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第十二話

休日が終わり、少しお休みになられてはと提案したが、「いや大丈夫。行くよ」と言うので、あんなことがあった後なので彼を一人にするわけにもいかず、私も学校に行くことにした。


それからというものの、ヘリオス様から目が離せない。


それはそうだ。昨日一昨日拉致にあったのだから。

あれは彼を一人にさせた私の不注意で起こったもの。

任務にあんな失態を起こすとは長にも彼の護衛としても面目が立たない。

今日だって、いつどこで彼が危険な目に合うかわからない。

今日はいつもより、念入りに……。



「ネメシス。あんまりにも不自然過ぎるよ」



ヘリオス様に少し話があるといって、人通りの少ない校舎まで来ていた。

だからか、偽名でなくネメシスと読んでくれている。


「そうですか?」

「そうですかって……隣の席でじっと見てきたり、音もなく廊下歩いたり、男子更衣室覗いたり、ましてやトイレまで付いてくるんだもの。それを不自然じゃないというならなんていうんだ?」

「う……申し訳ありません」

少しやりすぎてしまった。

私としたことが。

俯いていると頭上で、ハハッと笑う声がした。

「アハハ! 面白いなネメシスは」

口とお腹を抑えて笑っている。

はあという腑抜けた声しか出てこない。

彼から出る言葉は自分とは思えない人物像ばかり。


この人の目には自分がどう写っているのだろう。


「でも、もう無茶しないで」

私の顔を覗きこむような体制で私の前に屈む。

「私は、ネメシスに危険な目にあってほしくない。いなくなってほしくない」

彼は笑ったようで悲しそうな顔をした。

なぜそのような顔をするのだろう。

こういうときはどうしたらいいのだろう。

そうだ。あの時。



私は言葉より先にヘリオス様を抱きしめた。


「え? ネメシス? こ……これは」

「あの時、ヘリオス様はこうやってしてくれました。そのお返しみたいなものです。これが正しいのかはわかりませんが」

あの時は突然抱きしめられて、反応できず行場のない自身の手を今はこうして、彼の頭に添えている。


「それに、あれくらい全然平気です。私強いので」

「うん。すごい自信だね」

「ですから……」


私には周りの人間のことなど何も知らない。どんなことを思って生活しているのか、どんなものを見て過ごしているのか。

けれど、もっと知りたいと思った彼のことだから。



『私は自分が死ぬことよりも……君がいなくなる方が、よっぽど怖い』



信じてみてもいいのではないか。



「私は、いなくなったりなんかしません」






「セレナさん。少しお時間いいかしら?」

頭上から降ってくる、鈴を転がしたような心地よい響きのある声。

「リリアナさん」

リリアナ・ヴェルディ。クラスメートでヘリオス様の機嫌直しの相談に乗ってくれた人だ。

「一緒に昼食食べません?」



連れてこられたのはほとんどの生徒が使わないであろう教室。

なぜそう思ったのかというと、ご飯を食べるには向いてないくらいホコリが積もっているからだ。


「あ、あのリリアナさん……」

「さあ食べましょう」


机の上に弁当を広げる。そういえば、こうやってヘリオス様以外の人とご飯食べるの初めてかも。

それにしても、なんで彼女は私の隣に座っているのか。対面でもよろしいのでは。

「わあ! セレナさんのすごく美味しそう! 自分で作っているのかしら?」

「はい」

「すごい! 私はシェフが作ってくれて、自分では作ったことなくて……」

そんな他愛もない話が続く。こうやって、他の人とお話しながら過ごすのも案外悪くないのかもしれない。

「そういえば、セレナさんってヘリオス君のことどう思っているの?」

突然そう聞かれた。食事を運ぶ手が止まる。

「いいえ、どうも思っていません」

「いくら従兄弟とはいえ、そう言われたらヘリオス君も悲しむわ」

フフッと笑う。笑い方まで上品で、育ちがいいのかなと考える。

「私ね、ヘリオス君のこと好きなの」

パタッと手が止まり、少しうつむきざまに、そう答える。

「好き……とはなんですか?」

今まで聞いたことのない単語に思わず聞き返す。

「そうね。私にもわからないわ。この世で最も不確定要素の多い感情だから」

こんななんでも知っていそうな人でも知らないことがあるのだと、少し呆気にとられてしまう。

「うーん……あえていうなら、その人とずっと一緒にいたいと思うことかしらね」

その言葉を聞いた瞬間、なぜかヘリオス様のことが真っ先に思い浮かんだ。

なぜだろう。でも今までにも思う節があったかもしれない。

強張ってるからだが解れる瞬間、抱きしめられたときの温もり。


「そ、その気持ちわかる気がします……!」


少し、強気味にいった私に彼女は驚いた。

「私も彼といると、なんというか落ち着くと言うか……不思議な感じがして、だけど、それが決して悪い気はしないっていうか……」


うまく言葉にできない。

こういう時、彼ならなんていうのだろう。


言葉に詰まっていると、リリアナさんは私の頭を撫でた。

「そう、なら……」


彼女の手元がキラリと光った。









「死んでください」









グサッと刺さる音とともに私の腹部にナイフが刺さった。

反応が少し遅れるのは命取りになるって長にも散々言われていたのに。

私はなんで、こんなにも……。


思わず反撃しようにも……手が震えて武器が持てない。


「あんまり動かないほうがいいですわよ。刃に毒を塗っていますから」


私は膝から崩れ落ちる。

生憎、私には毒の耐性はない。

ああ、さっきヘリオス様にあんなこと言ったばっかりなのに。





「おやすみなさい――――ネメシス」





そこで私の意識は途切れた。


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