第二十三話
学校に私宛の電話が来たと思えば、相手は長だった。
「今日、うちにターゲットが来た」
その瞬間、一気に体温が下がった。
組織のことだから彼を殺すことはないにしろ、もし彼に何かあったとしたら、私はもうヘリオス様の護衛失格だ。
メーディアさんの件で、ヘリオス様の直ぐ側でヘリオス様を守ると誓ったばかりに。
私はすぐさま学校を飛び出した。
ヘリオス様、ヘリオス様。
ヘリオス様────!
ルミナ家の扉を開け、階段を駆け上がり、ヘリオス様の部屋を開いた。
そこには、何事もなかったかのように絵を描くヘリオス様の姿があった。
「ネメシス?」
体から力が抜け、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
「早いね。学校、抜け出してきたの? 悪い子じゃん」
私の目の前で同じように座り込む。
平然と話す彼を見て、彼には私がどんな気持ちで学校を抜け出してまで帰ってきたのか……それをわかってくれない彼に心が煮えたぎるほど熱くなる。
「どうして、こんなことを……」
「え? ああ、ごめん、内緒にして。でも、大丈夫! この通り元気だし、何もされてないよ!」
「そういうことではありません!!」
この小さな部屋に響き渡るほどの声……フーフーと息が荒くなっているのが自分でもよくわかる。
「私は、あなたのその軽率さのことを言ってるのです! ヘリオス様も知っているでしょう!? あれが、どんな組織化か。部外者が軽々しく足を踏み入る場所ではないのですよ!」
息をするのも忘れ、一息でそう言った。
ヘリオス様は目を逸らし「ごめん、本当にごめん」と同じ謝罪の言葉を繰り返している。
違う、違うだろう。
ヘリオス様が理由もなしに、そのようなことをするお人ではないと。
まして、自らの危険を犯してまで一人で組織に訪れた。
理由はわからないが、これはまた彼の優しさからくるものだと、そんな気がする。
「ち、違うんです。ヘリオス様がまた誰かに傷つけられるのではないかと……怖くて……」
声の震えを抑えるように、ヘリオス様の手を握る。
「怖い」なんて初めて思った。
暖かい……。
いつか、この暖かさで私の心も体も溶かしてくれないだろうか。
時々、そう思う。
「ヘリオス様には、『死』とは無縁の世界で生きてほしいのです。でも、もしまたヘリオス様に何かあれば、私はあなたの側で守ることができなくなります……私は……」
これを言ったらヘリオス様にとって迷惑だろうか?
けれど、ヘリオス様は「会話」をすることで、お互いの気持がわかると言っていた。
なら、なにも恐れることなんてない。
「ヘリオス様と離れたくありません」
私に与えられた任務は、ヘリオス様の側で護衛し時期が来たら殺すこと。
けれど私の気持ちは、彼に生きてほしくて、私はそんな彼の側にいたい。
任務と自分の気持ち、どちらを優先するべきか。どちらを切り捨てるべきか。
その答えは誰にも教われたことがない。
どうすれば正解なのでしょう。
「実はね、組織で君の過去をまとめた資料をもらったんだ。そこに書いてあったことなんだけど……」
部屋の奥から3枚ほどの紙を持ってきて、私に見えないよう胸元で抱えた。
「君に……組織へ来る前の記憶がないって本当なの?」




