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ヴァルキューレの起源

その時、アーダルベルトはぐっすり眠っていた。

服は研究服のままだった。

突然電話のなる音がした。

「なんだ……? うるさいな……」

アーダルベルトは電話のコールを無視しようとした。

しかし、コールは鳴りやまない。

「ええい! うるさい! しかたがない、出るとするか……」

アーダルベルトはベッドから出ると、電話機を手に取った。

「はい、もしもし。こちら、ゴットフリートですが?」

「大変だ、アーダル!」

「何だ、シュテファンか……どうしたんだ、いったい……」

アーダルベルトはだるそうに話した。

いったい何をシュテファンは慌てているのか……

「サクラが! エカジェリーナが!」

「おいおい、シュテファン。もっと冷静になってくれ。いったい何なんだ? 何が起きた?」

「サクラとエカジェリーナが、悪魔に殺された!」


アーダルベルトは呆然と妻と娘に再会した。

サクラとエカジェリーナはもう動かない。

何も話さない。

その日の夜に、再び出会った妻と娘は死んでいた。

こと切れた二人の死体と、アーダルベルトは対面を果たした。

アーダルベルト目を大きく開いたままだった。

二人の死体に近づく。

「ウソだろう? なあサクラ、エカジェリーナ? 何か答えてくれ……返事をしてくれ……」

アーダルベルトは最愛の妻と娘の名を呼んだ。

しかし、二人は何も答えない。

「アーダル、残念だが二人は……」

シュテファンが言葉弱く言った。

「なぜだ……? なぜ、こんなことに?」

アーダルベルトはがくりと膝を落とした。

目から涙が流れてくる。

体から力が抜ける。

アーダルベルトは廃人のようになった。

「アーダル……」

その時、シュテファンにはアーダルベルトに声をかける言葉が見つからなかった。


葬儀は近親者のみで簡単に行われた。

シベリウス教の葬儀は火葬である。

死後、善良な魂は天国へ行き、気息の体を与えられ、天国に住まうという。

アーダルベルトはサクラとエカジェリーナの魂が天国に行けるよう祈った。

神に祈るのは久しぶりだった。

彼は不信仰者ではなかったが、神とはどこか距離を置いていたからだ。

葬儀の後も、アーダルベルトは魂の抜け殻のような状態だった。

シュテファンもハンナもアーダルベルトを慰めることができなかった。

アーダルベルトはあれほど探求心があったゲノム――DNAに対しても気が入らなかった。

研究そのものが、中断していた。

アーダルベルトは妻子の死をいまだ、納得していなかった。

なぜ二人は死ななければならなかったのか……

自分がいれば助けることもできたのではないか……

いろんなことが脳裏をかすめたが、どれも彼の心を救うことはできなかった。

そんな時である。

彼は声をかけられた。

「なぜ、サクラとエカジェリーナは死んだ? そんな顔をしているぞ?」

「あなたはアルフレート・カンザキ教授……そんな顔をしていますか、私は?」

カンザキは苦笑した。

「君の妻と娘が殺されたのは実に理不尽だ。彼女たちには殺される理由などなかった。にもかかわらず、あんなに若くして彼女たちは逝ってしまった。私は君に心から同情するよ」

「同情など無用ですよ、カンザキ教授。私には二人が天国で安らかに暮らしていることを願うだけで十分です」

アーダルベルトは顔を下に向けた。

「……本当にそれだけかね、君の気持は?」

「どういうことでしょうか?」

「私は『神』こそ非難されねばならないと思うがね」

「神が、ですか?」

「そうとも。私は二人が神の祝福を受けていたと思う。その二人が、なんと死んでしまったのだ! ほかならぬ神こそ、非難されるべきだ! 事実二人は善良だった。それは君がよく知っていたはずだ。その二人に、このようなひどい運命を与えられたのだ。これが非難されなくてなんと言えよう! 彼女らは神に従順だった。神のしもべを神は省みられなかったのだ!」

カンザキは一気に言い切った。

これは「悪魔」のささやきであった。

悪魔は人を不信仰にいざなうのだ。

「カンザキ教授……私は……」

「科学は人に奉仕すべきだと考えている。君はまだ若いがゲノムの知識は突出している。君が真の力を発揮すれば、二人の死という事実さえ変えられるかもしれない。私はそう信じている」

「カンザキ教授、私に何をしろとおっしゃるのですか?」

「何、自然本姓的なことだよ。君は悪魔が憎くはないかね?」

「悪魔が憎い?」

アーダルベルトはピクリと反応した。

「そうだ。悪魔は君の最愛の妻子を殺したのだ。悪魔への憎しみは自然に怒る感情ではないかね? 悪魔を憎むのだ」

「悪魔を、憎む……」

アーダルベルトの心に負の感情が起こった。

こんな気持ちは今まで感じたことはなかった。

アーダルベルトは初めて憎しみという感情を知った。

そうだ。

悪魔が二人を殺したのだ。

二人がこんなにも早く死ななければならない理由などなかった。

自分たちは深い愛であふれていた。

悪魔はそれを奪ったのだ。

許せない。

いや、許してはならない!

悪魔こそ、殺されるべきだ! 

アーダルベルトの心は負の感情に、憎しみに染められていった。

カンザキはそれを見て内心ほくそ笑んだ。

それからである。アーダルベルトは誰にも相談せず、一人で研究室にこもるようになった。

彼が何をしているのかは、親友のシュテファンにもわからなかった。

二人は疎遠になった。

アーダルベルトは悪魔を殺す生体兵器の開発に着手した。

それは人造で、生命を誕生させることであった。

彼はこの生体兵器を「ヴァルキューレ」と呼んだ。

彼は禁断の領域に、ゲノム編集に手を染めた。

対悪魔用生体兵器をこの手で創る――彼はそう考えた。

彼の心は憎しみに支配された。

その結果二人の子供が人工子宮で誕生した。

ヴァルキューレ一号とヴァルキューレ二号である。

一号はエカジェリーナをベースとして、名はエスカ Eska (天空)とローネ Rone (乙女))からエスカローネと呼ばれた。

二号はサクラのおなかにいた子供に由来し、ローザ Rosa (バラ)とリント Lind (おだやかな)からローザリントと名付けられた。

二人はゲノム編集によって身体強化と、光の力の増幅が行われていた。

二人の子供が誕生したのである。

これを知ったシュテファンは親友のアーダルベルトを非難した。

これは科学者として、生命倫理に違反していると。

シュテファンは愕然とした。

これはゲノム編集ベビーの誕生だったからだ。

そんな時である。

悪魔がこの危険な研究を知ったのは……

悪魔はアーダルベルトと二人のヴァルキューレを危険な存在だとみなした。

アーダルベルトはそれを知った悪魔に殺された。

エスカローネは子供のいなかったシュテファンとハンナに引き取られた。

ローザリントはひそかにカンザキの手に入り、「娘」として育てられることになった。

二人のヴァルキューレは金髪で青い瞳をしていた。

この物語がヴァルキューレの起源、そしてエスカローネの誕生秘話である。

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