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第6話 休日

 ハロルドさんの家で初めて飯をご馳走になってから、一か月ほど経った。


 宿代を払ったあとの財布にまだ硬貨が残る。翌日の稼ぎを全部食事代に回さなくてもよくなり、一日くらいは休んだところですぐ困ることもなくなっていた。


「明日、休みにする?」


 夕飯を食べ終えたレイナが空いた皿を脇へ寄せた。


「そのつもり。昨日から肩が重い」

「私も。じゃあ、町の中でも見て回らない?」

「休むんじゃないのか」

「剣を振ったり、土を掘ったりはしないよ」


 そう言われると、確かにだいぶ違う。いつも通る店先には目を向けるようになったけど、ゆっくり中を見たことはほとんどない。


「いいね。昼もどっかで食うか」

「うん。宿の人に明日は朝だけって言っとこ」


 レイナが椅子を引く。俺も立ち上がり、明日は少し遅くまで寝ていようと決めた。


     *


 翌朝はもう通りに荷車が出ている頃に宿を出た。

 水袋も採取の袋もない。肩に荷物がないだけでずいぶん軽く感じる。レイナもいつものバッグ一つで隣を歩いている。


「どこから見る?」

「あそこの店。前から気になってるんだよね」


 雑貨屋では、小物を分けて入れる布袋を買った。レイナはさっそくバッグの底から探し出したペンをしまう。

 袋ごとなくなったら意味ないけど。


「これで毎回探さずに済むな」

「袋ごと見つからなくなるとか言わないでよ」


 言おうとしていたことを先に止められた。


 雑貨屋を出て通りを進むと、次の店では服が軒先に掛けられていた。薄い青の上着が風に揺れている。

 レイナの歩く速さが落ちた。服へ目を向けたまま、自分の袖口を指でなぞっている。

 俺は店の入口へ足を向けた。


「ここも見てくか」

「寄っていい?」

「俺も着替え欲しいし」


 彼女の服にはほつれがあった。俺の服も似たようなものだ。洗ってきれいになっても、毎日着ていれば傷む。

 店の女性に声をかけると、気になっていた青い上着を下ろしてくれた。レイナは広げて眺め、勧められて肩へ羽織る。


「袖、これくらいでいいのかな」


 腕を伸ばすと、手首のところで布が止まった。肘を曲げたり肩を回したりしてから、彼女はこちらへ向き直る。


「どう?」

「いいんじゃないか。似合ってる」

 同じ形の茶色い服も出してもらい、レイナは二枚を見比べた。


「どっちにしよう」

「俺は、青い方が好きだな」


 彼女は青い袖へ手を戻す。値段を聞いて財布を確かめると、今度は迷わず店の人へ渡した。


「これは町で着る用にする。林には着ていかない」

「いきなり枝に引っかけたら嫌だしな」

「そう。休みの日に着る服が欲しかったんだよね」


 決めると、今度は俺の服を探し始めた。

 端に積んであるものから一枚取ると、レイナが隣の服を持ち上げる。


「こっちもよくない?」

「明るくないか」

「そのくらい着るでしょ。ほら、当ててみて」


 俺が選んだものより薄い色のシャツを渡され、胸に当ててみる。


「うん。そっちがいい」

「俺、まだ何も言ってないけど」

「似合うと思うんだよね、それ」


 鏡の前へ移り、肩に合わせてみる。変ではなかった。いつも同じような色ばかり選んでいたので、少し落ち着かないくらいだ。


「じゃあ、これにするか」

「うん。今度それ着て出かけようよ」


 服を包んでもらう間、レイナはもう一度青い布へ手を触れた。袋を受け取ると自分で抱え、店を出てからもときどき包みを覗いている。

 寄ってよかった。あのまま通り過ぎていたら、俺もこの服は選ばなかっただろう。


 通りを歩き始めたところで、ハロルドさんに呼び止められた。


「おう。何を買ったんだ」

「服です。休みの日に着るのを」


 レイナが包みを開いて青い上着を見せる。俺もシャツを少し引き出した。


「それ、二人で選んだのか」

「はい。俺のはレイナが」

「いつもと違うと思った。お前、同じような色ばっかり着てるからな」


 隣でレイナが笑う。


「俺も一応、選んだんですけど」

「いつもの色だったよね」

「着慣れてる方がいいだろ」


 シャツを戻していると、ハロルドさんが顎を掻いた。


「今度、オレのも見てもらえんか」

「服ですか?」

「ああ。かみさんと出かけようと思ってるんだが、何を着ても仕事帰りみたいになるんだよ」

「いいですよ。じゃあ、次の休みに」


 今出てきた店を指すと、ハロルドさんは頼むと笑って手を上げた。


     *


 昼は通りの食堂に入った。

 剣を椅子に引っかける心配をせずに座れるのが楽だ。運ばれてきた肉の皿には焼いた薄い生地が何枚か添えてある。店の人に教わったとおり肉と野菜を包んでみたが、欲張って入れすぎた気がする。


「コータそれ、閉じなくない?」

「今、そう思ってた」


 下から汁が垂れそうになり、皿を寄せてかじる。うまいが、口の周りがひどいことになっている。

 レイナは笑いながら布を渡してくる。自分の分には俺の半分くらいを載せ、端を折ってから巻いていた。


「そっち、うまくできてるな」

「先に見本があったから」

「次は負けない」


 二枚目は少なく包むとうまく閉じた。レイナが勝ち負けじゃないよと言いながらさっきの店で見つけた妙な形のコップの話を始め、俺も次に寄ってみたい店を挙げる。

 こんなふうに店に寄って飯を食うだけなら、向こうにいた頃とそう変わらない。


「帰り、ほかも見る?」

「見る。けど、その前にちょっと座ってたい」

「食いすぎ?」

「コータもでしょ」


 否定できず、水を飲んだ。急いで帰る用事もない。レイナは隣の椅子に置いた包みを自分の方へ寄せ、もう一度中の服を覗いていた。

 明日にはまた仕事だ。この服を着て出かける日も、そのうち決めよう。


お読みいただき、ありがとうございます。


本編は全143話、完結まで執筆・校正済みです。

本日は第10話まで、10分おきに公開します。


「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや☆からの評価をいただけるとうれしいです。

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