討伐行
我はガラテアを説得し、我等三人と少数の案内人だけで廃城に赴く許可を得た。
渋ってはいたが、実のところ彼も打つ手が無くなっていたのだ。
アリスとフェイの武力だけでなく、我が世に知られていない古代の呪文にも精通しているとほのめかしたのでそこからの話は早かった。
これほど巨大な物体を動かすに足る魔法はこの世界では知られていない。
ガラテアが廃城の大きさから想定している巨人の身長と体重は空恐ろしいほどのものだ。
人間の、それも死んだ肉と骨が耐えられるはずはない。
そして、徹頭徹尾魔法で動かすにはどんな魔法使いでも魔力が足りない。
廃城で何事か企図しているとしても、それは狂人の夢で終わるはずである。
だが、何らかの魔法装置ないし、魔力の集積地を王弟が確保しているなら話は違ってくる。
そうした巨大な魔力を制御する遺失呪文を王弟が使っているのではないかというのがガラテアの推測であった。
「それがしは故郷でそうした魔法を研究したことがござる」
嘘だが。もっと簡単な方法があるからだ。
「ううむ……息子との縁だけのことで命がけの任務についてくだされとは……」
「死ぬつもりはない。事の次第を確かめた上は即座に逃げ出す所存」
「ううむ……」
「それがし、危険には甚だ敏感な男でござる」
どうも情けない事を言っているな。
「お願い申す……」
よし。王都フロンド上層部のお墨付きを得た。
ガラテアが連れてきた"案内人"は奇態な生き物だった。
「鳥?」
銀色の羽毛を持つ大型の猛禽である。
目がなく、代わりに大きな触覚が生えている。
「絶滅寸前の魔法生物の一つでな。調査隊が持っている特殊な石をはるか遠くから探すことが出来る」
「こんな生き物など扱えぬぞ」
「わしがともに行く。息子の友人を死地に追いやってのうのうとしておれない」
責任感の強い男だ。
正直邪魔ではあるが、残っているように説得する材料がない。
「衛兵の指揮は……」
「副官に任せてきた。経験を積ませるのに調度良い」
「当主に万一のことがあれば……」
「カートもいることだし、心配はない。それに、王の騎士としてフロンド防衛に資する行為のためなら死をも厭わぬ覚悟があるつもりだ」
どうにも仕方がないようだ。
ため息をついて後ろを見ると、アリスとフェイが心底どうでもよさそうな顔をしていた。
廃城に続く道は廃れて久しく、馬車が通れるような状態ではないらしい。
しかし、我は騎乗があまり得意ではない。
特に森の中の消えかけた道を辿るなど、鎧を着ていなくても手に余りそうだ。
魔法でなんとかするしかないだろう。
『通り抜け』
我は馬車に乗ったまま病み骨の短杖をかざし、呪文を唱えた。
威圧的に立ちふさがる森がばたばたと倒れ、平らな道が開かれた。
「凄まじいものですな。これも、遺失魔法で?」
我はあいまいに頷き、アリスを急かした。
この道は一時的なものだ。
数分と持ちはしない。
しかもその距離はわずか馬車十台分ほどだ。
道の端に来る度に、同じことを繰り返さなければならない。
『通り抜け』
『通り抜け』
『通り抜け』
『通り抜け』
「い、いくらなんでも魔力が持つまい!」
『通り抜け』
『通り抜け』
生憎、我は魔力切れを起こさないのだ。
だが、最近短杖を気軽に使いすぎるな。
このままではいつまでも偽の主に借りが返せない。
反省すべきだ。
この死体騒ぎが思惑通りアンデッドに関わってくればいいのだが。
「うわあああああ!」
「キャアアア!」
おっと、少し詠唱が遅れた。
『通り抜け』
アリス達なら今では木にぶつかったら木のほうが折れると思うのだが、こういった恐怖はまた別物なのだろうな。
我等はガラテアが当初見込んでいた三分の一の時間で廃城に着くことが出来た。
我が詠唱のし過ぎでMPではなくHPが尽きそうなほど疲れたことと、ガラテアが途中から下を向いたまま一言も発しなくなったことを除けば順調そのものであったと言えるだろう。




