対ローザリント 対アイトラ
シュテファンはすべてを語った。
重苦しい雰囲気に包まれた。
ローザリントがそれを破った。
「理解したか、ヴァルキューレ一号エスカローネ?」
「ええ、理解したわ、ローザリント。どうしてあなたが私を姉妹と呼んだのか、その意味が」
エスカローネの瞳に強い意思が宿った。
「エスカローネ……ショックじゃないのかい?」
シュテファンが言った。
「ショックじゃないといえばうそになるわ。でも、私は一人じゃない。私の周囲の人は私を愛してくれた。それはお父さんもお母さんも同じよ。だって、そうでしょう?」
エスカローネはシュテファンとハンナに尋ねた。
それは自分を愛し、育ててくれたことに対する感謝だった。
「エスカローネ……すばらしい人たちに恵まれたのね。私はうれしいわ」
「エスカローネ……今のおまえが周囲の人にどれだけ愛されているか、よくわかったよ。すばらしい友人たちを持ったな。ぼくもうれしいよ」
「私は大切な人たちから愛されているから幸せだと思うの。お父さん、お母さん、こんな私を育ててくれて、ありがとう」
「エスカローネ……」
「あれっ? なんだか、涙が出てくる……」
エスカローネの瞳から、一筋の涙が流れた。
その場が和んだ。
重苦しい雰囲気は消えていた。
「エスカローネ! 私たちはあなたを愛しているわ。だって、本当の姉妹だって思っているから」
アンネリーゼがエスカローネを抱きしめた。
暖かい抱擁だった。
「アンネリーゼ……ありがとう」
エスカローネもアンネリーゼを抱き返した。
「そうですよ、エスカローネ。私たちはあなたを大切に思っています。それを忘れないでください。愛していますよ、エスカローネ」
ベアーテは優しいほほえみを浮かべた。
「ありがとうございます、ベアーテさん。私もシュヴェスターのみんなを愛しています」
「どうやら、俺が心配する必要もなさそうだな。エスカローネの実存は問題ないようだ。よかったな、エスカローネ。おまえは幸せだよ」
「セリオン、ありがとう」
「フン! くだらないヒューマンドラマだな」
「ローザリント?」
ローザリントが荒々しく反論した。
「私にはカンザキ様の愛しかない……わたしにはそれで十分だ」
「ローザリント、あなたは本当は愛されないで育ったんじゃないの?」
「何を言う……!?」
ローザリントが動揺した。
「あなたは本当に愛されたのなら、自分の存在を肯定できるはずよ。あなたからは自分への不信感を感じるわ。それはどうしてなの?」
「フン! そんなことはどうでもいい。今の私たちに必要なのは戦いだ!」
ローザリントが大鎌をエスカローネに向けた。
「前回は手加減したが、今回は本気で行くぞ! 今度は手加減しない! 今度はおまえを殺すよう、カンザキ様から命令を受けている! 私はおまえが姉妹であろうと、カンザキ様のためなら平気で殺せる! 私にとってカンザキ様はすべてだ!」
エスカローネもハルバードを出して、ローザリントに向けた。
「いいわ。私はあなたと戦う、ローザリント!」
「なら、話は早い。亜空間魔法だ」
「!?」
エスカローネは周囲の空間がぐにゃぐにゃと歪むように感じた。
周囲の場所が円形闘技場のような場所に現れた。
「私の方も、亜空間に引きずりこみましょう、狼さん?」
「望むところだ」
セリオンとアイトラが、亜空間へと消失した。
「エスカローネ!」
アンネリーゼが叫んだ。
しかし、エスカローネとセリオンは亜空間魔法に呑みこまれて消えた。
後にはアンネリーゼとベアーテが残された。
「神よ、二人をおたすけください!」
アンネリーゼはひざまずいて、二人の無事を神に祈った。
「行くぞ、エスカローネ!」
「来なさい、ローザリント!」
ローザリントの大鎌が振るわれる。
それはまるでシニガミの鎌を思わせた。
エスカローネはハルバードでローザリントの攻撃をさばいた。
ローザリントは舞った。
ローザリントの鎌が上から下に振り下ろされた。
それをエスカローネはハルバードでガードした。
ローザリントが鎌で水平に薙ぎ払った。
エスカローネはハルバードの柄でガードした。
「光牙!」
ローザリントの鎌に光が宿った。
鎌の刃が牙のようにエスカローネを襲った。
「リヒト・ヘレバルデ!」
エスカローネは光の力をハルバードにまとわせて、それでローザリントの攻撃を防いだ。
「断光牙!」
ローザリントは光の力を収束すると、立て一直線に上から下に大鎌を振るった。
鋭い斬撃がエスカローネに迫った。
エスカローネはハルバードをぶつけて、ローザリントの断光牙をガードした。
「どうした? 先ほどから防戦一方じゃないか? それとも私の力に押されているのか?」
「別にそうじゃないわ。あなたの力を見極めているだけよ」
「フン! ならそうして余裕を見せているがいい! さあ、前回の復習だ! 光裂爪!」
「!?」
ローザリントの鎌の刃に光の爪が形成された。
ローザリントは大鎌を左下から、右上にかけて振るった。
「くっ!?」
エスカローネは押された。
リヒト・ヘレバルデを展開しつつも、光裂爪の鋭い刃に圧倒された。
武器を手にしての白兵戦では、ローザリントの方が上だった。
ローザリントは舞いを踊るかのように大鎌を振るった。
それは見る者を魅了するような美しいダンスだった。
「そらそらそら!」
ローザリントは興奮していた。
これほど楽しい戦いは久しぶりだった。
エスカローネは接近戦は不利と見て取ると、大きくバックステップをして、後方に退いた。
「ゴルデン・リヒト!」
エスカローネは金光の力を集め、波動として撃ち出した。
「リヒト・カノーネ(Lichtkanone)!」
「フン! 無駄だ! 光波動!」
ローザリントは鎌の先端をエスカローネに向けると、光のビームを撃ちだした。
二人の波動が激突し合い、ぶつかり合った。
二人の力は互角だった。
「フハハハハハ! やるな、エスカローネ! 私は楽しくて楽しくて仕方がない!」
「ローザリント……あなたは不幸だわ。その光の力も悪魔のために利用されている。それは光の力の本来あるべき使われ方ではないのを、あなたは知るべきだわ」
「フン! くだらないな! 私にはカンザキ様の愛がある! カンザキ様は私にとってすべてであり、我が父、我が主君! 私はカンザキ様に忠誠を尽くす!」
二つの波動は拮抗していたが、そのバランスに変化が生じた。
エスカローネがローザリントを押し始めた。
「なに!? おのれ!」
ローザリントは力を強めた。
しかし、エスカローネの優勢は変わらなかった。
「これで、終わりよ、ローザリント! グロース・ゴルデン・リヒト・カノーネ!」
エスカローネは膨大な光の力をハルバードの先端に収束した。
エスカローネの体から、光の翼が形成された。
まるで、天使のような翼だった。
エスカローネは集めた光の力で砲撃するかのように発射した。
「なっ!? こんなバカな!?」
膨大な光の力がローザリントに向けて放たれた。
エスカローネの光の力はローザリントの光波動を撃ち破り、ローザリントに直撃した。
「あああああああああ!?」
ローザリントは信じられないとういう表情をして地面に倒れた。
列柱回廊の中庭――別の亜空間に引きずり込まれたセリオンはそこにいた。
セリオンは大剣を抜いた。
「うっふふふふ、ここなら邪魔する人はいないわ。純粋に戦いを楽しむことができるのよ。狼さん、二人きりで『いけないこと』を教えてあ・げ・る」
アイトラが妖艶に言った。
アイトラの武器は鞭だ。
アイトラは武器を解放した。
それを見てセリオンは思った。
アイトラの鞭の長さは三メートルはある。
こちらの間合いの外から攻撃される可能性が高い。
しかし、接近戦に持ち込めば、こちらが有利になる。
「なるほどな。そちらの武器は鞭か。おまえにお似合いだ」
「うふふふ、そう言われるとうれしいわ。狼さんはまだウブなのね。お姉さんが、楽しみや遊びを教えてあげましょうか」
「けっこうだ。そんな事には興味がない」
「そんな事を言わないで。悪いことを覚えるのは存外楽しいことよ?」
「フン! おまえたち悪魔の考えそうなことだ。俺はおまえたちが望むような不信仰にはならない」
「そう、なら楽しんで!」
アイトラが鞭で激しくセリオンを打ちつけた。
セリオンは大剣でガードした。
「くうっ!? 強烈な打撃だ! 直撃は危険だな……」
セリオンは大剣を構えなおした。
「うっふふふふふ! あら、冷静なのね? でも私はもっと情熱的な人が好みだわ、狼さん?」
アイトラはセリオンに向けて鞭を振り下ろした。
セリオンは大剣で防いだ。
アイトラは連続で鞭での攻撃を仕掛けた。
セリオンはアイトラに接近を試みたが、アイトラは巧みに鞭を操り、セリオンの接近を許さない。
「うふふ、行くわよ? 熱鞭!」
アイトラは鞭に魔力を送った。
すると鞭全体が熱を持ち、赤くなった。
「氷結刃」
セリオンは大剣に氷の魔力を集め、氷の刃を形成した。
アイトラは熱鞭を振るった。
セリオンは接近し、アイトラの鞭を氷結刃で、攻撃した。
熱鞭と氷結刃がぶつかり合う。
熱と氷の衝突で、スパークが生じた。
セリオンはアイトラへの接近を考える。
いかにあの鞭の内側に潜り込むか。
それが鍵になる。
セリオンは鞭の範囲外に下がった。
「あら、どうしたの、狼さん? あなたの攻撃は接近しないと届かないわよ?」
アイトラが余裕そうに言った。
「別にこちらに遠距離攻撃がないわけじゃない」
セリオンは大剣に光をまとわせた。
それから、大剣を上から下に振るい、光の刃を飛ばした。
「光波刃!」
さらに横一文字に斬って、光の刃を飛ばす。
光の刃がアイトラに向かった。
アイトラは鞭に魔力を送った。
桃色の妖しい闇が鞭を包み込んだ。
「妖鞭!」
アイトラは妖鞭で光波刃をかき消した。
「うふふ、無力化されたわね、狼さん?」
「その狼さんをやめてもらいないね。俺は青き狼だ」
「あらあら、すねないでくださる? うふふふふふ! でも、そろそろ終わりにしてあげる! くらいなさい! 大蛇!」
アイトラはくねくねとしたバウンドのある鞭でセリオンを狙った。
「くらえ、光子斬!」
セリオンは大蛇に対して、光子をまとった斬撃を放った。
二人の武器がぶつかり合った。
「!? なんてことなの……」
セリオンの光子斬はアイトラの鞭を切断した。
「この鞭は鋼鉄のように硬いのに、それを切断するなんて……どうやらあなたを甘く見ていたようね。今回の勝ちはあなたに譲ってあげる」
亜空間が解除され、二人は現実空間に戻った。




