新興国エンペリオン
目を閉じ、あーこ様の指が鳴った音が聞こえた。それと同時に一瞬自分の周りに微風が吹いた。恐る恐る目を開くとそこには、人々の笑い声が絶えず活気に満ち溢れた城下町の大通りであった。
「これが、エンペリオン…!」
「…どうだ?一生ここに住みたくなったか?」
花々も舞い散る鮮やかな街に見惚れる私の後ろから、ヒュリオス陛下が、心なしか得意げにこちらを見た。
確かに、この町はカンテェーレの城下町の何倍も栄えている。私も、こんな、人々の笑顔に溢れるカンテェーレを作りたいと思っていたが、王族たちの考えなしの散財によって、国庫はいつでも火の車。国民たちの生活の質どうこうの前に、生きていけるようにするだけで、私は手一杯だった。ましてや、エンペリオンは、建国して間もない新興国。ここまで、国を栄えさせるのにはどれだけの時間と労力が必要だったことだろう。
ただ賞賛の声しか出すことができない。この華やかな街に目を奪われてしまった。
「…えぇ。本当に、素晴らしいです」
「だろう。私の国民達だ。…私は…君とともに、彼らを愛したい、と、考えて、いる…」
少しぎこちなくそういったヒュリオス陛下の耳はよく見ると、ほんのり赤くなっている。それを見て思わず私も顔が熱くなった。
「ちょいちょいちょ〜い!あーこのこと忘れんといて?!」
少し照れくさい空気に割って入ったのはあーこ様だった。
「あーこ様!お、お見苦しいところをお見せしました…!」
「いや、まあ、あーこそんなKYじゃないし、別にいいけどぉ…それよりほら、何か変わってると思わない?」
そう言ってあーこ様が指を刺している方向へ目線をうつしていくと、先ほどまで来ていたはずのドレスが変わっていた。無駄にコルセットがキツく、息苦しいドレスとは違う、パニエも入っていない快適な庶民服だ。
「それでいて生地はとても肌触りが良い…し、デザインも素敵です!」
「んっん〜⭐︎でしょでしょ??まじかーいい♡ちょー似合ってるよ!ね!ヒュリオ!」
「…とてもよく似合ってる。とても…」
「あ、ありがとうございます」
部屋の隅で、相変わらず表情筋を死なせたままのヒュリオス陛下が、真顔で何度も頷く。 照れくささに私が咳払いをしようとすると、アマテラス様がバチンとウインクを飛ばしてきた。
「じゃ、あーこは帰るね〜! 仕事も溜まってるしね〜⭐︎」
「えっ、アマテラス様、もう行かれるのですか?」
「うん! ロムッピ、ヒュリオと仲良くね〜! 一旦バイチャ〜!」
光の粒子となってフワリと消えていくギャル神様。……本当に台風のような人…神様だった。
「……さて。アマテラスも帰ったことだ。我が城へ行こう」
ヒュリオス陛下が差し出した手に私は少し躊躇いながらも、そっと手を重ねた。




