地上にて
「ハイデンベルク様!魔人を捕まえてきました!」
アリスが走ってくる。
それは喜ばしい。
我は皆殺しにしてしまったからな。
後ろからフェイが引きずってくるのがそれであろう。
しかし、頭を掴まれて意識がないように見えるが、大丈夫だろうか。
その後ろから大量の職員が追いかけてきているように見えるのも、大丈夫だろうか。本当に。
「ちゃんと説明したのか」
「はい!今から説明しますね」
「後ろの職員や教官に対して説明したのかと聞いているのだが」
「あれ?」
フェイとアリスが初めて見るような目で彼らを見た。
「いましたっけ?」
教官たちが深く頷く。
「気づきませんでした。どっちが早くご報告して褒めていただけるかって競争になっちゃって」
「そうか。まあよい」
「よくありません」
先頭に立っていたレイランド教官が突っ込んできた。
「その竜人を引き渡してください。こちらで封印牢に入れます」
「無理です」「ダメです」
フェイとアリスが平然と言う。
「この魔人は戦利品なのです」
「ま……魔人!本当ならなおさら早く封印しないと」
その時、魔人が低く呻いた。
「おのれ……人間め……」
「うるさいですね」
フェイが右手に力を込めると、頭蓋骨が軋む不穏な音がして、魔人の全身から力が抜けた。
異臭がする。
気絶して失禁するのはかなり危険な状態ではないか。
「殺しておらんだろうな……」
フェイは壊した玩具を隠すように魔人を背後に移動させた。
子供か?いや、子供であったな。
「見せてみろ」
うつむくフェイと対照的になぜか少し嬉しそうなアリス。
魔人は完全に事切れていた。
少なくとも封印牢云々は考えなくてよくなったな。
魔人を含む大量の竜人が進軍中であることが明らかになったため、迷宮はしばらく閉鎖されるという。
我らが遭遇した二隊以外にも複数の竜兵団が学園のパーティーと遭遇していたそうだ。
我が倒したゲルトフのような好戦的な者もいて、いくつかのパーティーが甚大な被害を受けたという。
「そやつらがそれがしを探していたということか」
「そういうこと。学園としては早いところなんとかしてほしいんだよね」
リーティカがぞんざいに言う。
「それはこちらとしても望むところであるが……報酬はどうなるかな」
「今報酬額を言ってる場合かな。借金のことならもうすぐ……」
校舎の地下から轟音がした。
「あー、時間切れだ。あいつら地上まで出てきやがった。ここは頼んだ。十人評議会で他の出口は塞いどくから!」
リーティカは身を翻して走り始めた。
事、ここに至っては仕方ない。
「フェイ、アリス。行くぞ」
「「ハイ!」」
三人目の魔人はローブを纏った魔術師風で、よくはわからないが女性のようにも見えた。
迷宮の扉は無残に砕かれ、竜兵団がところ狭しと準備室から校舎内に飛び出している。
「貴様がヨーハン・ハイデンベルクか!我が夫を返せ!」
竜人にも夫婦というものがあるのか。
「死んだ。死体なら返してやってもよい」
絶句しているうちに、通路から他に逃げそうな竜人を"光弾"の狙撃で殺害していく。
しかし、今回は少し様子が違った。
"光弾"が防御魔法によっていくつか弾かれたのだ。
「魔人以外にも魔法を使う者がいるのか」
「アルセニーの仇はこの魔人ツェツィーリヤがとる!竜人魔法戦士団!殺せ!」
各種元素魔法とその複合魔法が雨あられと降り注ぐ。
フェイはすべて避け、アリスは盾と剣で受けているが、我はそうは行かない。
防御する術がないので素通しだ。
一撃は大した威力でもないが、数が多い。
「ハイデンベルク様!」
アリスが前に出たが、体格が違うので全部代わりに受けられはしない。
体表に炎が、雷が爆ぜ、足元が凍る。
HPが減っていく。
しかし。
「どうということはない。魔人の魔法に集中しろ」
この程度で我の体力を削りきるには数時間かかるだろう。
フェイが立ち止まっている。
どこか負傷したか。
「ゆるさない!!もうあやまってもゆるさない!」
『鬼哭』
怒号するフェイを中心に暗黒の球が生まれた。
その球は急速に広がり、我らをも飲み込む。
風景が一変した。
地平の果てまで続く砂漠に、無数の傷ついた墓石が並んでいる。
墓石に名前はない。
竜人たちも我らと同じように現れた墓石の林に困惑しているようだった。
魔法を放とうとする者もいるが、その声はフェイの叫びに打ち消される。
「ここはおまえたちが罪をその血で購う場所だ!大懺悔せよ!」
フェイがさらに狂ったように叫ぶ。
墓石が一斉に倒れ、竜人とそっくりな姿をしたものたちが地下から現れた。
全て、絞首縄を首から垂らし、長い舌をだらしなく口からはみ出させている。
絞首死体は竜人たちを捕まえ、有無を言わさず引き倒した。
ツェツィーリヤも瓜二つの死体に捕まっている。
「こんなはずが!幻覚だ!皆、目を覚ませ!」
しかしその声は異常なほどかすかで、どこか遠くから聞こえてくるようだ。
「ヨーハン様を傷つけた罪により、即決裁判!死罪!」
フェイがツェツィーリヤの頭を吹き飛ばした。
虐殺が始まった。




