アンデッド?そうとは限らない
このまま廃城とやらに向かってもよいかも知れぬ。
フロンドから走り去った死体どもの行方もおそらくそこであろう。
だが、まだ完全に決めつけるには不足がある。
今少しの調査をしてからでも遅くはないような気もする。
我はしばし思案し、死体が抜け出た穴を見たいと村長らに告げた。
「あのような不浄な場所に若様が近づくのは……」
村長は渋ったが、本当は自身があまり墓地に行きたくないのであろう。
我等だけでも行くというと、やっと重い腰を上げて案内してくれた。
もちろん村長の妻と娘はついてこなかった。
暑苦しさがなくなり、重畳である。
村はずれの墓地は極めて簡素なもので、オールドワールドの人間が見れば野原と変わらぬと言うだろう。
それでも簡単な墓石があるのだが、そのうちのかなりの数が倒れている。
村長の弁によれば、この一月ほどの間に事故や野生のモンスターとの争い、喧嘩などで死んだ者の墓だという。
「ここには代々の墓があるのだろう。それにしては倒れた墓の割合が多すぎないか」
およそ四分の一というところか。
「貴族様がたとは違いまして、わしらのような者の墓は一族を同じ穴に入れるんでございます。一番上におった者が抜けだしたわけでして、古い骨までが起き上がったのではございません」
なるほど、簡単な族墓ということか。一度掘った穴は掘り返しやすいので手間もかからぬのだろう。
それにしても一月前の死体では、とても新鮮とは言えぬ。
村長の話では、かなり無残な死体もあったようだ。
これまでの話と食い違いがある。
そんな状態では足も遅かろう。
霧の中で会った者どももそうした半ば腐れた死体だったのでよろめいていたのか。
「どうもおかしい」
我は村長宅のベッドで天井を見ながらつぶやいた。
村長の娘が妙な具合に身をくねらせて遠まわしに同衾を求めて来たが、アリスとフェイが「若様は私達と一緒でないとおやすみになりません」と言い放ったので退散した。
完全に誤解されただろうが、この村には二度と来ないだろうから関係ない。
関係ないのだ。
アリスのいびきがうるさい。
フェイの足が我の腹に乗っている。
なぜ本当に同じベッドで一緒に寝ているのだ。ここは旅の天幕ではないぞ。
いや、どうもおかしいというのはこの状況に関する独白ではなかった。
我は思考をなんとかまとめようとした。
死霊術と物動術で出来ることはよく似ているが、原理は全く異なる。
ポイントは魂が関わるか否か。
同じように動く死体でも、死霊術で作ったものはより高度な判断力を有する場合がある。
場合がある、というのは、込める魂によっては単純な命令も聞かないかもしれないからだ。
きちんと隷属した魂を使い、正式な手順を踏んで作った死霊術によるゾンビーは有用な召使になる反面、量産出来るものではない。
そして、物動術によるゾンビーは単純な命令しか実行できぬ。
迷宮にいたボーンゴーレムと大差ない存在で、魔力さえあればいくらでも作れるが殺したり破壊したり以外のことに使うのは無謀というものだ。
わざわざ死体を集める時点で物動術の術者がこの騒ぎを起こしている可能性はほとんどない。
物動術なら死体など使わなくても兵士を作れるからだ。
ボーンゴーレムなどは単に迷宮に大量にあり、成形しなくても使える材料を使って作ったに過ぎない。
死体である必然性がないのだ。
だが、腐り、崩れた死体を使って死霊術を行う理由はなんだろう。
魂は人間のものを使っていると思うので、あまりにも壊れた死体ではうまく動けない。
魂に刻まれた常識が邪魔をするからだ。
両足が折れていても、物動術で作ったゾンビーは何の問題もなくその折れた足で走るが、死霊術ではそうはいかない。
我は何か勘違いをしているのではないか。
そう思ったが、それ以上思考は進まず、眠りに落ちた。
柔らかいベッドで眠ったにもかかわらず、あまり疲れが取れていない。
我は働かない頭で村長家族と村の者たちに礼を述べ、フロンドの衛兵隊に見回りに来てもらうように言っておくので心配しないように告げた。
「衛兵の方々に来ていただくと安心は安心ですが、費用の方が……」
そちらの心配か。面倒だな。
我は銀貨の袋を渡し、歓呼に送られて村を出たのだった。




