ヴァーグナー山
フレイヤの北にあるヴァーグナー山――そこにカンザキの本拠地「アルベリヒ研究所」があるという。
エスカローネたちシュヴェスターはヴァーグナー山を登っていた。
セリオンも同行している。
「う~……なんだか標高が高いわねー。酸素が薄いわー」
アンネリーゼが不平を述べた。
「けっこう登ってきたわよね? このあたりでそろそろ休憩を取りませんか?」
エスカローネが持ち掛けた。
「そうですね。まるでハイキングみたいですし、そろそろ休憩しましょう」
ベアーテが同意した。
「それでいいでしょうか、ブルーダー・セリオン?」
「ああ、それでいい。むしろ休憩を取らなかったから心配していたくらいだ」
「私たちのミッションは主に悪魔との戦いですからね。ハイキングは平時の訓練に組み込まれています」
とマリア。
「じゃあ、あの開けたところで休憩を取ろうよ」
「賛成、です」
みんなは開けた場所で各々休息を取った。
セリオンがエスカローネに近づいた。
「大丈夫か、エスカローネ?」
「ええ、セリオン。大丈夫よ。軍の訓練で鍛えられているから」
「ここは標高が高い。その分だけ酸素が薄い。息は大丈夫か?」
「セリオン、心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫だから。セリオンの方こそ大丈夫なの?」
「ああ。この程度の環境なら訓練で慣れている。俺たちはこれ以上厳しい環境で訓練を受けたことがある。例えば、真冬の雪山に登るとか、ね」
「そんな大変な訓練を経験してきたのね。ふふふ、でもうれしい」
エスカローネは笑った。
「うれしい? どうして?」
「セリオンも私と同じことをしていたんだなって。そう思うと、私たちは似た者同士ね」
「ははは。そうかもしれないな」
「セリオンは確か……」
「宗教軍事組織テンペル」
「そう、テンペルにいるのよね?」
「そこでも悪魔との戦いはあったよ。どちらかと言えば闇の勢力との戦いをしてきた」
「そこでも訓練はあったのね?」
「ああ、そうだ。宗教と軍事が一つに結びついていたからね。訓練は普通にあるよ」
「ところで、そこの二人!」
「何だ?」
「何、アンネリーゼ?」
「二人とも二人の世界に入っているって感じね? やー、見ていてかわいーわー! 恋人同士なんでしょ?」
「恋人同士って……」
エスカローネが照れた。
「ああ、そうだが?」
「ザンクト・ゴットハルト島から帰った時、二人の距離感が急に近づいたと思ったら、いつの間に?」
「アンネリーゼ、余計なことは聞かないでください。私たちは二人を祝福しましょう」
マリアが突っ込んだ。
「うふふふふ。二人とも、おめでとう」
とシャルロッテ。
「!? 気をつけてください! 敵の気配です!」
アウラが大きな声で警告した。
「敵ですって!?」
エスカローネがハルバードを出した。
「敵か」
セリオンが大剣を出した。
「敵!?」
アンネリーゼが曲刀を抜いた。
「現れましたか」
ベアーテが剣を抜いた。
「私たちを狙ってきたようですね」
マリアが槍を構えた。
「じゃあ、このルートで間違いないってことだね」
シャルロッテが弓を取った。
「そういうことですか」
アウラが杖を持った。
敵はエスカローネたちの周囲から姿を現した。
敵の種類はデーモン、カコデーモン、レッサーデーモンであった。
カコデーモンは黒い体をしていて、口からファイアブレスをはく。
レッサーデーモンはやや小柄で、オレンジ色の体をしており、長い爪と翼を持ち、飛行できた。
「囲まれたか……なら円陣を組むべきだな」
「みなさん、円陣を組みましょう!」
ベアーテが命令した。
シュヴェスターたちは円の形になるようそれぞれ立った。
「ウッフフフフフ、ザンクト・エリーザベト修道会のみなさん、そして青き狼さん、ごきげんよう!」
「この声は!?」
「アイトラか!」
とエスカローネ、セリオン。
「私たちの本拠地へようこそ。心から歓迎いたしますわ。この軍勢はあなた方をおもてなしするためのもの。しかと受け取っていただきますわ。どうぞ、ここで果てなさい!」
「フン! 歓迎のおもてなしか。笑えない冗談だ」
「みなさん、敵は魔法陣から出てきていると思われます。ですから、誰かが突出して魔法陣を破壊しなければなりません。セリオンさん、エスカローネ、そしてアンネリーゼ、あなた方にそれをゆだねます。チャンスができたら魔法陣の破壊に向かってください!」
「わかりました!」
「わかった」
「わかりましたよ!」
レッサーデーモンが鋭い爪を振りかぶってエスカローネに襲いかかってきた。
エスカローネはハルバードで突きあげ、レッサーデーモンを貫いた。
デーモンが硬い爪でエスカローネを襲った。
エスカローネはハルバードの斧部でデーモンを斬り捨てた。
「グロース・リヒト・プファイル!」
エスカローネはハルバードを砲撃モードで構えると、先端から大きな光の矢を放った。
光の矢は二体のカコデーモンを貫通した。
別のカコデーモンがエスカローネにファイアブレスをはいた。
エスカローネは聖なる球を形成すると、それをファイアブレスに向けて発射した。
「ハイリヒ・バル!」
ハイリヒ・バルはファイアブレスを押しのけ、カコデーモンに命中、カコデーモンを吹き飛ばした。
エスカローネは聖なる力を収束した。
エスカローネの正面に大きな十字架の線が形づくられた。
その線から聖なる波動が噴出する。
「ハイリヒ・クロイツ(Heiligkreuz)!」
噴出した聖なる波動はデーモンたちを五十体は吹き飛ばした。
カコデーモンがセリオンにファイアブレスをはいた。
セリオンは蒼気を展開すると、その力でファイアブレスごとカコデーモンを斬り捨てた。
セリオンは蒼気を操った。
二体のデーモンがセリオンに対してその爪で攻撃を仕掛けてきた。
セリオンは大剣を左から右に、次いで右から左に振るい、デーモンたちを斬り捨てた。
セリオンを狙って上空からレッサーデーモンが踊り出た。
セリオンは神速の速さでレッサーデーモンを斬った。
さらに別のレッサーデーモンが三体まとめて、セリオンに長い爪で襲いかかった。
セリオンは蒼気を放出すると、三体のレッサーデーモンを一撃で殺した。
地上に落下したレッサーデーモンたちは赤い粒子と化して消滅した。
セリオンは蒼気の力を大剣に収束すると、翔破斬を放った。
すさまじい蒼気の波が地面を駆け抜けた。
デーモンたちは八十体は蒼気の波の直撃を受け、死亡した。
「今だ!」
セリオンは前方に駆け出した。
デーモンたちの死体が消滅していく中をセリオンは走った。
その先にベアーテの予測通り、赤い色に輝く魔法陣があった。
「これだな。破壊する!」
セリオンは大剣を魔法陣の中央に突き立てた。
そうすると、魔法陣はひびを入れて消失した。
「これで、まず一つ」
アンネリーゼは曲刀でデーモンたちを斬り捨てた。
デーモンたちは緑の粒子と化して消えた。
「なめてくれるわね。あなたたちでは私に勝てないわよ!」
アンネリーゼの上からレッサーデーモンが爪を長く伸ばして攻撃してきた。
アンネリーゼは冷静に爪を曲刀で受け止める。
それから力を抜いて爪をそらすと、一刀のもとにレッサーデーモンを斬り捨てた。
デーモンたちが三体同時にアンネリーゼに突撃してきた。
「水波斬!」
アンネリーゼは水の魔力を曲刀に集めると、鋭い水の刃で攻撃した。
デーモン三体をアンネリーゼは一撃で斬り裂いた。
アンネリーゼはデーモンとカコデーモン二体に向けて、水泡弾を発射した。
水の弾がデーモンたちをはじき飛ばした。
「今ね!」
アンネリーゼは背を屈めると、小刻みに早走りをした。
デーモンたちを振りぬく。
「壊れなさい!」
アンネリーゼは魔法陣を認めると、中心部に曲刀を突き刺した。
魔法陣はガラスにひびが入るような音を立てて崩壊した。
ベアーテは剣を水平に構えた。
デーモン三体が走って近づいてきた。
「行きますよ?」
ベアーテは剣を横に薙ぎ、デーモン三体を瞬く間に斬り捨てた。
デーモンたちは緑の粒子と化して消滅した。
次は上空から二体のレッサーデーモンが爪を長くして攻撃してきた。
「撃墜します!」
ベアーテは大きくジャンプして空に舞い上がり、一体を剣で横に斬りつけ、もう一体を剣で突き刺した。
レッサーデーモンはオレンジの粒子と化して消滅した。
マリアは二体のデーモンに向けて槍の突きを出した。
マリアの突きはデーモンの胸を貫通し、そのままデーモンたちは消えた。
マリアの前にいたカコデーモンがマリアに向けてファイアブレスをはいた。
「効きません!」
マリアは魔法障壁を出して、ファイアブレスを防いだ。
マリアが反撃する。
「光投槍!」
マリアはカコデーモンめがけて光の槍を投げ飛ばした。
ぐさりという音が響き、カコデーモンの腹を貫いた。
カコデーモンは黒い粒子と化して消滅した。
マリアは念力で、投げつけた槍を手元に引き寄せる。
デーモンが二体マリアめがけて突進してきた。
マリアは二体のデーモンを横に薙いで突進を止めると、デーモンの首を狙って突きを二回出した。
デーモン二体は粒子化して消えた。
シャルロッテは空中にいるレッサーデーモンを狙って火矢を放った。
威力より、数を重視した射撃だった。
シャルロッテの攻撃は上空にいたレッサーデーモンを撃墜し、地面に叩き落とした。
シャルロッテの攻撃は止まらない。
「大牙!」
シャリロッテは前方にいたカコデーモンに大きな火矢を発射した。
カコデーモンは胸を貫かれ、後方に大きく吹き飛ばされた。
レッサーデーモン三体が上空からシャルロッテに攻撃を試みた。
「外さないよ!」
シャルロッテはレッサーデーモンの動きを予測し、次々と大牙でレッサーデーモンを撃ちぬいた。
「風刃!」
アウラは風刃でデーモン三体をまとめて屠った。
デーモンは倒れ、緑の粒子を噴き上げて消滅した。
カコデーモンがファイアブレスをアウラに向けてはいた。
「無駄です! 風衝!」
風の衝撃がファイアブレスに叩きつけられる。
風衝はファイアブレスを打ち破り、カコデーモンに命中、戦闘不能に追い込む。
「石槍×2!」
アウラは石槍で近づいてきたデーモンとレッサーデーモンを貫いた。
「岩石弾!」
アウラは岩石の弾を空中に形成すると、その岩石をデーモンたちに向けて発射した。デーモンたちは岩石の重みで次々と圧死した。
エスカローネは周囲の状況がよくなったことを認識すると、リヒト・フリューゲルを展開し、高速機動で魔法陣のもとへ向かった。
「あれね! 破壊するわ!」
エスカローネは魔法陣を確認すると、ハルバードの槍部で魔法陣を破壊した。
エスカローネはリヒト・フリューゲルを解除した。
背中から光の翼が消える。
「これで三つの魔法陣すべてを破壊したわね」
「そうだな。じきに敵の数も大きく減少するはずだ」
セリオンが言った。
「ウッフフフフ! 魔法陣はすべて破壊されましたか! ですが勝負はこれからです! エスカローネ、そして狼さん! 私たちのもとにいらっしゃい! そこで決着をつけましょう! ローザリントも待っていますよ! 私たちはこの山の高台にいます! お待ちしていますよ!」
そこでアイトラからの魔法通話は終わった。
「高台で待っている、か。臨むところだ。行こう、エスカローネ!」
「ええ、行きましょう、セリオン! ベアーテさん私たちは高台へ向かいます!」
「わかりました。私たちは残敵の掃討を行います。ここは私たちに任せて先に行ってください!」
ベアーテはエスカローネとセリオンを力強く押し出した。




