甘触
二条は以前から興味があった事をやろうかと内心思案していた。
「龍臣くーん」
二条に呼ばれ、煙を吐き出しながら視線を下ろす。
「ちゅ」
ぬいぐるみの口が吾妻の唇に触れる。悪戯した子供のような笑みをしている二条は、ぬいぐるみを掲げたまま吾妻を見上げている。
「はい、キス。一回これやりたかったんだよね」
吾妻は一瞬だけ瞬きをしてから、ゆっくり煙を横に吐いた。
「……それ、何のつもりだ」
吾妻の低い声に対して、二条は首をかしげ無邪気に笑う。
「サービス?」
「ぬいぐるみ越しのか」
「直接でもいいけど」
そう言って、にやりと笑う。吾妻は少しだけ目を細めて、二条の手にあるぬいぐるみを指先で押し下げた。
「それ越しじゃなくても別に構わねえが」
「え、いいの?」
何故今更そんな事を訊いたのか、二条自信不思議だった。
「お前がやったんだろ」
淡々と返されて、二条の方が一瞬だけ言葉に詰まる。
「……そうだけど」
「じゃあ責任取れ」
吾妻はそう言うと、ぬいぐるみごと二条の手を軽く引き寄せる。仕事終わりの吾妻から、香水と酒の混じった匂いがふわりと漂った。
二条は少しだけ目を丸くしたあと、くすっと笑った。
「龍臣君、意外と乗ってくれるよね」
「アンタがくだらねえ事するからだ」
「褒めてる?」
「思うように取れ」
二条は引き寄せられた状態のまま、吾妻の唇に自身の唇を重ねる。
「俺の唇からだよ」
ぬいぐるみは手からすっと落ち、床に転がった。
吾妻の視線は二条から逸れず、低く静かに言う。
「……逃げ場はねえぞ」
二条の胸が小さく跳ねるのが見える。
「え、逃げ場って……?」
声は少し高く、心臓が早くなるのを隠せない。
吾妻はゆっくりと指先を二条の顎にかけ、顔を自分の方に引き寄せる。
「お前が仕掛けたんだ。責任取るんだろ」
二条は小さく息を吐き、唇を軽く重ねる。
「……うん、取る」
その瞬間、空気が変わる。
ぬいぐるみの存在はもう忘れられ、二人だけの距離感が静かに、確実に近づいていく。




