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私を追って人間堕ちした神様〜真面目令嬢は、天然わんこに執着されています〜  作者: 焼きそばこっこ


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2/11

婚約破棄は破棄します〜だってこの国、私がいないと滅ぶよ?〜

「ロムティア・ヴァンダル公爵令嬢! 今日、この舞踏会において! 僕、タナカ・レオンハルトは、君との婚約破棄を宣言する!」


華やかなホールに、王子の甲高い声が響き渡った。 静まりかえる聴衆。 その中心で、私は静かに扇を広げた。

私の名前はロムティア・ヴァンダル。 一応、この国では王妃様に次いで身分が高い。 そして、今まさに婚約破棄だなんだと息巻いているこの男は、第一王子のレオンハルト。

――つまり、この国の輝かしい「未来の王様」というわけだ。 冗談なら、もう少し笑えるものにしてほしかったけれど。

王子の腕には、見慣れない令嬢がしがみついている。 「殿下ぁ……ティアラ、こわ〜い♡」

露出度の高いドレスから溢れんばかりの……いえ、もはや礼節など欠片もない装いだ。 私はため息を飲み込み、冷ややかな視線を送った。


「殿下の仰りたいことは理解しました。つまり、ティアラ嬢を王妃にするために、私が邪魔だということですね?」

肩透かしを食らったような頓狂な顔をして王子が言った。


「あ、あぁ…!それに、仕事、仕事ばかり…まるで男のように働くのも可愛げがない!」

「王妃は王を癒して差し上げなくちゃでしょー?ね♡ロムティア様♡」

私は、勝ち誇った顔でこちらを睨むティアラ嬢へ向き直った。頭からつま先どこを見てもお世辞にも知性を感じない。結果は分かりきっているが、一応試(・)し(・)て(・)み(・)る(・)。


「では……kannst du Alistair sprechen?(アリスティア語は話せるわよね?)」


「……へ?」


「Неужели вы собираетесь сказать мне...(まさか、貴族全員の名前を覚えていないなんて言わないわよね?)」


「え?…何を言ってるの?」


矢継ぎ早の問いに、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まる。 ……予想通りだ。 彼女は同盟国の言葉すら理解できない。これでは政務が破綻する。この国に未来がなくなる。


私はゴミを見るような視線を王子に投げ、事務的に告げた。


「殿下、やはり婚約破棄は致しかねます。私はこの世に生を受けてからこれまで、この国は繁栄のために尽くしてきました。私を正妃に、彼女を側妃にするのが、国にとって最も合理的かと」


ところが、王子は顔を真っ赤にして叫んだ。


「ひゃ、百歩譲って君との婚約破棄を取り下げたとしても…君が側妃になれば済む話じゃないか!」

もはや、ため息をつく力も残っていない。


「…殿下。公務を行うのは正妃の務め。側妃はあくまで王の愛人ですから、公務を行うことができません。しかし、逆に言えば、側妃には国民を支える責務はありません。殿下とど(・)う(・)ぞ(・)仲睦まじい生活を送ってください」


「で、でもぉ、どうせロムティア様は王宮でまた私のことをいじめるのでしょう?」


だからそもそも身に覚えがないんだけれど。でも、ここで反発したことをいえばまた面倒なことになる。ここはスルーが得策。


「もし、私が正妃、貴女が側妃になったとしても、殿下から愛を受け取るのはティアラ嬢だけで十分です。私には必要ございません。ティアラ嬢は政務を行うこともせず、王宮で悠々自適な生活を送ることができるのです」


2人は拍子の抜けた顔を見合わせる。


「い、いやでも…それでは君は、まるで…」


第一王子はモゴモゴと何か言いたげだったが、すぐにその口を閉じた。


正直、私もレオンハルトに構う時間なんてないし、彼と恋仲になるというのも全く想像がつかない。それならば、ティアラ嬢にそこら辺の面倒ごとを全て任せてしまった方がいい。彼らもそれを望んでいるようだし。

第一王子の婚約者として10年連れ添ってきて、ただの一度も手を繋ぐ機会さえもなかった。別に私が彼と手を繋ぎたいというわけではないが、目の前で、腕を絡ませ仲良く恋人繋ぎなるものをしている2人を見ると、自分の10年がなんとも安っぽいものに見えてくる気もして、心なしか虚しい気持ちになる。


しばらくして、2人で話がまとまったのだろうか。第一王子が咳払いをした。

「ゴッホン!では、私の愛するティアラの温情に免じて、ロムティア・ヴァンダル公爵令嬢の婚約破棄を撤回する!…また、ロムティアはティアラの温情への感謝の意と、正妃の名において、側妃に従うことを誓え!」

「なるほど…そこまでしますか」


思わず小さな声で、ぼやいてしまった。私が正妃の座についても、ティアラ嬢の方が上の立場であることをここで見せしめろ、と。

公務には適性がないが、権威を持つものとしての適性はそれなりにあるらしい。

温情とは何に対する温情なのか、なんて野暮なことは聞かない。何も考えず私は頭を下げる。


するとティアラがこらえきれない笑みを浮かべて言った。

「ロムティアさまぁ!そんなんじゃ誠意が足りませんよぉ!ほら!ちゃんと!私(・)に(・)さ(・)せ(・)た(・)み(・)た(・)い(・)に(・)!」

「……」

「ティアラ…?君は一体何をされたんだ!?」

「レオンハルトさま、実は、昔のお茶会で膝を床につけて、‘ドゲザ’をするように言われたのです!」

「なにぃ?!」


(そんなことをした覚えは一切ないけれど…)


‘ドゲザ’とは、この国を救った勇者タナカが魔王にさせたという屈服の姿勢。屈辱的なだけでなく、その姿勢は自分が悪であり、相手が正であることを認める象徴。しかし、ここまできたらさっさと服従しておかなければ。この国でドゲザは、国外追放ものの屈辱。けれど、そんな好意をなんの躊躇いも無くしようとしてしまう時点で、私の心はすでにどこかが狂ってしまったのかもしれない。


私がヒールを脱ぎ、床に膝をつけたその瞬間。


「ヒョッホハッハァ。」


静寂に包まれていたホールに大きな声が響いた。そしてその場にいた全員が思っただろう。


(何て??)

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