めるための試験を受けて貰わなくてはなりません」


 フェリスがついてきてと言いながら部屋を出て、廊下を進む。

 俺は何となくフェリスの横に並んで歩きつつ、フェリスの方を見る。背も俺とほとんど変わらないぐらい小さい。

 歩幅も小さく、ちょこちょこと歩く姿が余計に幼く見える。


「又何か考えてますね?まぁいいですけど」


 足を止めて、とある部屋の扉を開ける。

 中にいたのは20人ほど、年の頃は30〜60ぐらい男女半々ぐらいの大人で、職員室らしき部屋だった。

 フェリスが二言三言、教師に指示を出す。


「では、私はこれで戻ります。あとは試験管の指示に従って下さいな」

「はい」

「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。普段通りの力を出せばいいのですから」


 意味ありげにうふふと笑いながら、フェリスは去っていく。


「この学校は生徒の実力によりクラス分けをしています。その方が授業を効率的に進めますからね」


 試験管として30代の男の教師が俺たちを中庭に連れてきた。

 周りからなんだなんだと野次馬が集まり出す。

 今日新入生が来るという噂が広まっているようで、騎士学校の方で模擬戦をしていた人間まで集まりだした。


「では、その線の位置から、あの的に向かって魔法を打ってみてください」


 うぅ、なんか人がいっぱいで緊張するが、ここはいっちょ格好付けて全力で行くか。

 あの的の中心をぶち抜けばいいんだろ。よし。


 俺は右手に魔力を集中させ、ライフルの弾丸をイメージした堅く圧縮した石を作り出す。

 そして今度はその弾丸を空気の筒の中に放り込み、弾丸の後ろに圧縮した空気を貯め込む。ひたすら貯め込む。

 

 そして、一気に貯めた空気を放出。

 すると、弾丸が火薬が爆ぜた様な音と共に飛び出し、狙い違わず的の中心に命中し、乾いた音と共に的をわずかに振動させ、きれいな小さい穴を開ける。

 弾丸はそのまま的の後ろに積み上げられた土嚢に当たって、消える。


 よっしゃ中心!俺は小さくガッツポーズをして周りを見る。


 あれ?なんかすごく静かじゃね?心なしか見ている人はなんかつまらなさそうにしているし……騎士学校の生徒らしき金髪で長髪の美男子など、肩まで両手を上げてやれやれといった仕草までしている。

 あれ……今持っている魔力の3分の1は突っ込んだんだけどな……


「はい、良くできました、次はアプトさんですね」


 えぇぇ?やっぱり教都の魔法学校だと、これぐらい出来て当たり前?

 井の中の蛙大海を知らずって奴か……どや顔でガッツポーズしたのがすごく恥ずかしい……

 気を取り直して、アプトの様子を見る。


「うぅぅぅ!」


 昔からアプトは魔力を込めるとき、少しうなるような声が出てとても可愛い。

 アプトは左手で右手を支えるように前に出し、魔力を集中させると、削りだした氷の槍を作り出す。

 そこから堅さを上げるため、圧縮させようと一生懸命魔力を込めているが、さほど大きさは変わらない。圧力が均一にかからず、逃げているようだ。


「おぉぉ……」


 まだアプトは細かい操作が苦手なんだよなと思っていると、周りからどよめきのような声が挙がっている。


「ええぇい、やぁ!」


 俺がしたように、圧縮した空気で氷の槍をとばす。

 だが、これもしっかりした空気の筒を作ることが出来ていないのか、破裂した空気のエネルギーが周りに逃げてしまっている。

 それでも十分な威力で的に当たった氷は、的を根本から吹き飛ばし、後ろに積まれていた土嚢の一部を吹き飛ばして蒸発する。

 ふむ。アプトも大分うまくなってきたなぁ。もう少し細かい操作を練習した方がーーーー


「素晴らしい!」


 俺がアプトの魔法を分析していると、突如周りで見ていた野次馬(騎士見習いや、魔法学校の生徒など)が、歓声を上げる。

 その中の一人、アプトを絶賛した派手な金の装飾が入った鎧を着た、15歳ぐらいの少しくせっ毛の金髪を背中まで垂らしたイケメンが、つかつかとアプトに歩み寄り、軽くひざを折って手を取り甲にキスをする。


 アプトに触るな!


「何度でも言おう、本当に素晴らしい。よろしければお名前をお教え願えないか」

「え?え?」


 アプトが困ったように俺の方を見る。

 あ、キスされた手の甲を服でゴシゴシこすってる。

 やーい、嫌がられたー。


「アプトさん、ですね。あなたのような実力を持った方が、魔法学校に来てくれてうれしく思います」


 あれ、助け船を出そうとしたら、これまた15歳ぐらいの、マントを羽織って杖を持ったメガネ黒髪長髪男が、アプトを挟むように前に出る。腹が立つことにこいつもイケメンだ。

 騎士見習いが精力的なイケメンだとすると、魔法使いは線の細い冷たい感じのイケメンだ。


「ロプトル、私が先に話をさせていただいているのだ」

「ですが、グラスドール殿。彼女は我が魔法学校の新入生、ここから先はこちらにお任せいただきたい」


 何故かアプトの頭越しににらみ合う二人。

 俺、出るタイミングを失って、置いてけぼり。


「はいはい、交流は後でお願いします」


 男の試験官が手を叩きながら前に進み出て、俺を手招きして呼び寄せる。


「これで試験は終わりです。アプトさんは中級2位、ラフ君は初級2位クラスですね」


 え、アプト中級で俺初級なの?


「お待ちください、見たところアプトさんは中級で学ぶことは少ないのでは?無為に1年中級で過ごすよりは、上級1位で学ぶ方が得る物も多いかと思われますが」


 試験官の言葉に割って入ったのは、ロプトルとか呼ばれたメガネイケメンだ。

 俺のために割って入ったのかと少し喜んだじゃないか!


「ふむ、しかしこの年齢で初日から上級など前例がありません」

「前例など!フロンティアスピリッツこそが、この学校の校訓ではありませんか」


 メガネが鼻で笑うように言う。

 なんかイラッとするのは嫉妬だろうか?

 いや、俺もかっこいいはず……でも、俺の容姿をほめてくれたのは、イリスとテテュスなどの家族やアプトを除くと、エトナとか使用人とか、だけ、だな……え?


「わかりました。学長との協議が必要になりますが、アプトさんのクラス分けについては保留としましょう」


 試験官はそう言ってアプトの背中を押して校舎に戻り始める。

 アプトが戸惑い困ったように後ろを振り返り「ラフは?」と言うと、その場にいた人間も「そういえばいたな?」と言った感じで俺に視線が突き刺さる。

 俺は肩をすぼめ、出来るなら消えたいような気分でおずおずと後について校舎に戻るのだった。





「おや、アプトさんが上級1位で、ラフ君は初級2位ですか」

「ええ、学長の仰っていた「潜在能力が強い子」というのが、よくわかりました」


 フェリスは提出された書類にもう一度目を通す。

 そこに書かれているのは、魔法による威力や効果範囲などの項目がいくつかあるだけだった。

 それによると、ラフは威力効果範囲などがEランクという、最低よりは少しましな程度の評価となっている。

 逆にアプトはB評価だ。合成の部分など、A評価となっている。


(おかしいですね、私の見立てでは、ラフ君の潜在的な魔力は初の上級2位になる可能性すらあったのですが)

「どうかされましたか?」

「あぁ、いえ、何でもありません。今日から寮に入るようなので、手続きをお願いします」

「わかりました」


 試験官の男が退出していく。


「……まぁ、もう少し様子を見ますか」


 フェリスは眺めていた成績書を、引き出しの中にしまうと、溜まっている書類仕事に戻るのだった。


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