↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/56

第49話 俺の剣(テオ視点)

テオ視点です。

 首都を出て三日目、馬に水を飲ませるために馬車が止まった。


 ヨコヤマさんの帳面は約束の日に返し、俺たちはその翌朝に出発した。


 俺は先に降りて腕を伸ばす。歩かなくて済むのはいいが、座ってばかりいると、今度は動きたくなる。川べりまで行こうとしたら、コータもついてきた。


「あと何日だっけ」

「今日を入れて六日。順調なら」

「長いな」

「三日目から言うなよ」


 そういうコータも降りてからずっと腰を伸ばしている。


 レイナとエマは御者(ぎょしゃ)に水を汲める場所を聞いていた。俺たちも空いた水筒を持って、その後ろへ続く。


 川の向こうにも道があった。あっちを行ったら、どんな町へ着くんだろう。枝道の先を見ていると、コータが東へ続く街道を指した。


「こっちだぞ」

「分かってるよ。早く着かねえかなって」

「アーティファクトの町で余計なもん買うなよ」


 俺は振り返った。


「まだ着いてもねえのに」

「前科があるだろ」


 コータが馬車の荷台へ結びつけた大剣を指す。


 あれは今じゃちゃんと役に立ってる。それを言うと、買ったときは分かってなかっただろと返された。そっちこそ、ルーゼンの図を何度も見ていたくせに。


 こいつだって店に入れば欲しがるに決まってる。レイナに止められて、それでも一回持ってみたいとか言い出すんだろうな。


「コータにも言ってやってよ」


 水筒に栓をしたレイナへ声をかけると、彼女は俺とコータを見比べた。


「二人とも、まず値段を聞いてね」

「俺は聞くって」


 コータが答えたので、俺も続けた。


「値段は聞いたうえであれ買ったんだよ」


 何故かもっとかわいそうなものを見る目で見られてしまった。


     *


 あれを買ったのは、ベルカで二人の仲間と仕事をしていた頃だった。


 その日の依頼はうまくいった。二人が逃げ道を塞ぎ、こっちへ追ってくれたところを俺が倒した。ギルドを出てからもその話をしていたら、槍を使う方に最後だけやたら長く話すなと笑われた。


「いいところなんだから、長くてもいいだろ」

「私が足を止めたところも言ってよ」


 弓を持ったもう一人にも言われる。そこもちゃんと話した。あの矢が外れていたら、俺の一撃も届かなかった。


 報酬を分け、二人は明後日の旅に備えて干し肉を買いに行くことにした。俺も途中の広場まで一緒に歩く。宿代は払ってあるし、財布には前の仕事の金も残っていた。


 そこで、見つけた。


 剣にしては幅があり、先が丸い。長い握りから延びた縁には小さな歯のようなものが並んでいた。露店に敷いた布の上で、それだけが妙にでかい。


 妙に、でかい。


 足が止まると、店の親父が顔を上げた。


「気になるか。アーティファクトだよ」

「これ、持ってみていい?」


 いいと言われ、両手で持ち上げる。重い。だが、持ち上がらないほどじゃない。握りには指がしっかり掛かった。


 少し離れたところで二人も立ち止まっていた。


「そんなん、振れるのか」

「広いとこならな」

「ここでやるなよ」


 振らねえよ。そう返しながらも、頭の中ではもう振っていた。


 こいつを肩へ担いでギルドに入ったら、みんな見るだろうな。持ってるだけじゃ駄目だが、これで大きいのを倒せばいい。俺が前で止めて、あの二人が横から回って。


 傷は多いのに、曲がったところも握りのがたつきもない。


「頑丈そうだな」

「そりゃ、そこらの鉄とは違うからね」


 親父の言った値段は、思っていたより高かった。


 布へ戻し、財布を開けて数える。もう一度数えても、足りなかった。


「もうちょい安くならない?」

「いくらある」


 俺が答えると、親父はそれじゃ足りないなと難しい顔をした。財布の底まで見せる。これで全部だと言ってから、しばらく待った。


「……まあ、今日はそれでいいよ」


 やった。


 硬貨を出そうとしたら、横から手が伸びてきた。槍の仲間が俺の手首を掴んでいる。


「全部って、次の町へ行く金は?」

「また稼ぐよ。宿は払ってあるし」

「明後日には出るって言っただろ」

「じゃあ、俺、何日かあとから行く。すぐ稼げるって」


 そのときは、本当にそう思っていた。今日みたいに働けばいい。何日かずれても、次の町で追いつける。


 もう一人も俺の財布を見た。


「一回、宿に戻って考えたら?」


 持っていた硬貨を握る。親父は剣へ布を掛けようとしていた。


 戻ってくるまで、ここにあるとは限らない。二度と見つからないかもしれない。


「俺の分だろ。これがいいんだよ」


 手首を持っていた指が離れた。


 俺は金を出した。包んでもらった大剣を担ぐと、肩へずしりと重さが掛かる。歩くたびに嬉しくて、店の窓に姿が映ると横を向いた。


 二人は先に買い物へ行っていた。


     *


 切れ味は、ひどかった。


 宿の裏で薪に使う細い枝をもらって試した。刃を引いても、表面がけば立つだけだ。力を込めれば折れるが、それなら石でもできる。


 持ち方を変えても駄目だった。刃の向きを確かめ、傷んでいるのかと指で縁を触る。


 細かい歯はある。なのに、切れない。


「どうだった」


 買い物から帰った二人が来た。


「重いけど、使えそう」


 言ってから、足元にある潰れた枝を見た。二人も見ている。


「……いや。切れ味は、よくない」

「よくない、くらい?」

「かなり」


 弓の仲間が俺から枝を受け取った。裂けた端を見てから、剣の方へ顔を戻す。


「返せないの」

「もう買ったんだし。それに、殴れば倒せる。折れそうにないしさ」


 ここで駄目だと言ったら、空になった財布だけが残る気がした。


 槍の仲間は宿の壁へ背を預けていた。


「俺たち、予定どおり行くぞ」

「うん。俺も金できたら、そっち行くから」

「次の町で待つ約束はできない。仕事があれば、そこからまた動く」


 顔を上げる。二人ともこちらを見ていた。


「……じゃあ、どこで会うんだよ」

「それを決めてから買ってほしかった」


 弓の仲間が言った。


 何日かくらい、と思いかけて口を閉じた。何日で追いつけるか、俺も分かっていない。


「金、貸せなんて言ってねえだろ」

「それは分かってるよ。でも、道中で飯がなくなったから、お前だけ食うなってできるわけないだろ」


 槍の仲間が壁から背を離す。


「自分の金でも、全部使う前に相談はしてほしかった。旅を続ける金までなくなるなら、俺は一緒には行けない」


 大剣の握りを持ち直す。


 そっちの金を使ったわけじゃない。欲しかったものを買っただけだ。そう言いたかったが、二人ともそれは分かったうえで話している。


「……分かった。俺は残る」


 思っていたより声がでかくなった。


 二人が出発する朝、俺は宿の前まで見送りに出た。前の日に荷運びで稼いだ金はあったが、長い道を行くには足りなかった。


「じゃあな。またどっかで」


 槍の仲間が手を上げる。俺も上げた。もう一人は大剣を巻いた布を見てから言う。


「変なのに噛みつかれる前に、ちゃんと使い方考えなよ」

「分かってるって」


 それから、何かもう一つ言えばよかったのかもしれない。けれど、そのときは出てこなかった。


 俺は二人の背中が見えなくなるまで、そこにいた。


     *


「テオ、水。ここ、空いたよ」


 エマに呼ばれて顔を戻す。俺も水筒を満たし、きつく栓をした。


 あのあと、ベルカでコータたちに会った。妙な独り言を言うやつだと思ったら、中にもう一人いるという。


 わけわかんなくて笑ったが、そのオヤジが大剣の使い方を知っていた。


 あの二人にも、一度見せたい。


 今なら、枝くらい切れるぞと言える。まあ、最初に試してから買えとは言われるだろう。それは、今の俺だってそう思う。


 馬車へ戻ると、コータが道端の草の上へ座り、袋からパンを出していた。


「腹減ったな。先に食う?」

「食う」


 隣へ座ろうとして、レイナに場所を空ける。俺がエマの横へ回ると、彼女は包みを開き、切ってもらったチーズを配ってくれた。


 パンに挟む。思ったより薄い。


「もう一枚ない?」

「一人二枚だよ。下に入ってる」

「あ、あった」

「お前、俺の方見るの早すぎだろ」


 コータが自分の包みを引っ込めた。見ただけだって。


 四人で食べながら、向こうに着いたらどこへ行くか話す。レイナとエマは古い建物と上の階の店を見たいらしい。


「俺は道具の店だな。同じ形のがあったら、並べて見たい」

「俺もそこは行く」


 コータが言った。


「小手(こて)に使えそうなの、何かあるかもしれないし」

「ほら。お前も買う気じゃん」

「見たいって言っただけだろ」

「俺もそう言ってた」


 エマが吹き出す。コータも笑ったが、レイナから持って帰れる大きさにしてねと言われると、真面目に分かってると答えた。


 ほらな。


 俺は残りのパンを口へ入れた。こういう話なら、道の長さも忘れられる。


 出発すると御者に呼ばれ、みんなで荷物を戻す。大剣の紐を確かめていると、コータが何もない方へそうだなと答えた。


「オヤジ、何て?」

「珍しいってだけで買うなよって」

「じゃあ、かっこよかったら?」


 コータが口を開きかけ、止めた。


 今、聞いてるな。


「……使い道を聞いてから、だって」

「分かった。ちゃんと聞く」


 俺だけじゃなく、コータにも持たせてみるか。こいつまで欲しくなったら、話はもっと長くなるだろう。


 馬車が動き出す。向かいのコータが座り直した。


「次は俺にも買う前に見せろよ」

「おう。止められるの、俺一人じゃ嫌だしな」

「巻き込むなよ」


 言ってろ。店の前で先に足を止めるのは、どっちかまだ分からねえぞ。


 ただ、今度は俺一人だけ置いていかれることはなさそうだ。


 少なくともコータも一緒に置いていかれるだろう。


お読みいただき、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや☆からの評価をいただけるとうれしいです。

感想も楽しみにしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。