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2章5話 ダメな大人たち

「ラフ、どうしたの?」


 馬車に戻った俺の顔が沈んでいたのだろう、アプトが心配そうにのぞき込んでくる。


「あぁ、何でもなむぎゃ」


 アプトが両手で俺の顔を挟み、逸らせないようにして正面から見てくる。

 あれ、少し怒ってる?


「勝手に飛び出していってそんな顔して戻ってきて、何でもないことはないでしょ!」


 あまり気分の良い話ではないため、アプトには知られたくなかったのだが、この表情をしたアプトは話を聞くまで問い続けてくる。


「……卵が、あったんだ」

「卵?」

「あのワイバーンは、卵を取り返そうとして、襲いかかってきていたんだよ」

「……」


 なぜか、前世でやっていた狩りゲーを思い出していた。竜の卵を落とさないように、逃げながら運ぶ。その時はただ面倒くさいクエストだと思っていたのだが、実際卵を取り戻そうと必死のワイバーンを見て、心の中に言い様のない物が浮かぶ。


「おいで」

「え?」


 アプトが俺を抱き寄せ、いいこいいことするように、頭を撫でる。


「ラフは優しいよね、本当に」


 俺はしばらく抱かれるままにした。それだけで気持ちが暖かくなってくる。


「あー、ラフ様、出発の準備が整いました」


 トラムが俺と目を合わせないように、告げる。

 俺は即座にアプトと離れ、トラムの方を見ないようにして返事をする。


「あ、うん、ウェンデールに行こうか」


 傾いていた馬車は、死んだ馬を外し、セコイエとトラムの馬を繋いで一緒に運ぶことにした。

 トラムは、いざという時に自由に動けなくなることを懸念して渋い顔をしたが、捕まえた魔法使いとその仲間の死体を、自分の後ろに乗せるよりはましと、了承した。ワイバーンの死体も乗せていく。皮や骨はいろいろな素材になるし、殺しておいてそのまま捨て置くのは何となく悪いことのような気がしたのだ。


 ウェンデールまでは、ここからだと半日はかからない位置にあり、本来なら立ち寄らずに次の宿場町に行く予定だったのだが、このままバルターに何も言わずに任せるのも、何となくまずい気がしたのだ。


「止まれ!」

「ご苦労!」

「あ!副長!申し訳ありません!」


 ウェンデールはポラルトより堅牢な城壁を3重に張り巡らせた完全な城塞都市だった。一番外側の城壁には3つの出入り口があり、その一番北側の門から中に入ろうとしていた。


「ねぇ、トラムさんって、もしかして偉い人なの?」


 門の脇で3人の兵士が直立不動になっている。

 トラムが説明をしているのだろう、こちらの馬車に兵士達の視線を感じる。


「そ、そうみたいだね」


 2台の馬車が通り過ぎる間も直立不動の姿勢を崩さない兵士達。

 やばい、アプトが不審がっている。


「ラフ、トラムさんって……」

「う、うん」


 やばい、ばれる。


「偉い人なのに、誰に対しても丁寧な人なんだね」

「ですよね〜」


 危ない、アプトが鈍い系の人で助かった。丁寧だからって、階位が下の人間に様は付けないだろと思ったが、アプトはこのままでいて欲しい。


 2番目3番目の城壁でも同じやりとりがあったが、そのまま中を改められることもなく、無骨な要塞と言った方がいい城の前に横付けされる。


 やばい、バルターが出てきた……60近いはずなのに、相変わらず元気そうだ。


「トラム!トラム!ラフエ」

「わぁーーーーーーー!今日はいい天気でバルター将軍!!」

「な、どうした、トラム、何かあったのか、ラフエ」

「あああーーーー!先に報告したき事があります!こちらへ!!」


 慣れない馬車の運転で疲れているだろうに、トラムは訝しがるバルターを馬車から少し離れたところへ連れて行き、何か喋っている。


「ど、どうしたんだろうね、トラムさん、すごく慌ててたみたいだけど。あと、バルター将軍って、あのバルター将軍?」

「そう、みたいだね、多分、ワイバーンの件で出てこられたんじゃないかな」


 ワイバーンの件もあるだろうが、確実に俺を出迎えたのだ。俺もバルターは好きだが、少し甘やかしすぎるからなぁ。俺を。ハインラットなんか目じゃないからなぁ。

 あ、二人がなんか少しぶすっとした顔で戻ってきた。


「あー、ようこそ、……ラフと、アプト君、だったかな」


 ものすごくぎこちない。あ俺は、バルターの甥っ子だったかな?


「お、お久しぶりです、バルター叔父さん」


 その言葉に、バルターがとても驚いたような顔をしたかと思うと、両腕で俺を抱え上げる。高い高い〜。


「うむ、そうだな、バルター叔父さんだ!」


 なぜかすごくうれしそうな顔をして、俺を振り回している。あぁ、もうウェンデールには演技が出来る人間はいないのか……


「あの、出来れば内密に、お話ししたいことがあるのですが」

「ふむ。ワイバーンの事で……だな?」


 俺を地面に下ろし、真面目な顔をするバルター。本当にポラルトは駄目なおやじモードの大人が多すぎないか。


「今日はここにお世話になるから、アプトは先に部屋に行ってて。僕は先の件で話さなきゃいけないことがあるから」

「えぇ!?でも、こんな、お城なんて、どうしたらいいか」

「大丈夫だよ、ポラルトと同じで、ここも優しい人しかいないから」

「そ、それは分かってるけど……早く戻ってきてね?」


 俺の袖をつかんで、上目遣いでこちらを見てくる。メガネが割れそうな程の破壊力だ。こっちの世界ではメガネしてないけど。


「話が終わればすぐ戻るよ」


 俺は何事もない風を装って、バルターと共に奥の部屋へ入る。


「アプト嬢ちゃんは、将来美人になるでしょうな」


 部屋に入ってすぐ、開口一番バルターがニコニコしながら言う。


「その事については異論はないよ。そうじゃなくて」


 恥ずかしいのですぐに本題に戻す。


「ワイバーンとはまた、珍しいですな」

「はい、どこかで雇われたらしい冒険者が、ワイバーンの卵を運んでいたようです」

「ふむ、ワイバーンは奪われた卵を追跡してきますからな。ですが、普通なら阻害の魔法かアイテムで、追跡出来ないようにするのが常のはずですが」

「ええ、それは生き残りの魔法使いも証言していました。ですが、ワイバーンは追ってきていました」

「魔法を失敗?私は魔法は使えませんが、阻害の魔法は基礎的なものと聞きますが」


 バルターが同意を求めるように俺を見る。


「はい、とても基礎的なもので、ミスをすることなどあり得ません。そこで一つの仮説を立ててみました」

「ほう」

「阻害の魔法をあえて薄くしたか、呼び寄せるために何かをしていた、そう考えています」

「自分たちが襲われる危険を冒して、ですかな」

「多分なのですが、彼らは街道上で襲われる予定はなかったのでしょう。先に降った長雨がなければ、彼らはとっくにウェンデールにたどり着いていたでしょうから」

「ふむ。となると、彼らは依頼を達成するまでの間しか、阻害するつもりが無かったか、出来なかったという事ですかな」

「あるいは、わざとワイバーンを呼び込むために、阻害を薄くした」

「なんと!このウェンデールにワイバーンを引き込もうとしたと!?」

「僕はそう考えています」

「しかし、確かに少しは市民に被害がでるかも知れませんが、たかがワイバーン一匹、どうとでもなりましょう。目的が見えませんな」

「恐らく目的は……」


 俺は考えを纏めるように言葉をいったん切る。


「目的は?」


「ウェンデールの評判を落とすこと、あるいは、今回はただのテストだったのではないかと考えています」

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