ギャルのアマテラス様
「やっほ〜⭐︎あんたがロムッピ〜⭐︎?え〜まぢピンクピンクでオキャワなんですけど〜!!」
全身が茶色く日焼けしていて、まつ毛が親指ほどの長さがあり、爪が手よりも長い、独特な容姿の彼女が、不思議な言葉遣いで私に向かって話しかけてくる。彼女の体は宙に浮いていて、奇抜なスタイルであっても整った顔立ちだとわかるほどの美貌を持っていた。
…ところで、ロムッピというのは私のことなのだろうか。初めて呼ばれるあだ名に、つい困惑してしまった。
「…アマテラス様。お久しぶりです。とても雰囲気が変わられましたね」
「うワ⭐︎ヒュリオもいるぢゃん!!まぢおヒサ〜!!そなの!いまぁ、日本ぢゃ、これが流行ってんだよネ〜⭐︎ギャルピ⭐︎!ほらぁ!ヒュリオも一緒にぃ〜?」
「ギャルピ〜〜♡」
「ぎゃるぴ…」
そう言って、宙に浮かぶ茶色い女性と、死んだ顔で一国の国王にウインクされながらピースを突き出されるこの状況に私は思考を停止させる。
(…何でこうなったんだっけ?)
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ことの発端は、舞踏会の後…
ヒュリオス陛下は側近のメガネの人と、カンテェーレとカンテェーレの政務引き継ぎについて詳しく話していて、私から目を離していた。
(…これはチャンスなんじゃない?)
告白された時は、頭が恋愛脳になってしまっていて、あまり考えれてなかったが冷静になってみると、平和的に、とはいえ国に吸収されてしまった亡国の一貴族令嬢を、妃にするメリットは一切ない。あの後の天界の話ぶりからして、人間になる前の私が好きだったようだけど、その記憶が私にはないし、そもそも貴族、ましてや王族が利害関係の一切絡まない恋愛結婚をするなんて聞いたことがない。
加えて、国の王族に絡んで良いことなんてないという事を、カンテェーレの一件から学んでいた私は、さっさと舞踏会から立ち去ろうとした。
タイミングを見計らい、少しずつヒュリオス陛下たちから距離を空ける。
(行くわよ!夢のど田舎領主スローライフ!)
「——ですので、業務に関しては元の行政形態を維持しつつ、我が国の官僚を派遣しまして…」
どうやらこの国の今後の政治形態について話しているようだ。本来であれば、政治の8割がたを担っている私もあの会話に参加するべきだろうが、昔、私が国の万が一があったときのためにと作っておいた引き継ぎ資料を作ってあるから大丈夫だろう。こんな時にマニュアルが役に立つとは予想外だ。
話が盛り上がってきたところで、一気に走り出そうとドレスの裾を持ち、勝利を確信した瞬間、
「ロムティア」
「あ。」
ヒュリオス陛下に呼び止められた。失敗した。油の注がれていない歯車のようにぎこちなく後ろを振り向く。
(う〜ん、怒ってるわよね、これ…)
話を中断して、少し離れたところにいた私の方へ、長い足でどんどん近づいてくる。3度瞬きをするころには、彼の首元が目の前にあった。
「…どこへ行こうと?」
「……」
私を見下ろす形で、じっと見つめるヒュリオス陛下には有無を言わせないオーラがあって、逃げることなど不可能だという事を確信した。私は、汗をダラダラ流しながら、どうにか微笑みを崩さないようにする。
「…先程、レオンハルト王子との婚約の解消が正式に認められた。ロムティアの、隣が空いた」
少し照れくさそうに、目線を逸らして言う姿はどこか庇護欲をそそられてしまうがどうにか私は、思いとどまる。
「そ、そうですね…?」
陛下の言葉の意味は、分かっている。YESかNOで答えるべき質問だ。正直、間近で彼の顔面を見つめでもしたら、どんな無茶なお願いであってもYESと答えてしまいそうな気がして、どうにかヒュリオス陛下と目を合わせないように、瞳は下に向けた。こんな無礼な態度で、曖昧な返事をしたら不敬罪とか言われても仕方ない。私はヒュリオス陛下が次に発する言葉にビクビクと怯えた。
しかしいつまで経っても、彼は何も言わない。上を見上げると、ほんの少しだけ口角を下げたどこか子犬の垂れた耳のようなものが見える顔があった。
「…ヒュ、ヒュリオス陛下…?」
「ロムティアにマルガレーテとしての記憶がないことは分かっている…初対面の人間に求婚されて承諾してくれる人は、少ないらしい」
「ら、らしいって…」
(確かに、この美貌ならたとえ全裸で突っ立ってても女性が羽虫のように集まってきそう…)
「…モース…私の側近が言ってた」
分厚いメガネのせいか、目がゴマ粒くらいの大きさになってしまっている茶髪の真面目そうな七三分けの彼の方に視線を向ける。
(あぁ、あの薄幸眼鏡さんはそんな名前だったのね)
「まぁ、確かに初対面の人に自分の人生を預けられるかと言われると、難しいですしね」
私がそういうと陛下はますます肩を落とす。
その様子がますます私の庇護欲をそそる。
「で、でも!お互いを知っていけば、いつか結婚したいと思える日が来るかもしれませんよね!」
どうにかフォローを入れたが、これが自分にとっての墓穴を掘ったことに気づいて頭を抱えた。
そんな私のことはお構いなく、ヒュリオス陛下の顔色に生気が現れ始めた。心なしか、背景に花が飛んでいるような気もする。
「確かに、思いを通じ合わせるためには交流が必要だという。…よし分かった。ロムティア」
何か覚悟を決めたような、ヒュリオス陛下に嫌な予感しか湧かない。エンペリオンに一緒に行って、しばらくお試し期間とか言って同居をしようと言われるのだろう。
「私と一緒に、エンペリオンに行こう。そして10年ほど一緒に暮らそう」
「…?じゅ、10年…?」
想像通りであったが、想像以上だった。
「へ、陛下、10年同居はもはやただの夫婦です…!」
陛下の元に駆け寄って息切れ気味の側近のモースが口を挟む。
「…そうなのか…じゃあロムティア、5年でどうだ?」
「多すぎます!まずは1ヶ月くらいから…」
「…短すぎる。一年は必要だ」
「3ヶ月はどうでしょう?」
「9ヶ月」
「5ヶ月!」
「…6ヶ月。もうこれ以上は譲歩できない」
「わ、わかりました。」
一瞬、ヒュリオス陛下がモースに向かって親指を立てていた気がするが…気のせいだろう。
「さて…カンテェーレでやることも大方終わった。そろそろエンペリオンに帰るとしよう」
「え?」
「善は急げ、だ。ロムティアといる時間を一秒でも長くしたい」
(確かに、今この国で私ができることもなさそうだし、休養も兼ねてエンペリオンに行ってみるのもいいかもしれないわ)
「よし、行こうか」
ヒュリオス陛下が私を片手で抱き抱えたかと思うとおもむろに指で音を鳴らす。
一瞬周りの景色が動いたかと思うと、次に瞬きをすると、庭園に移動していた。後ろを振り向くと、見覚えのある舞踏会場があった。
とっても、見覚えのある、庭園だ。本当に、さっきまでいたような懐かしさを感じるほど。
「…えっと、陛下…ここってエンペリオンじゃ…」
私が指摘する前に、彼の耳が少し赤くなる。そしてぼそりとつぶやいた。
「…神聖力が、切れた」
「…え?」
「ロムティアのために張り切りすぎて…神聖力を使いすぎた…しばらく力が使えない」
(まさか…あの時の金色の光に神聖力を使いすぎたってこと?!)
恥ずかしさからだろうか、小刻みに体の震えるヒュリオスに抱き抱えられていることが申し訳なくて、一旦下ろしてもらう。
カンテェーレの王都からエンペリオンまでは馬車でおよそ1週間、確かに指パッチンよりは遅いかもしれないが、他国間の移動距離としてはそこまでの時間ではない。私は呆然と立ち尽くしているヒュリオス陛下に、恐る恐る声をかける。
「ば、馬車を呼びますね。待ってて下さ…」
「いや、私が呼ぶ」
「え、でもここでゆっくりしてた方が…」
「…まだ呼ぶくらいの力はある」
そう言って懐から取り出したのは、薄っぺらい金属の板だった。急に板が光って、つるるるる、と音が鳴る。そして急にその板に向かって、ヒュリオス陛下が話しかけ始めた。
「もしもし…アマテラス様ですか?はい…、神聖力が切れました…はい…ありがとうございます」
まるで人と話しているかのようだ。その板が何か気になりはしたが、まだ私が知るべきものではないという直感が働いて、何も言わないでおいた。
(というか、馬車を呼んでいるの…よね?)
しばらくすると、ヒュリオス陛下が上を向いた。つられて上をみるとものすごい勢いで何かが落ちてくる。
「ロムティア、ちょっと私の方にいてくれ」
ヒュリオス陛下に腰を寄せられる。
一瞬、そちらに視線を移した隙に、私のいた場所に、金色の髪をした女性が現れた。太ももを隠さないスカートや、胸元が開いた服装に思わず驚いてしまう。
「ど、どなたですかっ…!」
「ん?あーしは、アマテラス!あーこって呼んでネ⭐︎」
私は一言申したかった…
(馬車はどこーーー?!)




