死の巨人
六日というのは廃城まで行って戻ってくるのに必要な期間だ。
だからそちらで何事か起こり、対処しているのなら戻って来なくても不思議はない。
だが、ガラテアは不安があると言う。
送り込んだのはこうした探索に長けた者達で、報告を第一に考えるよう訓練されている。
何かあったとしても、留まることになった理由を含めた報告を持たせ、一番足の早い者を帰しているはずだ。
この場合、帰りは単独行なので行きの半分の時間で済む。
すなわち、昨日には戻っているのではないか。
それがないのは、つまり戻れない何らかの事情があるかもしれないのだ。
「探索部隊にはそれなりに腕の立つ者もおり、山賊などが相手であれば引けを取るはずはありませぬ。最悪の事態を考えてまとまった人数を送らねばならないかと考えておりました」
「何人ほどであろうか」
「さて、使い物になる者を根こそぎにしても五百いるかどうか」
ガラテアが言った人数には驚いた。
衛兵隊の半分以上ではないか。
「冒険者を含めるという手もござる」
「彼らには無論期待しておるが、多人数の連携という点で難がある……お分かりいただけようが」
ガラテアは眉間のしわを深くした。
「それほどの相手と考えておられるのだな。心当たりがおありか?」
「うむ。これは、言っていいものか憚られるのだが」
彼は言葉を切った。
「ハイデンベルク殿を見込んでお話し申す」
ガラテアの考えている相手とは、この国の宮廷魔術師であり、王弟なのだという。
王族にもかかわらず宮廷魔術師の位を得て喜ぶような、ある意味変人ではあるが、気の良い男で国民的な人気も高かったらしい。
その男がこの数ヶ月というもの人が変わったように引きこもりがちになり、自室から出てこなくなった。
義務である謁見の儀すら欠席数回に及び、たまりかねた国王本人が近衛に命じて扉を壊して部屋に入ると、そこにはすでに誰もおらず、見るもおぞましい魔術実験の結果のみが残っていたという。
「実験?」
我は問い返したが、ガラテアは具体的には答えなかった。
しかし、想像力豊かとは思えぬ彼が実験とこの度の事態を結びつけて考えていることからして、その内容は死体を弄ぶようなものであったのだろう。
この王弟と、その弟子六人が行方不明になった直後に動く死体事件が起こっている。
ガラテアがその責任を問われていた理由も、人気のある王弟の狂ったとしか思えない行動に対しどう考えてよいものか困惑するフロンド上層部の八つ当たりに近い感情があったようだ。
最近ではさすがに彼に対する風当たりも弱まり、王弟をあくまで庇う者は少数派になっているという。
「だが、その少数というのは王ご自身も含まれる。ご兄弟の情がお有りゆえ致し方ない」
「しかし、討伐には行くのであろう?」
「うむ。しかし王の裁可が無く、攻城兵器は持ち出せぬ」
ちょっと待て。
「なぜ数人ほどの魔術師を制圧するのに攻城兵器が必要なのだ。いくら強力とはいえ、相手は肉体的には脆弱な魔術師。そもそもそんな鈍重な攻撃が当たるものか?」
「かのお方の攻撃魔法を危険視しておるわけではない。むしろ防御、治癒や支援に長けた方で、弟子も全てその系統の魔術の専門家だ」
「では何か大型の怪物を従えているのか」
ガラテアは我を試すように見た。
「わしを狂人とは思っていただきたくないのだが」
「構えてそのようなことはない」
彼は持ち物の奥から薬品と血の匂いのする羊皮紙を取り出した。
「殿下の部屋にあったものだ。討伐反対派を説得するために借り受けた」
それは、灰色の人間のように見えた。
器用な筆だが、おそらく素人が描いたものであろう。
何かがおかしい。
だがそれだけに一種異様な迫力が宿っている。
背景は草原と、廃屋。
その者は崩れかけた廃屋の中に横たわっている。
「おわかりか」
ガラテアがもう一度羊皮紙を突き出し、我はようやくそのおかしさの原因に気がついた。
その者がいるのは廃屋ではない。
はっきりは描かれていないが、おそらく砦か城だ。そして草原に見えたのは森であろう。
これは神話の巨人を描いた絵だ。
我がこの世界で見た最も大きい生き物は古竜ドレイクだったが、この巨人は竜よりはるかに大きい。
「しかしこれは絵ではござらぬか」
「他の証拠もあって」
ガラテアは苦々しく言った。
「王弟殿下はこの巨人を作るために死体を集めているとわしは思っておる」




