グライア
一方、グライアは――
グライアは王宮の玉座の間にいた。
灰色の髪に灰色の瞳の老婆。
赤い、フード付きの服を着ている。
鼻先がとがっていた。
「イーヒヒヒヒヒ! ガーゴイルは倒されても、倒されても、湧き出てくるよ! なにせ無限だからねえ! いつまで持つか、楽しみだねえ! イーヒヒヒヒヒ! ん?」
グライアは何かに気づいた。
何か強大な魔力反応が近づいてくる。
「おやあ、これは……誰か近づいてくるね。かなりの魔力だよ……フフン! どうやらあたしを狙っているようだねえ! さてどんな奴らが来るかな?」
グライアはその瞳を扉の前に向けた。
右手の水晶球をかかげる。
すると、扉がバタンと開いた。
カーペットの上にエスカローネとアウラが現れた。
「索敵の反応はあの女から出ています! 間違いありません! 彼女がグライアです!」
「あなたがグライア!?」
グライアはニヤリと笑い。
「ああ、そうだよ。あたしが悪魔グライアさ。んんんん? あんたはもしかして、エスカローネ・エルフェンクランツなのかい?」
「そうよ! どうして私の名前がわかったの!?」
「イヒヒヒヒヒヒ! イーヒヒヒヒヒヒ! これは最高だね! 飛んで火にいる夏の虫とはこのことさね! よくお聞き! メドゥサに命じてあんたの命を狙わせたのはほかならぬ、このあたしさ!」
「あなたが、私を!?」
「そうさ! あんたはまだ自分のことを知らないようだけど、そんなことはどうだっていいんだよ! あんたはあたしら悪魔にとって危険すぎる! だからあんたには死んでもらうよ!」
グライアは水晶球をかざしてぐるぐると回転させた。
「どうして、あなたは私の命を狙うの!? あなたは私の何を知っているの!? 答えて!」
エスカローネはグライアに詰問した。
「フフン! 少しだけ教えてあげようかい……聞いときな。『ヴァルキューレ』」
「ヴァルキューレ?」
エスカローネは怪訝に感じた。
ヴァルキューレ――
確かにグライアはそう言った。
しかし、エスカローネにはこの言葉に思いあたるふしがなかった。
「ヴァルキューレ……それと私に、何の関係があるの!?」
エスカローネは問い詰めた。
「フン! それはあの世でゆっくり考えな! あんたにはここで死んでもらうよ!」
グライアの右手の水晶球が禍々しい闇をまとった。
「死にな! 魔瘴弾!」
そのあと、グライアの水晶球から放電する、闇の弾が撃ちだされた。
「私が迎え撃ちます! 風衝!」
強力な風の衝撃が魔瘴弾にぶつけられた。
しかし、魔瘴弾は風の衝撃を破り、エスカローネの方向へと飛来してきた。
「! まずいわ! リヒト・プファイル!」
エスカローネがハルバードの先端から光の矢を放った。
光の矢は魔瘴弾を貫き、霧散させた。
「どうやら、私の魔法とはあまり相性が良くないようですね。反対属性である光が有効なようです。ですが、それでも負けません! 石弾!」
アウラは石の塊をいくつもグライアに向けて撃ちだした。
「フン! 当たるもんかい!」
グライアは幻影を伴うワープ移動でアウラの石弾群を回避した。
そのあいだにエスカローネは接近した。
手にしたハルバードでグライアを斬りつける。
グライアは手にした、水晶球でガードした。
「フフン! これしきの斬撃なんてへでもないさね!」
エスカローネはハルバードを振るって攻撃した。
「まだ、これからよ!」
しかし、ことごとくグライアの水晶球でガードされてしまった。
「これでも、くらいな!」
グライアは水晶球を直線的に撃ちだした。
エスカローネはハルバードをぶつけて水晶球を叩き落す。
だが、それだけでは済まなかった。
水晶球は下から上方へと動き出し、エスカローネを攻撃してきた。
「くっ!?」
エスカローネは後方に下がって、かわした。
グライアの水晶球は実に厄介だった。
グライアは自在に水晶球を操れるらしい。
この水晶球は単純な動きも、複雑な軌道も取れる力を持っているようだ。
さらにグライアはフェイントをかけて水晶球を操ってくる。
エスカローネはこの水晶球に手を焼いた。
水晶球の攻撃には翻弄されつつも、その攻撃の規則性をじょじょに見破っていく。
そしてついにエスカローネの斬撃はグライアに届いた。
グライアはワープ移動で後方に下がった。
「ちっ! やってくれるじゃないか! よくもやってくれたね! まだまだ勝負はこれからだよ!」
グライアが水晶球を取り寄せた。
「この攻撃をくらいな! 闇黒雷!」
グライアの水晶球から黒い雷電が放出された。
黒い雷電がエスカローネを襲う。
「リヒト・ヘレバルデ!」
エスカローネは光でハルバードを包み、闇黒雷に対して防御した。
エスカローネはじょじょにに押された。
闇黒雷に侵されていく。
「エスカローネ!? これでもくらいなさい! 石槍!」
アウラが後方からグライアに向けて石の槍を放った。
「ちい!」
グライアは闇黒雷を中断し、ワープ移動で石槍をよけた。
「やってくれるじゃないか、小娘! ならこれでどうだい!」
グライアは左手をかざした。
すると地面から針のようなものが出てきた。
「!? 何、これは?」
「気をつけてください! あの針はただの針ではありません! 魔力を持っています!」
アウラが助言した。
「これは地雷針だよ! わかりやすく言えばトラップさね! これであんたたちの動きを封じるのさ! それだけじゃないよ! 見ているがいい!」
グライアは浮遊した。
魔力を手にグライアは集める。
「さあ、これで逝きな! 闇黒雷・絶!」
グライアからすさまじい黒い雷電が放たれた。
黒い雷電は地雷針に当たり、地雷針の周囲にスパークを巻き起こした。
エスカローネもアウラもとっさに魔法障壁を展開した。
しかし、ダメージは障壁を越えて及んだ。
「「きゃああああああ!?」」
「フン、しまいにしてあげるよ! 岩石弾!」
グライアの上方に大きな岩石の球がいくつも出現した。
エスカローネとアウラに狙いが定まる。
「死にな!」
グライアは岩石弾を放った。
「はああああああ!」
エスカローネは岩石をリヒト・ヘレバルデで斬り裂いた。
「旋風陣!」
アウラは風の魔法で岩石を砕いた。
さらにアウラは癒しの風を起こした。
エスカローネを回復させる。
「アウラ、ありがとう!」
「どういたしまして! 今度はこちらから攻めます! 旋風陣・巻!」
アウラの杖から回転する風が直線的に放たれた。
「フン! 甘いね! 死霊破!」
グライアは水晶球から怨霊のような弾を撃ちだした。
死霊破と旋風陣・巻が激突した。
二人の攻撃はぶつかり合い、火花が生じた。
そして死霊破が旋風陣・巻を打ち破った。
「!? きゃああああああ!?」
死霊破は威力こそ削られたものの、アウラに命中した。
アウラはその場に倒れた。
「アウラ!」
エスカローネは叫んだ。
「邪魔な小娘は倒れたようだねえ! 次はあんたの番だよ!」
グライアは水晶球に禍々しい魔力を集めた。
「逝きな! 闇黒雷!」
黒い雷撃がエスカローネに迫った。
エスカローネはリヒト・ヘレバルデでこの攻撃を防いだ。
しかし、じょじょに闇黒雷が押してくる。
「さあ、これで終わりだよ!!」
「くうっ!? で、でも!」
エスカローネは光の力を収束させた。
そうして突きの構えを取り、光の突きを繰り出した。
「リヒト・シュトース!」
「!? なんだって!?」
黒い雷撃は退けられ、光の突きがグライアに迫った。
グライアは水晶球でガードしたものの、リヒト・シュトースの威力を殺しきれず、背後に吹き飛ばされた。
「がはっ!?」
グライアは壁に叩きつけられて床に落ちた。
「ぐうう……まさか、このあたしが……」
グライアの水晶球にはヒビが入っていた。
「ぐぐぐ……よくもやってくれたね……だが、これでおめおめと引き下がるあたしじゃないよ……奥の手を取ってあるのさ……」
グライアはよれよれと立ち上がった。
「そうさ! 現れな! 魔竜テュフォーン(Typhon)!」
大きな黒い淵が出現した。その淵から一匹の大きな竜がその上半身だけ姿を現した。
全身からとげのような突起が生えていた。
「これは……」
「イヒヒヒヒヒ! これは魔竜テュフォーンさね。このあたしのペットだよ! さあ、テュフォーン! おまえの叫び声を聞かせてやりな!」
テュフォーンは大きな口を開けた。
エスカローネは本能的に後ろに下がった。
テュフォーンは叫び声を上げた。
「!? 体が!?」
エスカローネは全身が金縛りの状態になった。
「イヒヒヒヒヒ! どうだい! こいつの声には標的をすくませる効果があるのさ! さあ、テュフォーン! おまえのブレスを見せてやりな!」
「!?」
テュフォーンは口を開けた。
テュフォーンの口元に闇が収束されていく。
テュフォーンは闇のブレスをはいた。
それはエスカローネに直撃した。
「きゃああああああああ!?」
エスカローネはかろうじてハルバードで地面を支えた。
「イーヒヒヒヒヒ! さあ、あたしのかわいいテュフォーン! エスカローネにとどめを刺しておしまい!」
テュフォーンは右手を上げた。
それからエスカローネに叩きつけようとした。
右手が降り下ろされた。絶体絶命のピンチが訪れた。
刹那、一人の人間が割って入った。
彼は片刃の大剣でテュフォーンの右手を受け止めた。
大剣には蒼気がまとわれていた。
「セリオン!」
エスカローネは愛しい人の名を呼んだ。
「無事か、エスカローネ?」
「え、ええ。大丈夫よ……どうして?」
エスカローネはきょとんとした。
全身が脱力する。
「悪魔の気配を感じたんだ。王都フレイヤから不穏な気配を。俺はそれに気づいて王宮までやって来たというわけさ」
「そうだったの……」
エスカローネはほっとした。
「何だい、あんたは!? いったいどこから出てきたんだい!?」
グライアは混乱した。
「俺か? そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はセリオン。セリオン・シベルスク。『青き狼』だ」
「なんだって!? 青き狼!? あのシベリアの英雄かい!?」
グライアは驚愕した。
グライアはセリオンのあだ名を知っていた。
知ってはいたが眉唾だと思っていた。
実在するはずがないと思っていたのだ。
「『青き狼』セリオン・シベルスク――まさか本当に実在するとはね!?」
「なんだ、俺のことを知っているのか。なら話は早い。エスカローネに危害を加えようとしたその罪――しっかりと払ってもらうぞ?」
セリオンは右腕に力を入れた。
さらに大剣――神剣サンダルフォン(Sandalphon)に力を込めた。
セリオンとテュフォーンの右手との均衡が崩れた。
セリオンがテュフォーンの右手を押し上げていく。
それを見たグライアが。
「何をしているんだい!? テュフォーン! おまえの力はその程度かい!? そのくそ生意気な小僧を押しつぶしておしまい!」
テュフォーンはグライアの「命令通り」右手に力を込めた。
が、セリオンを押しつぶすことはできなかった。
「そろそろ本気で行くぞ? 蒼気!」
セリオンの体から、凍てつく闘気がほとばし出る。
セリオンから放出される蒼い闘気はテュフォーンの右手を一気に押し上げた。
「なにをやっているんだい、何を! おまえはそんなに非力なのかい!?」
グライアは悪態をついた。
セリオンは膨大な蒼気をテュフォーンめがけて叩きつけた。
テュフォーンは苦しくて喘ぎ声を上げた。
「どうやらこいつはおまえに操られているようだな。操り人形のペットか。いささか哀れみを覚えるな」
「フン! あたしの嗜好にケチをつけないでもらいたいねえ! テュフォーン! 小僧に闇のブレスをはいてやりな!」
テュフォーンは大きな口を開き、闇の力を収束した。
闇の力が高められていく。テュフォーンは闇のブレスをはいた。
「甘い」
セリオンは大剣を光輝かせると、十文字に大剣を振るい、闇のブレスを切断した。
「光輝刃!」
セリオンの光輝刃が闇のブレスを雲散霧消させた。
「そんな、バカな!?」
グライアが目を見開いた。
「今度はこっちから行くぞ! 雷鳴剣!」
セリオンは大剣に雷の力を集めた。
大剣から雷が放電する。
「くらえ!」
セリオンはテュフォーンに近づくと、剣を振り下ろし、雷電をテュフォーンの体に叩きつけた。
テュフォーンの体を雷がしびれさせた。
雷電のせいで、テュフォーンについていた首輪が砕け散った。
「しまった!? 首輪が!?」
「なるほどな。あの首輪で魔竜をコントロールしていたのか」
「ギャオオオオオオ!」
テュフォーンが咆哮した。
テュフォーンは闇のブレスをほかならぬグライアにはきつけた。
グライアはワープ移動で回避する。
「ちいっ! このタコが!? いったいどこを狙っているんだい!? 敵はあっちだよ!?」
グライアはテュフォーンに罵声を浴びせかけた。
「あらつられた恨みか、自業自得だな。だが、このまま魔竜を放っておくわけにもいかない。これで最後だ! 雷光剣!」
セリオンは大剣に雷を収束させると、大剣をテュフォーンの体に叩きつけた。
すさまじい雷の衝撃がテュフォーンを襲った。
テュフォーンは全身を緊張させると、ドスンと倒れて動かなくなった。
テュフォーンの体は黒い粒子と化して霧散した。
「くっ!? テュフォーンが倒されるとは!? しかーし!」
「!」
グライアが水晶球をアウラのもとに送った。
「この娘はもらっていくよ! 返してほしければ、青き狼なしであたしたちのところまで来な!」
グライアがそう言うと、アウラの体が消えた。
グライアも姿を消していた。
「アウラ!」
「逃げた、か」
エスカローネはセリオンに近づいた。
「セリオン、助けてくれてありがとう」
エスカローネの頬は赤かった。
「エスカローネ」
「あ……」
セリオンはエスカローネを抱きしめた。
「よかった。エスカローネが無事で」
「……でも、アウラがさらわれてしまったわ。どうしよう、セリオン?」
「あらあら、二人とも熱いわねー! こんなところでいちゃついているなんて!」
アンネリーゼが言った。
そこにザンクト・エリーザベト修道会のシュヴェスター一同が来た。
アンネリーゼ、ベアーテ、マリア、シャルロッテ――
セリオンはエスカローネから離れた。
「みんな……」
「どうやら敵の首領は倒せたようですね。ガーゴイルの発生は止みました」
とベアーテが。
「ところでアウラはどうしたの? どこにもいないんだけど?」
アンネリーゼの質問。
「さらわれてしまったわ。アウラをさらったのはグライアという悪魔の老婆よ」
「なんですって!?」
「……そうですか」
「アウラが!?」
「敵は何が目的なんでしょうか?」
とマリア。
「一つだけわかったことがあるの、アンネリーゼ」
「それは何?」
「私の命を狙ていたのはあの、グライアだということよ」
「グライアが!?」
「そうか……あの悪魔がエスカローネを殺そうとしていたのか」
そこに一枚の紙が上から落ちてきた。
「紙だわ。何かしら?」
エスカローネはこの紙を手に取った。
「これは!?」
「? どうしたの、エスカローネ?」
アンネリーゼが紙を覗き見た。
それにはこう書かれていた。
「アウラ・コンコルディアとかいう娘はあたしが預かった。
返してほしければ、青き狼なしでリューベヒ湖まで来な。そこに停泊しているゴルゴン号の中まで来ることだね」
紙は読まれると端から燃えつきた。
「エスカローネ、行くのか?」
セリオンが心配そうに尋ねた。
「ええ、行くわ。アウラは私たちの大切な仲間よ。必ず、取り返してみせるわ」
「俺なしで行くのは危険すぎる。せめて俺も……」
「ありがとう、セリオン。でもあなたがいっしょに来たらアウラは殺されてしまうかもしれない……だから、私たちだけで行くわ」




