王宮
エスカローネたちは王都フレイヤにある王宮を訪れた。
王宮は壮麗な作りで、普通の人にはやや近づきがたかった。
「は~……さすが王族が住んでいるだけあって美しい作りね。思わず見とれちゃうわ」
アンネリーゼが嘆息した。
「アンネリーゼ、気をつけなさい。私たちは王宮を訪れたんですよ。観光で訪れたのではありませんから」
アンネリーゼはベアーテから注意された。
「はいはい、わかってますよ」
「では、衛兵に訪れた目的を伝えましょう。……失礼します。ザンクト・エリーザベト修道会のシュヴェスター一同です。騎士のケーテ殿に取次を依頼したいのですが」
槍を持った二人の衛兵が敬礼した。
「はっ! お話はうかがっております! 少々お待ちください!」
「では、お願いします」
一人の衛兵が王宮の門から姿を消していった。
「ベアーテさん、すごいですね」
エスカローネが言った。
「何がですか?」
「だって、王宮の衛兵と普通にコミュニケーションが取れるんですもの……私だったら緊張してうまく伝えられないと思います……」
「うふふふ、私はこういうことには慣れているだけですよ」
そんなことを話して待っていると、長身のケーテが門の前に姿を現した。
「みなさんに平安あれ! お待ちしておりました。では、王宮にお入りください。私が案内を務めます」
ケーテはそう言うと、一同を率いて、王宮の門を越えて王宮の中に入っていった。
エスカローネたちはケーテに導かれ、王宮の一室に案内された。
その一室は家具・調度品であふれ、ソファーが備え付けられていた。
そのソファーに一人の婦人が座っていた。
「マリアムネ姫! ザンクト・エリーザベト修道会一同を案内してまいりました!」
ケーテが敬礼した。
「ご苦労様、ケーテ。もう下がっていいですよ」
貴婦人がソファーから立ち上がった。
貴婦人は長いレモン色の髪に緑の瞳、胸元の空いた白いドレスを着ていた。
「みなさま、初めまして。マリアムネと申します。本日は皆様と会えて光栄に存じます。本日は皆様のご活躍を顕彰する日でございます。式典まではまだ時間がありますので、この部屋で、どうかごゆっくりとおくつろぎください」
そう言うとマリアムネは一同と握手を求めてきた。
ベアーテ、アンネリーゼ、マリア、シャルロッテ、アウラ、エスカローネの順で握手した。
「あら? あなたは?」
マリアムネ姫はエスカローネに目を止めた。
「? 私ですか?」
「あなたは修道服を着ていないんですね。来ているのは軍用スーツのようですが?」
マリアムネ姫が至極まっとうな疑問を口にした。
「彼女は理由があって、同修道会が保護しているのです。それだけでなく、最近のミッションにも協力してもらっています。私たちと同じく、シュヴェスターとして生活しております。彼女も私たちの、立派な仲間です。それは胸を張って言えます」
ベアーテが説明した。
「へえ、そうなんですか。お名前は何とおっしゃるの?」
「はい、エスカローネです。エスカローネ・エルフェンクランツと申します」
「そうですか。エスカローネさんといいますのね。初めまして」
マリアムネ姫は両手で、エスカローネの手を包み込んだ。
「初めまして、マリアムネ様」
エスカローネは緊張した。
軍にいたため式典には慣れているが、王族と会話をするのはこれが初めてだ。
心拍数が上がる。
「それでは、みなさん。ごゆっくりとお過ごしください」
そう言うと、マリアムネ姫は扉から出て行った。
しばらく沈黙が訪れる。
それを破ったのはアンネリーゼだった。
「ぷはー! はああああ! すっごく緊張した! 高貴な人と話をするのは疲れるわー!」
アンネリーゼがソファーに腰かけた。
それに対してマリアが。
「アンネリーゼ、あなたはほとんど話していないじゃないですか。ここは王宮の中なんですよ。いくら何でもくつろぎすぎじゃないですか?」
「確かに、アンネリーゼは緊張感がなさすぎだよ。ここは王宮。私たちは客だけど、品位は保たないとね」
シャルロッテが突っ込んだ。
「私もそう思う。アンネリーゼは気を引き締めたほうがいいです」
そう、アウラが告げた。
「何よ、みんな。まるで私が緊張感のない場違いみたいじゃない! ね、エスカローネ?」
「…………」
エスカローネは扉の方を眺めて立っていた。
「? エスカローネ? どうかしたの?」
「あ、ごめんなさい。何か言った?」
「エスカローネ、どうかしたのですか?」
とベアーテが。
「いえ、何でもないんです。気にしないでください」
「そうですか、では私たちもソファーに座って落ち着きましょう。マリアムネ姫が言う通り、お茶でも飲んで気分をやわらげましょう」
ベアーテがそう言うと、一同はソファーに腰を下ろした。
授賞式が始まった。
エスカローネたちは王宮のホールに集まって。一列に並んだ。
賞の名は「マリアムネ賞」
特に功績のあった国民にマリアムネ自ら贈る賞である。
今回はザンクト・エリーザベト修道会のシュヴェスターたちが選ばれた。
この式典には国王ハインリヒ(Heinrich)や王妃クラウディア(Klaudia)が列席していた。
騎士団長のクラウス(Klaus)や女騎士のケーテも礼装で参加していた。
式典は、同修道会シュヴェスターたちの功績がたたえられ、一人一人にメダルが授与された。
ベアーテ、アンネリーゼ、マリア、シャルロッテ、アウラ、エスカローネの順にメダルがマリアムネ姫の手から首にかけられた。
授賞式は予定通り終わるはずだった。ところが、そこで不測の事態が発生した。
「親愛なるヴェヌスタシア国民にして、王都フレイヤ市民の皆様。ごきげんよう! あたしは悪魔のグライア。対悪魔修道会の功績をたたえるなんてやってくれるじゃないか。本物の悪魔が知らないと思ったかい? 残念だろうけど、そうはいかないねえ! 名誉あるマリアムネ賞の受賞なんてへどがでるさね!
親愛なる国民のみなさまにはなまの悪魔のことを知っていただくよ! さあ、出ておいで!」
パリーンとガラスの窓が割れた。
そこから悪魔のしもべが現れた。
悪魔のしもべは灰色の体に翼を持ち、鋭い爪を備えていた。
「あれは、ガーゴイル!」
ベアーテが叫んだ。
ガーゴイルは窓から侵入すると、列席者に襲いかかった。
「みんな! 列席者を守りましょう!」
ベアーテが声を張り上げた。
「わかりました! 迎撃します!」
エスカローネはハルバードを出し、ガーゴイルに戦いを挑んだ。
エスカローネのハルバードがガーゴイルの胸を貫いた。
アンネリーゼは腰に差してあった曲刀を抜いた。
「グライアですって? なめたことしてくれたじゃない! 私たちシュヴェスターの力、思い知らせてあげるわ!」
アンネリーゼはダッシュして曲刀を二回振るった。
すると、ガーゴイルの首が切断され、地面に転がった。
マリアは槍を出した。
シャルロッテは弓を構えた。
アウラは杖を持った。
ベアーテは剣を取った。
会場では至る所で悲鳴が上がった。
市民たちはパニックに陥った。
エスカローネたちは悪魔のしもべガーゴイルたちを迎撃した。
ベアーテの剣がガーゴイルの首を斬り捨てた。
たちまちガーゴイルが倒れる。
「王族の方々は無事でしょうか!?」
ベアーテはエスカローネと背を合わせた。
「騎士団本格的に動き始めたようです。見てください! 国王陛下や王妃様、マリアムネ姫は無事です!」
マリアムネ姫は剣を抜いたケーテに守られていた。
「マリアムネ姫様! お下がりください! ここは私が守ります!」
「ケーテ!」
「怪物ども! 姫様には指一本触れさせはしない!」
ケーテは二体のガーゴイルを鋭い刃で斬り捨てた。
一方、国王夫妻は騎士団長のクラウスが守っていた。
クラウスは剣を振るっていた。
ガーゴイルをまったく寄せ付けない。
クラウスは若干20代の若さで騎士団長になったエリートである。
彼は赤い髪に緑の瞳をしていた。
「騎士たちよ、列席者の安全が最優先だ! 日ごろの訓練の成果を示せ!」
騎士たちが扉の向こうから現れてくるガーゴイルと戦い始めた。
戦いはヴェヌスタシア側が優勢だった。
シャルロッテは火矢を連発した。
何体ものガーゴイルの顔を矢で射抜いて行く。
「私たちが優勢ですが、敵は途切れることを知りませんね。このままでは戦いの主導権を敵の手に渡してしまいます」
アウラが言った。
アウラは風刃でガーゴイルの首を切断した。
しかし、倒しても倒しても敵はやってくる。
「このままじゃ、じり貧だよ!」
シャルロッテが漏らした。
「アウラ、グライアの居場所がわかる?」
「索敵に集中できれば可能です」
「たぶん、グライアを止めないと無限にガーゴイルは出てくるよ。アウラ、エスカローネといっしょに頼める? グライアを叩いて!」
「わかりました」
アウラがうなずいた。
「エスカローネ!」
「!? アウラ? どうしたの?」
「敵は無限に湧き出てきます! このままでは私たちが押されるのも時間の問題でしょう! 私は一番索敵が得意です! 私がグライアを索敵しますので、同行をお願いします!」
「エスカローネ、私からもお願いします! アウラと共に敵の首領を倒してください!」
ベアーテがエスカローネの後ろから言った。
「わかりました! グライアを狙います! アウラ、案内して!」
「はい!」
エスカローネとアウラの二人は走り出した。




