漆黒の記憶
誰か分からない男の子
私の閉ざされた記憶を開放し出す。
そして…
どうして?
どうして俺だけ消えないといけないんだ…
愛して欲しいだけなのに…
姫…
愛 シ テ ル
「!!?」
勢い良く起き上がる。
「ゆ…夢?」
目の前には見覚えのある風景が見える。
「なんだったの…」
皆とは違う吸血鬼が血まみれの腕で私を抱き締めた。
愛おしそうに。
怖い。
でも、懐かしい。
そんな感じがした。
今日は土曜日。
学校が休みだから、中庭を散歩。
今の生活になってからと言うもの、自由に外出が出来ず暇を持て余している。
「なんか面白い事ないかなぁ」
何も考えずブラブラしていると、薔薇ばかりが咲いている温室を見つけた。
「薔薇ばかり咲いている…」
なんとなく入ってみる。
少し錆びているのか軋みながら扉が開かされる。
「わぁ…綺麗」
辺りを見渡しながら歩くと微かに声が聞こえた。
「誰か…いるの?」
微かに聞こえる声を頼りに進んでみる。
「…」
奥まで進むと、薔薇にまみれて全てが黒色の男の子が寝ていた。
「誰…だろう」
萌絵はその場に座り、まじまじと見ている。
「…」
「…」
お互いの息がかかりそうなほど近くに顔がある状態で彼が目を覚ましてしまった。
「誰」
「あ…えと…」
萌絵は驚いて離れる。
「アンタ…」
「は、はい」
「ここの屋敷に住んでんの?」
「え?…はい」
男は萌絵を凝視する。
「もしかして…」
「!?」
いきなり近付いてきて何かを確かめる。
「あの人と同じ香りがする」
「香り…?」
ゆっくりと顔を上げてニコリと微笑む。
「美味しそうな血の香りがする」
萌絵はゾクリとする。
「もしかして吸血鬼?」
「へえ…知ってるんだ?まだ目覚めてないのに」
「目覚め…?」
クスクスと笑いながら萌絵の耳元で囁く。
「俺の名前は坂本黒斗」
「坂本…黒斗…?」
懐かしい…気がした。
でも何故懐かしいのか思い出せない。
「忘れている記憶を思い出させてあげる」
「ん!?」
いきなりキスをされる。
「姫…愛してる」
「黒斗…何を…!?」
いきなり黒斗に押し倒される。
「姫の全てが欲しい」
「…」
黒斗が本気であることが良く分かる。
だからこそ私は胸が苦しくなる。
だって…。
親と子、兄弟との恋愛は許されないのだから。
「許されない。だなんて誰が決めたの?」
「それは…」
確かに誰が決めたのか分からない。
「黒斗!?」
黒斗はいきなりボタンを毟り取るような感じで服を雑に脱がす。
「何を!?」
私は自分が出せる力を出して抵抗をする。
抵抗をすればするほど傷が増えていく。
白い肌に赤い線が入っていく。
「お願いだから…」
これ以上黒斗が進めて行くのなら
きっと
命は無いはず。
彼らが
許すはず
ない…のだから。
「何をしている?」
ほら。
運命の歯車が回り出した。
「涼介…」
私は安堵した。
でも…これは絶望でもある。
「何をしている…と俺は聞いている」
涼介は細剣を黒斗の首に軽く刺していた。
「姫の前で物騒な物出すなよ…騎士様?」
自分が殺されるかも知れないのに呑気に話す。
「…離れろ」
涼介は少しだけ力を込める。
「何故?吸血鬼は本能のままに生きるべきだろう?」
黒斗はクスクスと笑う。
「涼介だって本当は姫が欲しいくせに」
涼介は一瞬力を緩める。
その瞬間を待っていたかのように黒斗が涼介を投げ飛ばす。
「涼介!!」
「おっと…姫?逃がさないよ」
「離して…!」
私は抵抗するために暴れた。
「ッ!?や…ン…ふッ」
「抵抗なんてやめなよ。敵うわけないじゃん」
意識が遠のいていく。
まるでもう一人の自分が目を覚ましているかのように…。
そうだ。
昔お爺様が言っていた。
『吸血鬼に口付けをされると、主従関係を契る事になるんだよ。気を付けなさい』
そう、私は今…黒斗と―――――。
「そんな事…させない」
「――――――え?」
目の前に赤い液体が広がる。
「黒…斗?」
黒斗がゆっくりと倒れて来る。
「姫…愛シて」
ゆっくりと目を閉じる。
「…」
目の前で仲間が死んだ。
否。
違反行為をした彼は私の騎士に殺された。
「…」
彼は当然の報いを受けた。
でも悲しくて目から涙が止まる事泣く沢山溢れ出る。
「姫…」
涼介は私を見つめたまま何も言わず傍にいてくれた。
「―――め」
誰?
「姫」
涼介?
「姫、起きてください!」
ゆっくりと萌えは目を開ける。
「…あれ、私」
重い体をゆっくりと起こす。
「こんな所で寝ると風邪ひきますよ」
「う…ん」
萌絵は涼介に支えられながら歩く。
「…」
何かを忘れている。
誰かと…会ったような気がする。
でも思い出せない。
「姫…いずれは、ね」
黒斗は萌絵と涼介を目で追いながら笑う。
瞳は赤く輝いていた。
まるで飢えている獣のように…。