デート2
次の日の朝、エスカローネは9時に正門のところにやって来た。
服は相変わらず、軍用スーツだった。
エスカローネは眠たかった。
昨日は興奮してなかなか眠れなかったのだ。
エスカローネは眠たい目をこすった。
期待に胸をふくらませる。
「どうしよう……なんだかドキドキしてきたわ……」
エスカローネにとってこれは人生初のデートなのだ。
ドキドキしないわけがない。
「エスカローネ!」
「あ、セリオン!」
そこにセリオンがやって来た。
「トレードマークの青いマフラーが目に付く。
時間は9時だった。
服装は彼も相変わらず、紺の戦闘服だった。
「エスカローネ、迎えに来たよ」
「ええ、お迎えありがとう」
「じゃあ、さっそく出発しないか?」
「ええ、そうしましょう」
セリオンはエスカローネの手を握った。
「あ……」
「嫌か?」
エスカローネは赤くなった。
「ううん、嫌じゃないわ。むしろ、うれしい……」
エスカローネはセリオンの手のぬくもりを感じた。
そして自分からも握り返した。
「行こうか」
「うん」
まず二人は映画館を訪れ、映画を見た。
その後、レストランに入り、昼食を取った。
それから二人はブルーメン・ガルテンを訪れた。
「ここは色とりどりの草花であふれているな」
「うふふ。そうね。本当に花がきれい」
エスカローネは笑顔でうなずいた。
「エスカローネは花は好きか?」
「ええ、好きよ。どうして?」
「いや、特に理由があるわけじゃないんだが……ブルーメン・ガルテンに連れてきてよかったと思っただけさ」
「そうね。私も一人だったらこんなところには来なかったかもしれないわ」
「じゃあ、二人で来てよかったな」
「うん、セリオンといっしょだからよ……セリオンといっしょだから、なにもかも新鮮に見える……」
「エスカローネ……俺もうれしいよ」
二人はいっしょに歩き出した。
再び手を握る。
「あそこのベンチで少し休まないか?」
セリオンはベンチを指さした。
「ええ、そうしましょう」
エスカローネも応じた。
二人はベンチに腰掛けた。
「エスカローネは少し、疲れてはいないか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「そうか。それならいいんだ。それにしても……」
「それにしても?」
エスカローネは疑問を口にした。
「こうしてエスカローネと過ごすのは、小さいとき以来だと思ってね」
セリオンが真剣な顔をした。
「そうね。、まるで昔の思い出の中にいるみたい……」
エスカローネは感慨深くつぶやいた。
「あれから、どれだけの年月が過ぎ去ったことだろう……10年前か、エスカローネと別れたのは……」
「そうね。当時は悲しかったわ。だって私はずっとセリオンといっしょにいられると思っていたんだもの」
「ごめんな。ちょうどあの時、つまり10年前にテンペルがシベリアにできたんだ。テンペル――宗教軍事組織にしてシベリア人の新しい信仰共同体。俺と母さんは新しくできたテンペルから呼ばれたんだ。だから俺と母さんはテンペルに入るため、ヴェヌスタシアを後にした」
「そうだったの……そこではどんなことをしていたの?」
「ああ、軍事訓練や宗教教育に没頭していた。最初は構成員の『戦士』になった。その後、修練を積み、『騎士』になった。俺はテンペルの聖堂騎士団長からじきじきに訓練を受けた。そうして俺は聖堂騎士団の最高位の『聖騎士』になった。きつい訓練だったけど、今ではとても大切な思い出だ。テンペルにはアンシャルという人がいてその人とも良く修業したし、良い教育を受けた。アンシャルは俺の母さんの兄なんだ」
「へえ、……そうだったんだ」
「それもテンペルに言った理由の一つさ。母さんの兄のアンシャルから、テンペルに来ないかと誘われたんだ」
「そうだったの……」
「エスカローネはどうしていたんだ?」
「え? 私?」
「そうだ。俺は、エスカローネと別れた後、エスカローネがどうしていたか知りたい」
セリオンはエスカローネの顔を見た。
「私はね、普通に小学校、中学校、高校と進み、高校卒業後、軍に入ったの。もともと身体能力が高かったから、訓練も演習もうまくこなせたわ」
「そうか……」
「ねえ、セリオン?」
「? なんだ?」
「セリオンは私のこと覚えていてくれた?」
「ああ、俺も覚えていたさ。忘れることなんてできはしない」
「私もあなたのことをずっと覚えていたわ」
「エスカローネ……」
二人は互いにお互いの顔を見合わせた。
じっと見つめ合う。
ムードが高まっていく。
と、そこに。
「!?」
小さなボールがセリオンの足元にやって来た。
「ボールだ。誰のだろう?」
「あ、セリオン。小さな男の子が来るわ。5歳くらい」
「本当だ」
「お兄ちゃん、ボールを返して」
「ああ、いいよ。ほらっ!」
セリオンはボールをつかみ、男の子に手渡した。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「どういたしまして」
男の子は走って、近くの父親と母親のもとに帰っていった。
「どうも、ありがとうございます!」
男の子の両親が大きな声で言った。
セリオンは軽く会釈した。
「セリオンは、小さな男の子にも優しいのね」
「テンペルにも子供たちがいるからね。慣れているんだよ」
エスカローネの胸がときめいた。
「セリオンはいいお父さんになると思うわ」
「そうか? 俺はいずれ父親になりたいと思っている。子供は三人は欲しいな」
「そうなんだ」
「そう言えばエスカローネの両親はどうしたんだ? 元気か?」
エスカローネは急に顔を曇らせた。
「それは……」
エスカローネは、セリオンに父と母がさらわれてしまったことを話した。
「そうか……さらわれてしまったのか……」
「ええ……誰がどういう目的かは知らないけれど、ローザリントという人にさらわれてしまったわ」
「ローザリント?」
「ええ。私と同じ、強い光の力を持っている女よ。彼女は我が姉妹と私を呼んだ。それが何を意味しているかは、わからないけれど……」
「そうだったのか……」
「暗い話はこれくらいにしましょう。ところで、セリオンのマフラーはディオドラさんが編んでくれたのよね?」
セリオンはマフラーを触って。
「ああ、そうだ。俺の母さんが俺のために、俺の好きな青の色で編んでくれた。俺の宝物さ」
「それはよくわかるわ。だって、愛情が込められているのが、すぐにわかるもの。触ってもいい?」
「ああ、いいよ」
エスカローネはセリオンのマフラーを流れるように触った。
「すてきなマフラーね。セリオン、ディオドラさんは何をしているの?」
「母さんは今テンペルのシュヴェスターをしているよ。テンペルの修道服は青なんだ。俺たちのあいだでは青は『高潔』を表しているんだ。このマフラーの青も俺の異名『青き狼』も同じさ。ちなみに狼は俺たちにとって『誇り高い』動物なんだ」
「そうなの……それなら、セリオンらしい異名ね」
「ああ、俺自身も気に入っているよ」
夜、セリオンはエスカローネと共にザンクト・エリーザベト修道会の門まで歩いてきた。
「それじゃあ、ここでお別れだな。また会おう」
そう言うとセリオンはエスカローネを抱きしめた。
「あ……」
エスカローネは赤面した。
セリオンはそのままエスカローネのほおにキスすると、そのまま立ち去っていった。




