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「花びらの数を数えているだけ」と婚約破棄されましたが、その首飾りは隣国で「現皇帝を認めない」という印です  作者: 他力本願寺


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20/32

第20話 私も間違える

八角星の旗幕は、グランツ東部のルーダという町から届いていた。

 明日、大使館で開く地方工芸の歓迎行事に掲げる。王都の倉庫には旗幕と一緒に、町の職人たちの織物も運び込まれているという。


「差し替えが必要なら、本日中に教えてください」


 文化担当官が言った。

 私は提出された図案を見つめた。鋭い八つの角。中央を横切る細い白線。

 旧反乱派の旗を、資料で見たことがある。


「受領番号を確認します」


 古い地域索引を開く。ルーダの項には、まさに同じ白線入りの八角星が載っていた。公的な場では使用を避ける、とある。

 私は続いて、届いている更新通知の一覧を調べた。「ルーダ」の見出しに新しい登録はない。


 その時点で、手を止めるべきだった。

 更新が見つからないことと、更新されていないことは違う。しかも、最新の情報は提出者が持っているかもしれない。


 だが、机の隅には紋章院へ出した古版図案の照合表があった。

 首飾り。真珠。逆結び。

 また同じ間違いが入ってきたのだと、私は先に答えを置いてしまった。


「提出者へ、現行の登録をお尋ねになりますか」


 担当官が聞いた。


「旧索引と構成が一致しています。事故を避けるには、先に差し替えを頼むべきです」


 保留して確かめる、ではなかった。

 私は使用を避けるよう助言書を書いた。旧索引の出典番号を入れ、署名する。

 担当官は、その助言を受けて展示品の搬入を止めた。


 翌朝、職人代表の女性が大使館へ来た。

 彼女は挨拶のあと、鞄から一枚の布を出した。八角星の中央を、白い線が横切っている。


「これを、反逆の印とお書きになったのはどなたですか」

「私です」


 答えると、彼女は私の机へ折り目のついた証書を置いた。


「五年前、対立していた二つの地区が、一緒にこの線を織りました。あの町では、もう互いを敵と呼ばないための旗です」


 白線は、反乱の旗にもあった。

 和解の日、人々はその線のところで左右の布を縫い合わせた。図柄を消すのではなく、両側から同じ星を織り直したのだという。

 証書には、旧領主側と旧反乱派側の代表の署名が並んでいた。


「登録は、されているのでしょうか」


 聞いた自分の声が、遠く聞こえた。


「はい。町だけではなく、和解した二地区の共同体名で。書類にもそう書きました」


 私は提出書類を引き寄せた。

 送り元はルーダ。登録者は、東部二地区織物共同体。

 別の欄だった。

 町名の見出しにないからと、そこから先を照会しなかった。


 文化担当官が、館内にある共同体の登録写しを運んできた。文化院の認証印があり、現行の祭事でも使えることが明記されている。

 遠い国へ新しい資料を取りに行く必要さえなかった。私が尋ねれば、昨日のうちに出てきた記録だった。


「申し訳ありません。私の判断が誤っていました」


 椅子から立って、頭を下げた。

 職人代表はすぐには答えなかった。


「倉庫の荷を、一日余計に置くことになりました。明朝帰る予定だった運び手も、もう一晩残ります」

「費用を確認させてください」

「それも困ります。でも、一番困るのは、品を戻されたと町へ伝わることです」


 彼女は八角星の布を畳まず、私の前に置いていた。


「また、反乱を起こした者の町だから受け取られなかったのだと。そう思う人がいるんです」


 私は、布の白線から目を逸らせなかった。

 害を防ぐための書面で、人を傷つけた。

 七村共同体の布も、アメリア殿下の靴も見た。それでも、危険を見逃さないことばかりに気を取られた。


「訂正は、受け取った方すべてへ私の名で送ります。町への説明にも、私の誤りだったと明記します。元の勧告を取り消しただけで、なかったことにはしません」


 私は席へ戻り、撤回書を書いた。

 旧索引のどの項を使ったのか。どの照会を省いたのか。正しい登録はどこにあるのか。番号を並べるほど、昨日確かめなかったことがはっきりする。

 追加の倉庫代と運び手の宿泊費は、担当官へ見積もりを頼み、契約で定める監察予算からの補填を申請した。歓迎行事は翌日の午後へ変更できるか、別の職員が走って確かめてくれている。

 私が頭を下げている間にも、他の人の仕事が増えていた。


「行事までに、訂正文を町の代表にも渡してください」


 職人代表が言った。


「次は、危険だと決める前に聞いてほしい。それだけです」

「はい」


 握手を求めることはできなかった。

 彼女が布を鞄へしまい、去ってからも、私はしばらく立っていた。


 訂正文は、その日のうちに館内にも回した。

 廊下で二人の職員が話を止めたのが分かった。以前なら、用件があれば私の部屋へ直接来た担当者が、今日は文化担当官に確認を頼んでいた。

 当然のことだった。


 机の上には、まだ審査を待つ図案がある。

 手を伸ばしかけて、止まる。また誤ればどうする。だが、すべてを止めてしまえば、それも誰かの損失になる。

 私は紙を自分の前へ寄せ、最初の欄にこう書いた。


『現在確認できていること』


 次の欄には、『未確認のこと』。

 昨日、この二つを分けていればよかった。


 扉がノックされた。

 カシアン殿下が入ってきた。手には、私の撤回書があった。


「エステル。話をしよう」


 私はペンを置いた。

 震えていた指を、机の下へ隠さずに。

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