森へ
「ごふっ」
アリスと衛兵の勝負はすぐついた。
本身の剣を使うわけにはいかないので模擬戦用の木で出来た剣を双方が握り、ものの数秒。
アリスの刺突が頑強そうな衛兵を壁際まで突き飛ばした。
「力を入れすぎだ!」
殺してしまっては問題になる。
さきほどまでの気楽な喧騒はどこかに行き、しんと静まり返る練兵場を我は走った。
半ばから折れた木剣を持ったアリスがおろおろしている。
「そ、そんなつもりじゃ……軽いフェイントで……」
構わず、病み骨の短杖を抜き、血泡を吐く衛兵に治癒呪文をかけた。
人間が飛ぶほどの力で突かれれば常人なら内蔵破裂、背骨すら折れているだろう。
『大治癒』
僧としての我の得意呪文だ。
最上級魔法ではないが、今の魔力の上乗せがあれば、"邪悪なる治癒"を上回る治癒力を発揮するはずだ。
衛兵は盛大に血をもう一度吐いた。
これは心配ない。喉と消化器に詰まった血を吐き出しただけだ。
青いを通り越して白かった顔色が戻ってくる。
更に数度血を吐き、練兵場付きの治癒術者が駆けつけるころには呼吸は常態に戻っていた。
「完全に死んだと思ったのに……」
衛兵は正気づくと、信じられないように腹をさすった。
胴鎧は完全に砕け、腹が露出している。
「我が部下をお救い頂き、ありがたく存ずる。試すような真似をいたしたこと、幾重にもお詫び申す」
ガラテアはアリスの腕と我の魔術で納得してくれたようだ。
怪我の功名というものである。
「アリス。お詫びせよ」
明らかにやりすぎだ。
「ごめんなさい……」
消え入るような声で謝るアリスに、衛兵とガラテアは恐縮しきりであった。
その後、何人かの腕自慢と立ち会ったアリスはそれなりに上手くやるコツを覚えたようだ。
"見えない腕"が持つ盾のほか、両手に二枚の盾を持ち、相手を追い詰め、身動き出来なくする。
盾が宙を飛ぶ様はなかなかの騒ぎを引き起こした。
立ち合いを望む者は引きも切らなかったが、一番腕の立つ者でも相手にならないのは明白で、ガラテアが強制的に勝負を打ち切らせた。
「なんという豪腕!かような美しき女子がこれほどの剛勇の持ち主とはこの目で見ても信じられぬ」
彼はは賛辞を惜しまなかった。
「いやそんな、美しいとか、あははは」
照れ方ががさつなのは仕方ない。
「私なら一発で……」
アリスばかり注目されて面白くないのか、フェイがぼそりと物騒な事を言った。
そういうことではないのだ。
「廃城でござるか。調査をしたいと」
練兵場脇の食堂で夕食を取りながら我が本題を切り出すと、ガラテアは案の定渋い顔をした。
他国の者に問題を探られたくないのであろう。無理もない。
あまり外聞の良い事件ではないからな。
だが、ガラテアは予想外の答えをした。
「我々も実は調査隊を出しているのでござるが」
六日前に動く死体を追って出した部隊がまだ戻らないのだと言う。




