デートの誘い
エスカローネはブルーメン・ガルテン(Blumengarten)にいた。
セリオンもいっしょだった。
エスカローネは色とりどりの花に見とれていた。
「うふふ。セリオン、早く―!」
エスカローネはセリオンを呼んだ。
今日、エスカローネは機嫌がよかった。
胸の奥でときめきが止まらなかった。
なぜなら、二人はデートしていたからである。
「エスカローネ、そんなに急がなくても花は逃げないさ」
デートのわりに二人の服装はいつもと同じだった。
エスカローネは黒の軍用スーツ。
セリオンは紺色の戦闘服に青いマフラー。
エスカローネはセリオンとのデートを心から喜び、満喫していた。
時間は昨日の夜に戻る。
エスカローネは自室でアンネリーゼと話をしていた。
「? 小さな女の子が見える?」
アンネリーゼがいぶかしんだ。
「ええ、そうなの。名前はエカジェリーナよ」
エスカローネが答えた。
「バフォメットの戦いのときにも、あのムーロとの戦いのときも見えたの」
エスカローネはベッドに座っていた。
アンネリーゼは机に備え付けられたイスに腰かけていた。
「彼女は言ったわ。自分は私の『可能性』だと……私の未知なる『力』だと……」
エスカローネはアンネリーゼから顔をそむけた。
下を向く。
「未知なる『力』、そして『可能性』か……確かに、エスカローネにはまだ自分の力で制御できない力があるように思えるわね。だって、ここ最近のミッションは、エスカローネの力がなかったら、達成できなかったと思うわ」
アンネリーゼが部屋の蛍光灯に目を向けた。
足をばたつかせる。
「私は自分がわからない……だから不安になるの……私はいったい何者何だろうって……私には未知の光の力が眠っているらしいけれど……それがどんなものであれ、なんだかわからないのは不安よ」
「エスカローネ……」
アンネリーゼはエスカローネを心配していた。
血はつながっていないとはいえ、アンネリーゼは本当の姉妹のように思っていたからだ。
いや、本当のシュヴェスター(Schwester)だと思えた。
「エスカローネ、今はまだ、そんなに気にすることはないんじゃない? 確かに自分自身のことがわからないから不安になるっていうのは理解できるわ。でもそれも、神の祝福なんじゃないかしら?」
「神の祝福?」
エスカローネとアンネリーゼの視線が合った。
「そうよ。あなたにしかない神からの贈り物。神からの恵み。だって光の力なんでしょう? なら悪いもののはずはないわ。神と光は共に在るんだから……」
「アンネリーゼ……そうね。そう考えると、私は神に祝福された、幸せな人間なのかもしれない。私は神からの賜物を受け取っていることになるわね」
エスカローネの心から不安が薄らいでいった。
アンネリーゼの言葉がエスカローネに安心感を与えた。
「ありがとう、アンネリーゼ。なんだか、あなたの言葉のおかげで不安が小さくなったわ。まだ不安はあるけどもう大丈夫よ」
「どういたしまして。私もうれしいわ」
とそこでドアがノックされた。
二人とも目をドアに向ける。
誰だろうか?
「私です。マリア=ソフィアです。エスカローネ、中にいますか?」
ドアをノックしたのはマリアだった。
どういう用事だろうか?
「ええ、いるわよ。どうしたの、マリア?」
「入ります」
ドアを開けてマリアが入ってきた。
「マリアがこの部屋に来るなんて珍しいわね?」
「というより、用もなくあなたがエスカローネの部屋にいると言った方が正しいでしょう? あなたはここでいったい何をしているんですか、アンネリーゼ?」
マリアはアンネリーゼにけげんな目を向けた。
「何をしてるって、私は雑談をしに、エスカローネのところに来ているのよ。それで、いったいどういう用件なの?」
「エスカローネ、あの人が、ブルーダー・セリオンが門の前に来ています」
「セリオンが!?」
「はい、あなたに会いたいそうです。彼は門の前であなたを待っていますよ」
「わかったわ。今すぐ行く」
エスカローネは立ち上がった。
エスカローネはドキドキしていた。
いったいどういう用事だろうか?
それは会ってみないとわからないが、会いに来てくれただけでうれしい。
エスカローネは正面の門の前に急いで向かった。
セリオンは取次のシュヴェスターと話をした後、一人正門で待っていた。
セリオンは用があってエスカローネに会いに来たのだ。
すると、三階建ての建物から、エスカローネが走ってくるのが見えた。
エスカローネはセリオンに会いたかった。
自然にほおが緩む。
エスカローネはセリオンのもとにやって来た。
「セリオン、待ったかしら?」
「ああ、少しだけな」
そういう彼の表情も嬉しそうだった。
「何か用があったの?」
「ああ、そうなんだが……」
「何?」
「ああ、えーと、その……」
「?」
セリオンは照れて表情を赤くした。
「明日、良ければ俺とデートしないか?」
セリオンは一気に言い切った。
「え!?」
エスカローネはほおを赤くした。
「Ja oder Nein ? イエスかノーか?」
「うん、喜んで」
エスカローネは胸をドキドキさせながら答えた。
胸がときめいている。
実はこれがエスカローネの初めてのデートだった。
エスカローネは特定の男性と深く交際したことはない。
セリオンの誘いはエスカローネにはことのほか嬉しかった。
「俺もうれしいよ。じゃあ、明日の九時に迎えに来る。それでいいか?」
セリオンははにかんで。
「ええ、いいわ」
「よし、決まりだな。じゃあ、明日迎えに来るから」
そう言うと、セリオンはエスカローネに近づき、エスカローネの右のほおにキスをした。
「あ……セリオン……」
「おやすみ。Gute Nacht!」
「ええ、おやすみなさい。Gute Nacht!」
セリオンは一人立ち去っていった。
エスカローネはそんなセリオンの姿をじっくりと、眺めていた。
セリオンのマフラーがしなやかに風で躍っていた。
エスカローネはドアを閉めて自室に帰ってきた。
体がほてっている。
胸はまだときめいている。
「あ、エスカローネ。帰ってきたのね」
アンネリーゼが言った。
彼女はまだイスに座っていた。
「え、ええ……」
エスカローネの頬が赤い。
アンネリーゼはそれに気づいた。
「? どうしたの?」
「ええ、セリオンからデートに誘われたの……」
「えー、ほんと?」
「そうよ」
「へえ、隅に置けないわね、エスカローネ!」
アンネリーゼがベッドに移動した。
エスカローネもベッドに腰を下ろす。
「O.K.したんだけど、行ってもいいかしら?」
「いいんじゃない? だってあのセリオンさんといっしょなんでしょ? あの人ならあなたを守ってくれるわよ。だってすてきな騎士様だもんね!」




