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開戦前

男は娘のほおを手で殴りつけた。

「ああ!?」

男の名はアルフレート・カンザキ。オールバックの髪に白衣、セーター、スラックスを着用していた。

彼は茶色の髪に黒い瞳だった。

娘の名はローザリント――アルフレート・カンザキの「娘」である。

「カ、カンザキ様……」

ローザリントは涙目で答えた。

「ローザリントよ、私はヴァルキューレ・エスカローネを殺すよう命じたはずだが……? おめおめと敗れて帰ってくるとは何事だ?」

「カンザキ様! 申しわけありません!」

「フン、謝罪などいくらでもできる。おまえは私の何だ、ローザリント?」

ローザリントは床に倒れつつ言った。

「はい、カンザキ様の部下です」

「それだけか? そうではないはずだ。おまえは私の何でありたいのだ?」

「はい、カンザキ様の『娘』です」

カンザキは玉座に座った。

そして、脚を組んだ。

「そうだ。その通りだ。ローザリントよ、おまえは『私の娘』だ。私はおまえの『父』だ。ローザリント、おまえは私の最も嫌いなことを知っているか?」

「はい。それは命令が遂行されないことです」

カンザキは大げさにため息を出した。

「その通りだ。おまえはエスカローネを殺すよう命じた私の命令を遂行できなかった。そんなざまではおまえは私の愛を失うことになるだろう」

「!? どうか! どうか、それだけは! カンザキ様!」

ローザリントは必死に訴えた。

「では私の気に入る娘になることだ、ローザリント。そうすればおまえは私の愛を得ることになる」

「はい……」

ローザリントは力なくうなずいた。

「では、下がるがいい」

「はい……」

ローザリントは力なく歩いて行った。

カンザキは再び大きなため息を出すと、それから声に出してほくそ笑んだ。

「あらあらまあ、まったくカンザキ様ったら。部下でお遊びなさって……」

「アイトラ」

そこにアイトラがカンザキの横から現れた。

「遊びとはひどい言い様だな、アイトラよ?」

「うっふふふふふ! だってそうじゃありませんか? ローザリントがかわいそうでしたわ」

「何を言う? 私は『父』として当然のことを言ったまでだ。私は『娘』が愛する存在になるから、愛するのであって、私が愛さないならそれは私の『娘』ではない」

「うふふふふ。よくもまあそんなに愛とか、愛するとか言えますね。ああ、かわいそうなローザリント!」

「フッフフフフフ。私の愛は条件的なものだ。無条件の愛ではない」

「まるで暴君的家父長、または専制君主ですわ、カンザキ様?」

「フッ、将来このヴェヌスタシアの王、国家の父になる男にはむしろふさわしいことだ、アイトラよ」

「それにしても、本当にローザリントを愛しているのですか? 私にはそう見えませんが? 私の知る定義では『愛する』とは、『大切にする、大事にする』ことだそうですよ?」

「私の愛はその定義には含まれないものだ。それが私の愛だ。それにしても、軍隊の配備は完了しているか?」

「はい。100パーセント完了しております」

「ヴェヌスタシアはどう出てくると思うかね?」

「そうですね。騎士団も王国軍も首都にある全戦力を投入してくるでしょう」

「そうか。クックック、戦争が楽しみだな、アイトラよ?」

「はい、カンザキ様」


アルフレート・カンザキという男がヴェヌスタシアを侵略しようとしているという報告を受けて作戦会議が行われた。

作戦会議が行われたのは王宮の円卓会議室だった。

会議には以下の人物たちが列席した。

国王ハインリヒ。

王妃クラウディア。

王女マリアムネ。

女騎士ケーテ。

首相ベーネディクト。

軍司令官フランツ。

エルフリーデ大尉。

騎士団長クラウス。

シベリウス教総大司教マルガレーテ。

ザンクト・エリーザベト修道会長ムッター・テレージア。

シュヴェスター長ベアーテ。

シュヴェスターたち エスカローネ、アンネリーゼ、マリア、シャルロッテ、アウラ。

その他セリオン。

とそうそうたる出席者であった。

国王が口を開いた。

「まず、アルフレート・カンザキとは何者かね?」

首相のベーネディクトが答えた。

「はい。カンザキはかつてフレイヤ大学で教鞭をとっていた男です。なぜかはわかりませんが、突如として失踪し、行方不明になっておりました」

「カンザキは何をしたいのか?」

「カンザキの野望はこのヴェヌスタシアを占領し、自らが新しい王になることです。自ら王――支配者――専制君主となり、国を支配することです」

ムッター・テレージアが発言した。

「それでは、もし私たちが負けたならどうなるのですか?」

王妃クラウディアが発言した。

「おそらく、王族はすべて処刑されるでしょう」

ベーネディクト首相が言った。

「それでは今回のいくさ、断じて負けるわけにはいかぬな」

「そうですわ。お父様。今回の戦争は絶対に勝たねばなりません。私たちもただ見ているだけではいけません。負傷兵の看護などはできます」

「姫、あまり無理をなさらぬことです。戦いは私たち騎士団や軍のものにお任せください」

騎士団長クラウスが発言した。

「戦いは我ら軍団兵が担当いたします。ご安心ください。我らは戦争の専門家です。敵に遅れは取りません!」

将軍のフランツが発言した。

「でも対悪魔戦が専門ではないでしょう? 悪魔との戦いなら修道会のシュヴェスターたちの方が得意としているわ」

マルガレーテが発言した。

「確かに我々軍人は対人戦――つまり人との戦いに向いています。しかし敵が悪魔であろうとも、我々は勇敢に戦う自負があります。我らの理念は国の防衛です。つまり国防です」

「軍や騎士団の状況はどうか?」

ベーネディクト首相が尋ねた。

「騎士団は戦意にあふれています。先日の王宮襲撃事件がむしろ戦意をあおっています。最高のコンディションで戦えるでしょう」

「軍は今では対悪魔戦の訓練をしています。それが見事に結実すると思います」

「敵の戦力はどれくらいかね?」

国王の発言。

「目下のところ、敵戦力の数は不明です。敵は魔法陣を使って転移をしてくると思われます」

「つまり、敵に主導権があるわけね?」

マルガレーテが発言した。

「そう、なりますな……」

ベーネディクト首相は苦渋に満ちた顔をした。

その後作戦会議は「国と国民を守る」という方針で一致した。


エスカローネが会議室を出ようとしたところである。

そこである人物に呼び止められた。

「エスカローネ!」

「あなたは、エルフリーデ大尉!」

「久しぶりだな、エスカローネ。軍からいなくなってしまって、心配していたんだ。今はザンクト・エリーザベト修道会にいるのか?」

「はい、そうです。とある悪魔から命を狙われ、それで助けられ、保護されました。ほかにもいろいろあったんです」

エルフリーデは穏やかな目で。

「そうか……近況を聞いて安心したよ。エスカローネ、なんだか少し変わらなかったか?」

「? そうですか? 自分ではよくわからないのですが……?」

「そうだな、言うとすれば大人の女性として魅力的になった、と言ったところか」

「大人の女性ですか? うーん、そうですね。本当にいろいろあったんです。自分の存在について、いろいろと考えさせられました。でも私は多くの人に愛されていることに気づいたんです。それで私は救われました」

「愛されている、か……ふーむ……」

「? どうかしましたか?」

エルフリーデはけげんな顔をした。

「どうも今のおまえからは、女としての自信を感じる。誰かから愛されている気配を――」

「え? そうでしょうか?」

エスカローネは照れた。

「これは男だな? 私が知らないあいだに、男ができたんだろう? 違うか?」

「それは……」

エスカローネは口ごもった。

目をそらす。

「ほうほう……その反応を見ると図星のようだな。誰かは知らないがおまえに男ができるとはな。確かに私がいないあいだにいろいろとあったようだな。ふふふ……まあ、元気でやっているなら、私に文句はない。ではここで失礼しよう。 Bis bald!」

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