剣と拳
「何やってんの?フェイ」
十五階であたしたちのパーティーの前をフェイのパーティーの女魔法使いの大きなお尻が塞いでいた。
ずいぶん騒がしい。
「ああ、姉さん。竜人がいましたよ」
「うそ?!三十五階まで降りないといけないとか言ってなかった?」
「向うが竜人って言ってるので間違いないと思うんですけど」
「お~~、いいわね!偉い奴のとこまで案内してもらいましょ」
「いや、いきなり捕虜にするとか言われたんですけど。盾役が魔法で撃たれたんで戻ってきたんです」
フェイの足元にあの綺麗な顔をした兄ちゃんが転がっている。
動かないし、顔が白いけど女神官が必死にヒールをかけているから死んではいないんだろう。
「あっそ。そいつらどこにいんの?」
「私が魔法の壁で足止めして、なんとか逃げる時間を稼いだんです!百匹以上の竜人が押し寄せてきて、このままじゃみんな殺されてしまいます!」
大きなお尻の女魔法使いが真っ青になって割り込んで来た。
「アリスさん、教官たちに救援を求めるべきです!もしその話が本当なら、上層階にいる生徒も皆殺しになりますよ!」
あたしたちのパーティーの斥候も必死に訴えてくる。
めんどくさいわね。
「丁度いいじゃないの」
剣を抜いてくるくる回しながら言う。
「あんたたち負傷者を運びなさい。フェイと一緒に行って"お話合い"をしてくるわ」
危険だ!とかここはいったん退いて!とか言ってるけどどうでもいい。
「姉さん。多分、ですけど魔人がいますよ。ヨーハン様がいないと姉さんのスキルも使えないのがあるんじゃないですか?」
「ますますいいじゃないの。何、あんたビビってんの?」
「まさか。一応報告だけですよ」
フェイは唇の端だけを釣り上げてものすごい笑いかたをした。
「……あんた化け物じみてきたわね。その顔、ハイデンベルク様に見せるんじゃないわよ」
「当り前です!」
「しっかし、あの程度の魔法使いが使う壁呪文でこんなに長く足止めされる魔人ってのも、たいしたことないわね」
あたしたちは遭遇場所まで歩きながら軽口をたたいた。
「あんな呪文、役に立つわけないです。一秒も持ってません」
「じゃあなんでこんなに追って来ないワケ?」
「隙を見て魔人らしき奴の後頭部、ブっ叩いてきたので」
「あはは~、じゃああっちも負傷者治療中ってことね」
「硬い手ごたえだったので頭蓋骨は割れてないと思いますよ。ああ、いました」
いるいる。
ほんとに百匹いそうだ。
崩れかけた噴水の周りに集まって座り込んだ指揮官らしい奴をじっと見てる。
「こんなににょろにょろしてるとキモいわね」
「ガラじゃないですよー。ヘビ食べたことあるって言ってたじゃないですか」
「うっさいわ!」
あ、気付かれた。
「声が大きいですよ」
「今さら隠れてどーすんのよ。おらァ!命が惜しかったら土下座しろ!誠意見せろ!」
もちろん聞きゃーしないので、ぱぱっと二匹ほどサバいて首を投げつけてやった。
「き、きさまら!無法にもほどがあるぞ!」
指揮官らしき綺麗な鎧を着たやつがフラフラしながらがなりたてた。
「足元フラついてんじゃないの。だっらしないわね!それでも魔人?」
「我が名は魔人アルセニー!人間界に不要に干渉するのは避けようと思っていたが、貴様らのような野蛮人には遠慮は不要だな!」
そういうと何やら魔法を唱え始めた。
「ちょっと強めの魔法みたいです」
「んなこたーわかってんのよ!トカゲとフェイしかいないし遠慮しない!たぁ!」
『かっこいいポーズ!』
「罪の報酬は死。されど、御子を信じるものに永遠のいのちのあらん」
あたしはふわふわ浮き始めた。
全員の注目が強制的に集められる。
アルセニーの魔法の詠唱も中断だ!
でも、フェイまでなんか祈りのポーズみたいになっちゃってる。
「フェイ!今のうちにボコっちゃいなさい!」
「ハイ!」
ドカドカ、ぐっちゃんぐっちゃん。
あー、楽だけど、これ手柄っていうには微妙だよなー。
もうちょっと丁寧な仕事をしよう。
「魔人は殺すんじゃないわよ!半死半生よりもう少し強めに殺しておきなさい」
「姉さんは言うことが難しいですー。なんとなく意味はわかりますけど」
「言葉が不自由なのは自覚してんのよ!素直にハイって言いなさい!」
「ハーイ」
どーも最近反抗的ね。しつけた方がいいかしら。
ま、ともあれ、これで魔人ゲット。ハイデンベルク様にお褒めいただけるって寸法よ。
もしかしたら頭なでなでとかしてもらえるかも!?
あたしは輝きながら期待に満ちて声高く笑った。
アリスの福音書・第一章第二節
「祝福されたる者はかっこいいポーズとなりて天空より号令せり。異教徒輩、その哄笑に慄くこと甚し。怯懦の極み、嘲うべし」




