死と不死
"混沌の渦"はこの世界から竜人という種族を根絶やしにした。
アルカディアと冒険者学園が誇る迷宮は三十階を境に溶岩に沈み、おそらく再生することはない。
我等の報告は衝撃というようなものではすまない影響を与えた。
持ち帰った最古の竜ドレイクの死体は、なにものかの終焉を告げていた。
それが意味するのは、魔族と人族との微妙な並存の終わりであり、アルカディアの長い独立の終わりであるのかもしれなかった。
我等を迎える学園関係者の顔は、厄介事から開放された者のそれではなく、むしろ暗澹としていたと言えよう。
丁重に扱われはしたものの、我等はしばしの禁足を告げられた。
アリスとフェイは不満を述べたが、影響の強さを考えれば、やむを得ない仕儀ではあった。
何度かの事情聴取を含め、禁足は一月ほどに及んだ。
その間に、フィリフェインの角と短剣の売却が済み、借金が綺麗に無くなった事は言っておくべきだろう。
しかし、他に特筆すべきこともなく、退屈しかけていた我等の元に奇妙な噂が齎されたのは、そろそろ禁足期間も明けようと告げられた頃のことだった。
「死体が蘇った?」
「はい。兵士の列を蹴散らし、森に走り去ったと」
この噂を国許からの手紙で知り、教えてくれたのは年少クラスのカート少年だった。
彼は亜竜から助けられて以来、フェイに惹かれているらしく、我等がドレイク討伐によって微妙な政治的位置に置かれてからも怖じずに通ってくる。
彼の実家はアルカディアに近いフロンドという国にあり、父はそこで貴族階級の騎士として仕えているそうだ。
フロンドの王都は国と同じ名前で、周囲を深い森と谷に囲まれている。
森は盗賊には恰好の隠れ家でもあり、そこで長年悪名を馳せた大盗賊が騎士団との戦いで死んだのだという。
手下の多い盗賊であり、首領の死体を奪い返すなどという企てがなされぬとも限らないので、火葬に付すにあたって、厳重な警備がなされていた。
その警備を担当していたのがカートの父である。
手下は現れなかったが、火に投じる直前、死体が半分斬られた首を振りかざして立ち上がり、兵士の列に突っ込んで大暴れした挙句、逃亡したという話なのだ。
「それは……」
興味深い、と言おうとしたが、カートから遮られた。
「わかってます!そんなことあるはずがないんです。でも、父がわざわざゴーレムでもないし、魔法生物が成り代わっていたなんてことも絶対にない、なんてことを僕への手紙に書いてくるんです」
謹厳で、悩み事などがあったとしても家族にそれを打ち明けるなどありえなかった父が、学業に励む息子にさえ愚痴めいて書き送ってくるということは、相当追い詰められているのではないか、とカートは言うのだった。
もちろん、ともに警備していた兵士らは証言をしてくれたのだが、あまりにも信じがたいことなので直接見ていない末端の者などは何かの幻だったのではないかと今になって言い出す始末で、カートの父の立場は悪くなる一方なのだという。
「そりゃ信じるわけないし」
「ですよねー」
アリスとフェイは全く気がない。
むしろ邪魔だと言わぬばかりだ。
カートは俯いてしまった。
困ったものだ。
「二人とも少し黙れ。興味深い話だ」
我はカート少年から更なる話を聞きだそうと試みた。
これがアンデッドに関する事件であるなら、調査しなければならない。




