ザンクト・ゴットハルト島
「フム、グライアが死んだか……どうやら、あのヴァルキューレの娘にやられたらしいな。フッフフフフ、おもしろくなってきたな」
アルベリヒ研究所――
ここに一人の男がいた。
男はオールバックの髪、白衣にスラックス、ワイシャツと研究者の恰好をしていた。
「そうは思わないかね? シュテファン……ハンナ……対悪魔用生体兵器ヴァルキューレ第一号エスカローネ――彼女がグライアを倒したようだぞ?」
「エスカローネは兵器じゃない。私たちの大切な娘だ。私たちはあの子がどんな出生を持って生まれてきたにせよ、愛している」
「フッ、それは君も同意見かね? ハンナよ?」
「私たちはあの子を引き取り実の娘のように育ててきました。あの子は兵器じゃありません。一人の人間の娘です」
「なるほどな。あくまで娘として扱うというわけか」
「アルフレート・カンザキ(Alfred Kanzaki)様」
そこにローザリントが現れた。
「よく来た、ローザリント。さっそくだが、命令を与えたい」
「はっ、何でしょうか?」
ローザリントはひざまずいた。
「この二人を連れて、ザンクト・ゴットハルト島に向かってくれ」
「ザンクト・ゴットハルト島にですか?」
「エスカローネがヴァルキューレとして覚醒したようだ。彼女は自分自身を知ろうとするだろう。なら、生誕の地に向かうはずだ。おまえはそこでエスカローネを始末するのだ。わかったか、ローザリントよ?」
ローザリントはうなずいて。
「はっ、わかりました。エスカローネを殺せばいいのですね?」
アルフレート・カンザキという男は笑みを浮かべて。
「その通りだ。アイトラ(Aithra)、君も行くかね?」
「はっ、私もまいりとうございます、カンザキ様」
アイトラは桃色の長いウェーブヘアをしていた。瞳の色は藤色だった。
黒い陰謀が渦巻いていた。
ザンクト・ゴットハルト島。
王都フレイヤから西に向かった、海の近くにある島、島の設備は風化しており、誰も近づく者はいなかった。
そんな島にエスカローネ、アンネリーゼ、ベアーテ、セリオンが訪れた。
「ここがザンクト・ゴットハルト島――なんだか、さびれた所ね」
エスカローネが言った。
「あれ? あそこにあるのが研究棟じゃないかしら? あそこに行きましょう!」
アンネリーゼが指で指した。
「そうですね。そうしましょう」
ベアーテがうなずいた。
「ここにエスカローネの出生の秘密があるのか……」
セリオンがつぶやいた。
4人は研究棟の中に入った。
その中は壊れた設備ばかりだった。
ガラスの破片や、ガラスの容器、放置された液体があった。
正常に機能している設備はなさそうだった。
「なんか、過去の実験跡ののような感じね」
アンネリーゼが漏らした。
「フン! やっと来たか。長らく待たされたぞ」
「ローザリント!?」
エスカローネが言った。
「エスカローネ!」
「!? お父さん! お母さん!」
「フフフ、私は初めまして。私はアイトラ。アルフレート・カンザキ様の部下です。ローザリントも同じですよ」
妙齢の美女が言った。
「アルフレート・カンザキだと? 何者だ?」
セリオンが大剣を向けた。
「それは我々の主であり、主君であるかたです。悪魔の王となられる、ね」
アイトラが言った。
「悪魔の王だと? 本気でそんなことを考えているのか?」
セリオンがいぶかしんだ。
「そうですよ。近いうちにそうなられます。ヴェヌスタシア全土はカンザキ様の支配下に置かれ、悪魔にして主人、すなわちカンザキ様が王となられるのです」
「気が狂っている」
「ウフフフフ。確かにそうかもしれませんね、セリオンさん。ですが、我々は王都フレイヤを制圧できる戦力を持っております。それもすでにフレイヤ市内に一定の数は配備されています。この軍団は、近いうちに実働する予定ですよ」
「本当にヴェヌスタシアと戦争をしたいらしいな、そのカンザキとかいう奴は?」
「その時は戦場でお会いできることを楽しみにしていますよ、『青き狼』殿?」
「話を振り出しに戻そう。今の私たちには話さなくてはならないことがある。そうだろう、エスカローネ? エルフェンクランツ夫妻?」
「それは……」
シュテファンがうつむいた。
シュテファンとハンナは手を手錠で拘束されていた。
「あなた……」
ハンナがシュテファンに近づいた。
「さあ、ヴァルキューレの起源を語ってもらおうか。そのために私たちはおまえたちを、こんなところに連れてきたのだから……」
エスカローネは正面から両親を直視した。
「お父さん、お母さん……話して……どうして私が生まれたのか。そしてヴァルキューレとはなんなのか……」
シュテファンは悩んだ。
シュテファンは目をつぶった。
しかし、決心して話し出した。
エスカローネ誕生の物語を……




