表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘と煙の仮面舞踏会  作者: 男鹿七海
56/58

甘触

 二条は以前から興味があった事をやろうかと内心思案していた。

「龍臣くーん」

 二条に呼ばれ、煙を吐き出しながら視線を下ろす。

「ちゅ」

 ぬいぐるみの口が吾妻の唇に触れる。悪戯した子供のような笑みをしている二条は、ぬいぐるみを掲げたまま吾妻を見上げている。

「はい、キス。一回これやりたかったんだよね」

 吾妻は一瞬だけ瞬きをしてから、ゆっくり煙を横に吐いた。

「……それ、何のつもりだ」

 吾妻の低い声に対して、二条は首をかしげ無邪気に笑う。

「サービス?」

「ぬいぐるみ越しのか」

「直接でもいいけど」

 そう言って、にやりと笑う。吾妻は少しだけ目を細めて、二条の手にあるぬいぐるみを指先で押し下げた。

「それ越しじゃなくても別に構わねえが」

「え、いいの?」

 何故今更そんな事を訊いたのか、二条自信不思議だった。

「お前がやったんだろ」

 淡々と返されて、二条の方が一瞬だけ言葉に詰まる。

「……そうだけど」

「じゃあ責任取れ」

 吾妻はそう言うと、ぬいぐるみごと二条の手を軽く引き寄せる。仕事終わりの吾妻から、香水と酒の混じった匂いがふわりと漂った。

 二条は少しだけ目を丸くしたあと、くすっと笑った。

「龍臣君、意外と乗ってくれるよね」

「アンタがくだらねえ事するからだ」

「褒めてる?」

「思うように取れ」

 二条は引き寄せられた状態のまま、吾妻の唇に自身の唇を重ねる。

「俺の唇からだよ」

 ぬいぐるみは手からすっと落ち、床に転がった。

 吾妻の視線は二条から逸れず、低く静かに言う。

「……逃げ場はねえぞ」

 二条の胸が小さく跳ねるのが見える。

「え、逃げ場って……?」

 声は少し高く、心臓が早くなるのを隠せない。

 吾妻はゆっくりと指先を二条の顎にかけ、顔を自分の方に引き寄せる。

「お前が仕掛けたんだ。責任取るんだろ」

 二条は小さく息を吐き、唇を軽く重ねる。

「……うん、取る」

 その瞬間、空気が変わる。

 ぬいぐるみの存在はもう忘れられ、二人だけの距離感が静かに、確実に近づいていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ