第20話 私も間違える
八角星の旗幕は、グランツ東部のルーダという町から届いていた。
明日、大使館で開く地方工芸の歓迎行事に掲げる。王都の倉庫には旗幕と一緒に、町の職人たちの織物も運び込まれているという。
「差し替えが必要なら、本日中に教えてください」
文化担当官が言った。
私は提出された図案を見つめた。鋭い八つの角。中央を横切る細い白線。
旧反乱派の旗を、資料で見たことがある。
「受領番号を確認します」
古い地域索引を開く。ルーダの項には、まさに同じ白線入りの八角星が載っていた。公的な場では使用を避ける、とある。
私は続いて、届いている更新通知の一覧を調べた。「ルーダ」の見出しに新しい登録はない。
その時点で、手を止めるべきだった。
更新が見つからないことと、更新されていないことは違う。しかも、最新の情報は提出者が持っているかもしれない。
だが、机の隅には紋章院へ出した古版図案の照合表があった。
首飾り。真珠。逆結び。
また同じ間違いが入ってきたのだと、私は先に答えを置いてしまった。
「提出者へ、現行の登録をお尋ねになりますか」
担当官が聞いた。
「旧索引と構成が一致しています。事故を避けるには、先に差し替えを頼むべきです」
保留して確かめる、ではなかった。
私は使用を避けるよう助言書を書いた。旧索引の出典番号を入れ、署名する。
担当官は、その助言を受けて展示品の搬入を止めた。
翌朝、職人代表の女性が大使館へ来た。
彼女は挨拶のあと、鞄から一枚の布を出した。八角星の中央を、白い線が横切っている。
「これを、反逆の印とお書きになったのはどなたですか」
「私です」
答えると、彼女は私の机へ折り目のついた証書を置いた。
「五年前、対立していた二つの地区が、一緒にこの線を織りました。あの町では、もう互いを敵と呼ばないための旗です」
白線は、反乱の旗にもあった。
和解の日、人々はその線のところで左右の布を縫い合わせた。図柄を消すのではなく、両側から同じ星を織り直したのだという。
証書には、旧領主側と旧反乱派側の代表の署名が並んでいた。
「登録は、されているのでしょうか」
聞いた自分の声が、遠く聞こえた。
「はい。町だけではなく、和解した二地区の共同体名で。書類にもそう書きました」
私は提出書類を引き寄せた。
送り元はルーダ。登録者は、東部二地区織物共同体。
別の欄だった。
町名の見出しにないからと、そこから先を照会しなかった。
文化担当官が、館内にある共同体の登録写しを運んできた。文化院の認証印があり、現行の祭事でも使えることが明記されている。
遠い国へ新しい資料を取りに行く必要さえなかった。私が尋ねれば、昨日のうちに出てきた記録だった。
「申し訳ありません。私の判断が誤っていました」
椅子から立って、頭を下げた。
職人代表はすぐには答えなかった。
「倉庫の荷を、一日余計に置くことになりました。明朝帰る予定だった運び手も、もう一晩残ります」
「費用を確認させてください」
「それも困ります。でも、一番困るのは、品を戻されたと町へ伝わることです」
彼女は八角星の布を畳まず、私の前に置いていた。
「また、反乱を起こした者の町だから受け取られなかったのだと。そう思う人がいるんです」
私は、布の白線から目を逸らせなかった。
害を防ぐための書面で、人を傷つけた。
七村共同体の布も、アメリア殿下の靴も見た。それでも、危険を見逃さないことばかりに気を取られた。
「訂正は、受け取った方すべてへ私の名で送ります。町への説明にも、私の誤りだったと明記します。元の勧告を取り消しただけで、なかったことにはしません」
私は席へ戻り、撤回書を書いた。
旧索引のどの項を使ったのか。どの照会を省いたのか。正しい登録はどこにあるのか。番号を並べるほど、昨日確かめなかったことがはっきりする。
追加の倉庫代と運び手の宿泊費は、担当官へ見積もりを頼み、契約で定める監察予算からの補填を申請した。歓迎行事は翌日の午後へ変更できるか、別の職員が走って確かめてくれている。
私が頭を下げている間にも、他の人の仕事が増えていた。
「行事までに、訂正文を町の代表にも渡してください」
職人代表が言った。
「次は、危険だと決める前に聞いてほしい。それだけです」
「はい」
握手を求めることはできなかった。
彼女が布を鞄へしまい、去ってからも、私はしばらく立っていた。
訂正文は、その日のうちに館内にも回した。
廊下で二人の職員が話を止めたのが分かった。以前なら、用件があれば私の部屋へ直接来た担当者が、今日は文化担当官に確認を頼んでいた。
当然のことだった。
机の上には、まだ審査を待つ図案がある。
手を伸ばしかけて、止まる。また誤ればどうする。だが、すべてを止めてしまえば、それも誰かの損失になる。
私は紙を自分の前へ寄せ、最初の欄にこう書いた。
『現在確認できていること』
次の欄には、『未確認のこと』。
昨日、この二つを分けていればよかった。
扉がノックされた。
カシアン殿下が入ってきた。手には、私の撤回書があった。
「エステル。話をしよう」
私はペンを置いた。
震えていた指を、机の下へ隠さずに。




