真ムーロ
ムーロは死んだ。
事件は解決した。
そのはずだった。
ムーロは死んだはずだ。
ところが、恐るべきことが起こった。
ムーロの仮面から、ムーロの体が出てきた。
ムーロは復活した。
浮遊するボールの上にまたがる。
「ぷはー! こっぴどくやられちゃったねー! まさかあれほど強いとははねー! そうは思わなかったなー! ザンクト・エリーザベト修道会はやるもんだねー!」
ムーロは恐ろしい表情をした。
「ふふふ……彼女たちはぼくを倒したと思っているだろうねー! でも、ぼくは生きてるからねー! 事件は続くよ、どこまでもー! あーはははははは!」
ムーロは邪悪な笑みを浮かべると、夜空を飛行して行った。
「あははははは! あーはははははは!」
ムーロの笑い声が虚空にこだました。
眼下には火だるまに包まれた焼死体が五人横たわっていた。
再びムーロによる焼き殺し事件である。
「あっはっはっはー! さてさて、ザンクト・エリーザベト修道会への挑発はこれくらいで十分かなー? ぼくがまだ生きてるってことを教えてあげないとねー! あーはははははは!」
エスカローネ、アンネリーゼ、ベアーテ、マリア、シャルロッテ、アウラたちはその日ムッター・テレージアに呼び出された。
上級戦闘シュヴェスター全員の呼び出しである。
彼女たちはみな顔を見合わせた。
一体どういう用件で呼び出されたのだろうか。
ムッターは顔をしかめていた。
「昨日、『また』焼き殺し事件が発生しました。事件の状況から見て同一犯の犯行とみて間違いないでしょう。つまり、ムーロの犯行ということです」
エスカローネは驚いた。
「待ってください。私たちは確かにムーロを倒しました。本当にムーロのしわざなのでしょうか?」
「あなたを疑っているわけではありませんよ、エスカローネさん。しかし、事件は同一犯によるものであることを示しています。ムーロはまだ生きていると思われ……」
「そのとーりだよー!」
「!?」
みなが一斉に声がした方向を見た。
二階の窓だ。
「ムーロ!? 生きていたの!?」
「ここが二階だよ!?」
ムーロはボールにまたがって浮遊していた。
「チャオ、修道会のみなさん! ぼくの方から会いに来たよ! ぼくはまだ元気に生きてるさー! あれで死んだとおもったのかなー? ところが、ぼくは生きているよー!」
シュヴェスターたち全員に緊張が走った。
「ムーロ! 何をしに来たの!?」
エスカローネが言った。
「そう警戒しないでよー! ぼくは君たちと戦うために、わざわざ修道会にきたんだからさー! うっふっふ!」
「私たち全員を敵に回して勝てると思っているのかな!?」
「あっはっは! あーははははは! あはははははは!」
ムーロは後ろに下がると変身した。
ムーロの姿は巨大なカニと化した。
「さあ、これがぼくの本気モードだよー! 戦いを始めよーよー!」
エスカローネたちは一階の訓練場に向かった。
そしてムーロと対峙した。
それぞれが武器を構える。
「さー、かかって来なよー! 今度は負けないよー!」
「今度こそ、私はあなたを倒してみせるわ!」
エスカローネはハルバードでムーロを攻撃した。
「!? 硬い!」
「あなたの存在は私にも許せません! 覚悟しなさい!」
ベアーテが剣で躍りかかった。
斬撃を加えていく。
アンネリーゼが曲刀でムーロを斬りつけた。
「!? なんて硬い殻なの!?」
「あーはっはっはっは! これでもくらえー!」
ムーロは右手のハサミを動かすと、大きく薙ぎ払ってきた。
三人は後退して間合いを取った。
マリアが槍で突き付けた。
「これで、どうですか!」
しかし、マリアの突きでもムーロの殻を破ることはできなかった。
シャルロッテが火矢を連発した。
火矢はムーロの硬い殻に弾かれた。
「!? 傷一つつかないなんて!?」
アウラが風刃を唱えた。
風の刃がムーロを襲う。
だが、ムーロの硬い殻にはダメージを与えられなかった。
「!? 私の魔法は効きませんか……」
「あははははははー! そんな攻撃効かないよー!」
ムーロは左手のハサミで大きく薙ぎ払いをしてきた。
マリアは後ろに退いてムーロの攻撃をかわした。
「水波斬!」
アンネリーゼが水波斬を放った。
鋭い水の刃がムーロに押し寄せる。
水波斬はムーロの殻を削った。
「雷電剣!」
ベアーテが雷電の剣を繰り出した。
雷電剣はムーロの殻を破った。
ムーロの体にひびが入る。
「今よ! リヒト・シュトース!」
エスカローネが光の突きを出した。
ひびの入ったムーロの殻はエスカローネの攻撃を持ちこたえられず、破砕された。
「ぎゃああああああー! 痛いよーー!?」
ムーロが叫んだ。
「これで、どう!? ……!?」
ところが、ムーロの体は体組織の再生を始めた。
破砕された箇所が元に戻る。
「よくもやってくれたなー! 許さないぞー!」
「再生したの!?」
エスカローネは目を大きく見開いた。
「ぼくの反撃だぞー!」
ムーロの「地震波」。
地面が揺れると同時に衝撃波が巻き起こった。
衝撃が周囲に打ち付ける。
衝撃の波が広がる。
「きゃああああああああ!?」
「あああああ!?」
エスカローネたちは衝撃で吹き飛ばされた。
芝生を引きずる。
エスカローネたちはただちに態勢を整えて立ち上がった。
「紅蓮!」
シャルロッテは紅蓮を射た。
紅蓮の矢はムーロの殻を破り爆発した。
「光烈槍!」
マリアが光烈槍を放った。
光の連続突きがムーロの殻を破った。
「逃しません! 石槍!」
アウラが石槍を唱えた。
石の槍は斜め上空からムーロの破砕部位に命中し、貫いた。
「ぐぎゃああああああああ!? やってくれたなー! 許さないぞー!」
ムーロは口から火炎放射を放った。
炎が触れるものを焼き尽くす。
エスカローネたちはみな魔法障壁を展開した。
火炎放射をやり過ごす。
「くっ!? なんて熱量なの!?」
エスカローネは顔をしかめた。
「リヒト・ヘレバルデ!」
エスカローネはハルバードに光をまとわせた。
そしてハルバードで思いっきりムーロを攻撃した。
ムーロの攻撃。
右のハサミでエスカローネをはさみこもうとする。
エスカローネはムーロの関節を狙ってハサミを切断した。
ムーロのハサミが空を飛ぶ。
「ぐぎゃあああああああ!? やってくれたねー! でも、でも、効かないよー!」
ムーロのハサミが再生した。
「!? なんて再生力なの!?」
エスカローネが驚いた。
「私が行きます!」
「ベアーテ?」
ベアーテは雷電をまとわせた剣を思いっきりムーロに叩きつけた。
「ぎゃあああああああ!?」
ベアーテはムーロを圧倒した。
ベアーテの「電刃千花」
「これなら、どうですか!」
電刃による猛烈な乱舞攻撃がムーロを打ち砕いた。
「どうやら、雷はあなたの弱点のようですね?」
ベアーテが冷静に分析した。
ムーロの弱点は「雷」だ。
ベアーテは確かな手ごたえを感じた。
ベアーテはムーロに大打撃を与えた。
しかし……
「はーはっはっはっは! よくもぼくの弱点を見破ったねー! でもでもねー! その程度じゃぼくは死なないよー!」
「あれでもまだ再生するのですか!?」
とベアーテ。
「このままじゃ……」
エスカローネはこのままではムーロにいつか押し切られると思った。
「『力』を貸してあげようか?」
「!? あなたはエカジェリーナ!? 」
エカジェリーナがエスカローネの前に現れた。
「私の力なら、ムーロに勝てるよ」
「お願い、力を貸して!」
「うん、いいよ。でも忘れないでね。私は、あなたの『力』、あなたがまだ自由に扱えない可能性なの。いずれあなたは自分の力を完全に扱えるようになる。その時、あなたは自分の力を、本当に使いこなすことができる。さあ、光の力を集めて! 一撃必殺の技を使うよ!」
エスカローネは光の魔力を集めた。周囲に金色の粒子が満ちる。
「すごい……こんな光の力は初めて……」
エスカローネは嘆息した。
「エスカローネ?」
アンネリーゼがエスカローネの膨大な魔力に気づいた。
「アンネリーゼ、それにみんな! 次の一撃で決めるわ。それまでムーロの足止めをお願い!」
「わかったわ! 私たちに任せておいて!」
アンネリーゼがうなずいた。
「電刃千花!」
「竜牙衝!」
「光閃槍!」
「氷柱花!」
シュヴェスターたちはみな、最強技を放った。
ムーロをズタズタにしていく。
「ぐぎゃおおおおおおおー!? あははははは! でも、でもねー、再生するもん……ん!?」
「みんな、ありがとう! ムーロ! これで終わりよ! グロース・ゴルデン・リヒト・カノーネ(Großgoldenlichtkanone)!
エスカローネのハルバードの先端から膨大な光の魔力が放流した。
光の放流はムーロの頭を直撃し、頭部を消滅させた。
頭部を失ったムーロの体はどす黒い粒子を噴き上げて消滅していった。
ムーロの体が人型に戻る。
「ぎゃああああああああ!? なんでだああああ!? 何で負けたんだー!?」
「仮面から声が!」
エスカローネはすぐさま反応した。
そして気づいた。
「あの仮面がムーロの本体ね!」
エスカローネはリヒト・ヘレバルデを出した。
「ひっ!? しまった!? ばれた!? ひいいいいいいい!?」
エスカローネはハルバードの斧部でムーロの仮面を叩き割った。
仮面はパリンと割れた。
するとパリパリ音を立てながら仮面は消えていった。
ムーロは倒された。
「やったわね」
エカジェリーナが答えた。
「ありがとう、エカジェリーナ。あなたのおかげでムーロを倒せたわ」
エカジェリーナは笑った。
「うふふふ。どういたしまして。でも、忘れないでね。私はあなたの未知なる『力』、あなたが手にしうる可能性だということに。メドゥサはそれを恐れているの。彼女はあなたが不完全なうちにあなたを殺そうとしているのよ。いずれ私たちは一つになる。それが本当の私たちだから……」
そう言うと、エカジェリーナは消えた。
「エスカローネ?」
アンネリーゼが尋ねた。
「アンネリーゼ?」
「さっきから誰と話をしているの?」
「え? みんなには見えなかったの!?」
「私たち以外誰もいなかったわよ?」
「!? そうだったの……エカジェリーナという女の子がいたんだけれど……」
「エカジェリーナ?」
「ううん、何でもない! ごめんね、一人で話していたみたい」
エスカローネは取り繕った。
「エスカローネ、先ほどの攻撃はすさまじかったですよ。あのムーロを倒せたのはあなたのおかげです。ありがとう」
「ベアーテさん……でも、まだうまく制御できないんです」
「無意識に制御できたということでしょう。改めてお礼を言わせてください」




