接近
日付が変わってから、もう一時間以上が経っている。深夜二十五時過ぎ。ネオンだけが鮮やかに瞬く通りは、甘い香水とアルコールの匂いが混ざっていた。
二条は壁に背を預け、スマートフォンを見下ろす。 画面には紫羽──神崎龍一の名前。 返信を打ち終えた指先が、僅かに止まった。
不意に、店の裏口が開く。
「はは、だからさ──」
聞き覚えのある声が、夜気に混ざる。
「二条、何だ待ってたのか」
先に気付いたのは吾妻だった。その隣で、紫羽が楽しそうに笑う。
「お姫様、こんな時間に何してんの?」
「お兄様方。仕事終わって、飯食って来た帰りで」
三人はそのまま同じ方向に歩きながら、夜の空気を吸い込む。ネオンの光がまだ残る通りを、自然に肩を並べる形で歩いた。
紫羽は冗談めかして笑いながら二条に話しかけ、吾妻は少しだけ呆れ顔で着いて行く。
やがてアパートの階段に差し掛かる。二条が先に部屋のドアを開け、吾妻と紫羽が後から続く。
自宅から出て来た二条は吾妻の部屋へ入り、ソファに腰を下ろす。
吾妻は煙草を吸いながら、グラスに酒を注いだ。テーブルに二人分のグラスを置く。
「俺…、龍臣君の事、誰にも渡したくないって、思っちゃってて」
その声はいつもの軽口の響きはなく、真っ直ぐに吾妻を見据えていた。
吾妻は否定も肯定もせず、軽く手を重ねて「そうか」とだけ返した。




