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第3章  揺れる心情



ドレッドは、父ベルミンの意見を押し切り、チョコレートの独占に向けた話をどんどん進めていった。


まずは、カカオを扱う商人たちとの交渉だった。


「これから先、カカオはヴァルデン家を優先してもらいたい」


ドレッドがそう切り出すと、商人は少し驚いた顔をした。


「優先、ですか?」


「ああ。他の商人から注文が入ったとしても、まずはこちらに話をしてほしい」


「しかし、それでは今までの取引先との関係が……」


「分かっている」


ドレッドは落ち着いた様子で答えた。


「だから、今までより高く買い取る」


商人は腕を組み、しばらく考えた。


「そこまでして、カカオを集めたい理由は?」


「チョコレートだ」


ドレッドは迷うことなく答えた。


「これからチョコレートは広まる。そうなれば、カカオを欲しがる商人も増える」


「なるほど……」


「なら、先に確保しておく。それだけのことだ」


商人はドレッドの顔を見つめた。


「もし、他の家がもっと高い値をつけたら?」


「その時は、俺が考える」


ドレッドは少し笑った。


「商売は、先に動いた者が有利なんだ」


商人はしばらく考えた後、ゆっくりとうなずいた。


「……分かりました。ヴァルデン家を優先しましょう」


「それでいい」


ドレッドは短く答えた。


次に向かったのは、チョコレートを作る職人たちだった。


「ヴァルデン家と契約してもらいたい」


「どのような条件で?」


「仕事はこれまで以上に回す。材料もこちらで用意する」


職人は条件を聞きながら、慎重に答えた。


「それならありがたい話ですが……」


「何かあるのか?」


「他の家から仕事を頼まれた場合は?」


ドレッドは少し考えてから答えた。


「断ってもらう」


「それは……厳しいのでは?」


「厳しいと思うなら、契約しなければいい」


職人が黙り込む。


ドレッドは続けた。


「だが、俺と契約すれば仕事は途切れさせない」


「……」


「どちらを選ぶかは、あなた次第だ」


職人はしばらく考え込んだ。


やがて、小さく息を吐いた。


「……分かりました」


「そうか」


ドレッドは満足そうにうなずいた。


こうしてドレッドは、カカオを扱う商人たちや職人たちとの契約を次々とまとめていった。


そして、販売する場所や価格についても話を進めていく。


どこで売るのか。


いくらで売るのか。


誰に売るのか。


一つ一つを決めていくたびに、ヴァルデン家の影響力は大きくなっていった。


ドレッドは次々と話をまとめ、ヴァルデン家だけがチョコレートを扱えるようにする計画を進めていった。


ベルミンは何度もドレッドを止めようとした。


「ドレッド、これは私たちだけのものではない」


しかし、ドレッドは聞く耳を持たなかった。


「父さん。これは商売なんだ。誰より先に動いた者が、利益を得るんだよ」


ベルミンは言葉を失った。


本当なら、親友であるハスパーに相談したかった。


ハスパーなら自分の気持ちを理解してくれる。


幼い頃から共に過ごし、商売を始めてからも支え合ってきた親友だ。


だが――


ハスパーは、同時にミルソン家の当主でもある。


友人であると同時に、チョコレートを扱う商売上のライバルでもあった。


ドレッドが何を考えているのか。


ヴァルデン家が何をしようとしているのか。


それを簡単に話すことはできなかった。


「……ハスパーには、まだ話せない」


ベルミンはそう呟いた。


親友に隠し事をすることへの罪悪感。


息子を止められない悔しさ。


そして、いつかハスパーに知られてしまうのではないかという不安。


ベルミンの心には、少しずつ重いものが積もっていった。


その頃、ドレッドは着々と独占への道を進めていた。


そして叔母のエミリーもまた、ドレッドの計画を支えていた。


エミリーは、ドレッドが交渉から戻ってくると、結果を聞いた。


「どうだったの?」


「順調だよ。カカオの商人も、職人も少しずつ押さえている」


ドレッドが答えると、エミリーは満足そうに笑った。


「さすがね。あなたは商売のことをよく分かっているわ」


「まだ終わってない。販売する場所も、これから押さえる必要がある」


「なら、私も手伝うわ」


「叔母さんが?」


「ええ。店や商人との話なら、私にもできることがあるでしょう」


エミリーはドレッドの計画に反対することなく、必要な取引先を探したり、販売場所について情報を集めたりしていった。


「ドレッド、ここはどうかしら?」


エミリーがいくつかの候補を挙げる。


ドレッドはその話を聞きながら、考えをまとめていった。


「そこなら客も多い。話をつけられそうなら頼む」


「分かったわ」


二人はそうして、少しずつ計画を形にしていった。


一方、チャリスは父ベルミンの様子が以前と違うことに気づき始めていた。


ドレッドが商人との交渉を続けるようになってから、ベルミンは以前より口数が少なくなっていた。


食事の席でも、何かを考え込んでいることが増えた。


ある日、チャリスは父に声をかけた。


「父さん、最近どうしたの?」


「……どうしたって?」


「なんだか、元気がないように見える」


ベルミンは少し笑った。


「大丈夫だ。少し考え事をしているだけだ」


「ドレッド兄さんのこと?」


ベルミンは一瞬、言葉を止めた。


「……そうだな」


「独占のこと?」


「チャリス、お前は気にしなくていい」


「でも――」


「これは大人同士の話だ」


ベルミンは優しく言った。


それ以上、チャリスは聞くことができなかった。


だが、父の表情は頭から離れなかった。


その日の夜、チャリスは一人で考えていた。


父はドレッド兄さんのやり方に反対している。


それなのに、どうして何もできずにいるんだろう。


そして、なぜハスパーさんにも相談しないんだろう。


チャリスにはまだ答えが分からなかった。


ただ一つだけ分かったことがある。


父が苦しんでいる。


そして、このまま何もしなければ、何か大切なものが壊れてしまう。


チャリスも兄ドレッドに対して苦悩を感じ始めていた




ある日の夜。


ドレッドは一人、自分の部屋で考えていた。


今日も交渉は順調だった。


カカオも、職人も、少しずつ押さえることができている。


だが、ドレッドが求めているのは、ただ利益を得ることだけではなかった。


「……まだ足りない」


ドレッドは静かに呟いた。


もっと早く。


もっと確実に。


ヴァルデン家の力を大きくしなければならない。


その先にあるものを、誰にも邪魔させないために。


ドレッドには、誰にも話していない大きな目的があった。


その目的のためなら、父ベルミンと対立することさえ、ためらうつもりはなかった。


ドレッドは窓の外を見つめた。


「俺が……やるしかない」


その言葉だけが、静かな部屋に残った。


ドレッドの本当の思惑は、まだ誰にも知られていなかった。

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