カンテェーレ昔話
今から約500年前。
小国カンテェーレの一つの村が突如一夜にして住民ごと消え去った。それからしばらくすると、その周辺に不気味な紫色の紋様が浮かび上がったかと思えば、一帯に魔物が現れるようになった。初めて見る恐ろしい化け物たちに、国民は抵抗する術もなく、無惨にも殺されていった。
魔王という、全ての魔物を統率する魔物以上の力を持つ怪物もいた。カンテェーレは魔物発生から1ヶ月ですでに壊滅状態。かろうじてまだ持ち堪えていた王都さえもいつ魔物が襲ってきてもおかしくなかった。国民たちは夜も眠れず、王都には不安と恐怖が渦巻くばかり。その被害の甚大さからカンテェーレ以外の国へ文字通り魔の手が及ぶのも時間の問題であった。
苦悩の上、国王は、カンテェーレの禁忌を破ることを決意した。
“勇者召喚の禁忌”
カンテェーレ中の魔術師を総動員し、大きな代償を払って見事‘ニホン’という国からやってきた‘サラリーマン’の‘タナカ・コウイチ’の召喚に成功した。
タナカは勇者と呼ばれるのに相応しい魔力と肉体を持っており、カンテェーレで信仰される女神・マルガレーテの加護も受けていたことで、勇者パーティーも作ることもなく、単独での魔王討伐に成功した。魔王が死んだ後、国中にはびこっていた魔物たちも、一斉に塵と化し、ついにカンテェーレに平和がもたらされた。‘ニホン’という国は謙虚を尊ぶ国であるらしく、魔王討伐後も、タナカ本人は自身の実力を誇示することは決してなかった。
しかし、タナカがこのカンテェーレ、ひいては世界を救ったことは事実。世界中がタナカを称賛し、カンテェーレの国王はタナカを自分の娘に婿入りさせ、自らの王の地位を譲り渡した。
そしてタナカは、国民に愛される史上最高の国王として幸せな生涯を送ったのであった。
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そんなハッピーエンドの物語の裏側には1人の忘れ去られた女神がいた。
魔王が現れる前までは、皆が彼女に祈りを捧げていた。彼女の石像を清潔に保っていた。
しかし、タナカが召喚されてから彼女への信仰心は徐々に薄まり、消えていった。
彼女のところどころが欠け、苔に覆われた石像に、祈りを捧げるものはもう、誰も、いない。




