「ヒョッホハッハァ」
「ヒョッホハッハァ」
その声の聞こえた方向に全員が顔を向ける。片手に料理が山盛りのっている皿を持ち、もう片方のフォークを握った手を高々と上げている男性。白銀の透き通った長髪をまとめ、エメラルドの宝石のような目がこちらをじっと見つめる。口の中いっぱいに食べ物を頬張っていても、輝いているその顔立ちは見間違えるわけがない。怒涛の勢いで国力をつけ始めている新興国エンペリオンの皇帝。
「ヒュリオス・エンペリオン陛下…?」
私が思わぬ介入者に目を丸くしていると、持っていた皿とフォークを近くの使用人に渡して、地べたに膝をつく私の目の前に立った。彼が指を少し動かしたかと思うと不思議なことに体が一瞬浮き上がり、いつのまにか私は靴を履いて立っていた。
ヒュリオス殿下は、今起きていることを理解しきれていない私の頬にそっと手を置き、焼けてしまいそうなほどじっとこちらを見つめてくる。…口はもぐもぐしながら。
「ヒャッハリヒヒハ…」
私は、頬に置かれた手をそっと手に取り…あるべき場所へ戻す。いろいろ聞きたいことはあるけれど…
「ヒュリオス陛下…一度口の中を空っぽにしてからお話しくださいませ」
周りの人々も、力強く頷く。
ヒュリオス陛下は、キョトンとした顔をしたが、その後一生懸命口の中の料理を飲み込もうとした。
「あぁ!ヒュリオス陛下!そのように噛まずに喉に流し込んでしまったら、喉に食べ物が詰まってしまいます!ちゃんと30回噛んでくださいませ!」
「…!」
こくりと頷き、ヒュリオス陛下はちょうど30回噛んだところで、食べ物を飲み込んだ。
会場の中心で背の高い美丈夫がただただ口を動かすシュールな時間が過ぎ去る。その間は私はこの恐ろしいほどに整った顔立ちを鑑賞した。
(これが文字通りの建国顔、ね…)
ヒュリオス陛下の顔立ちは、表情筋が死んでいることも相まって冷たい印象を受けがちだが、一令嬢に言われたことに素直に従う様子には可愛らしさを抱いてしまった。
無事喋れるようになったヒュリオス陛下はたった一言、単刀直入に言った。
「この国をいただこう」
(何て?)
その場にいたすべての人間が耳を疑った。
(まさかまだ、口の中に食べ物が残っていたの…?)
「ほ、ほんの10年前にできたポッと出の国が何を無礼な!」
他国の王の衝撃発言によって混乱していた中で、声を上げたのは馬鹿王子…間違えた第一王子だった。
私は貼り付けた笑顔の中で怒り狂った。
(困惑するのはわかるけど!!相手は新興国とはいえど大きな影響力を持った国! 国・際・関・係!ここで、不興を買ったらそれの対処に追われるのは、私!)
「大丈夫。君に苦労をかけるつもりはさらさらない。だから…」
人差し指を唇に当て、私にようやく聞こえるような小さな声で、ヒュリオス陛下はそうつぶやいた。
「え?」
心の声だったはずが、口に出してしまったのだろうか。私の方をまっすぐ見て、頭を撫でる。
この一歩間違えれば戦争が勃発しかねない状況の中で、ヒュリオス陛下だけが堂々とそこに佇んでいる。心の奥がなぜかむず痒くなったのと同時に、彼がこれから何をしでかすのかと好奇心をそそられた。
ヒュリオス陛下が、第一王子の方に近づく。
私の一つ上18歳の第一王子とそう歳は変わらないはずなのに、ヒュリオス陛下には皇帝としての威光のようなものがあって、第一王子も及び腰になっている。
「こ、この勇者の召喚された国カンテェーレを侵略しようとは…何様のつもりだ!」
棒立ちのままでも、骨董品のように美しい陛下が口を開いた。
「何様かというと…神様だ。」
「「「「は?」」」」
本日3回目。会場の人々の心の声が一つになった。
(何て??)




