竜兵団
竜人のあるものは人間より高い知性を持つという。
それを人間よりはるかに長い寿命のためと考える者もいる。
ただ、彼らは単一の種族ではなく、いくつかのレプタイル属から各々今の形になったために知能に大幅な差があるのだと考える者もいて、今はこの考え方の方が主流なのだそうだ。
我もその考え方は妥当であると思う。
少なくとも、今目の前に立っている竜人が千年生きようが何の知性も持つようにはならぬだろう。
鱗だらけの顎からは毒液かよだれかわからぬ液体を垂れ流し、目には餓え以外の表情が一切ない。
鎧は着ているが、ほとんど役にたっていなさそうだ。
そうした獣じみた竜人どもが十階の通路を埋め尽くすように進軍してきていた。
「ヨーハン・ハイデンベルクというのは貴様か!」
竜人の軍団の中から声がした。
「無礼者。人に名を聞く前に名乗るがよい」
我はあえて挑発的に言い放った。
通路に隠れさせているシィリィ達を逃がさねばならぬ。
しかし通常三十五階以降しか出ぬという竜人がなぜここにいる。
「竜兵団の名にかけて、貴様を殺す!」
結局名乗らないまま、竜人どもが押し寄せてきた。
「シィリィ!階段まで走れ!振り向くでないぞ!」
我は叫ぶ。
『聖光』
眩い光が迷宮の薄明を満たし、愚かな竜人どもの網膜を焼く。
ある種の蛇は熱で敵を感知するというが、竜人に同じ能力があっても目潰しはこたえるであろう。
「卑怯者めが!」
のたうちまわる竜人の間から、美々しい鎧に身を包み、長剣をたばさんだ竜人が大股に進み出た。
「小汚いトカゲどもを前に押し寄せておいて何を申す」
我はせせら笑った。
「汝がこのトカゲどもの将帥か。それがしの首を所望するならば、その剣が飾りでないところを見せてみよ」
「もとより!わが名は魔人ゲルトフ。命乞いをしても遅いと知れ」
ゲルトフは剣を抜き、我の背後から飛んできた雷の矢の呪文を煩げに払った。
ヴェルデの魔法だ。
余計なことを。
「シィリィ、ガランド、ヴェルデ。先に戻っていろと言っただろう」
「一人でどうするの!あたしが前で抑えるわ。大丈夫、竜人との戦い方は教わったし」
シィリィが進み出ようとする。
「危ない!こやつはただの竜人ではないぞ。魔人だ。お主らがいても足手まといにしかならぬ」
はっきりと言う。
ショックは受けるかもしれないが、死ぬよりはいいだろう。
「何をごちゃごちゃとやっておるか!」
ゲルトフの剣が人間の反応速度を超えた速さで横なぎに振られた。
やむを得ぬ。
剣を右腕で受け、同時にシィリィの体を抱え上げて後方に放り投げた。
右腕から黒い血が流れる。
「えっ?」
絶句している。
「あの程度を見切れぬのでは死ぬだけだぞ。早く戻れ!」
「……わかった。すぐ応援を呼んでくるから!」
余計な事をしないで欲しいのだが。
「あんなガキどもをかばって傷を負うとはな。愚かだぞ」
ゲルトフが嘲笑った。
「バカめ。せっかく受けてやったのに腕の一本も切り落とせぬか」
我は嘲笑を返した。
右腕の傷から漆黒の血が流れ、地面に付くと奇怪な臭気が辺りに満ちる。
丁度良い。
"病み骨の短杖"の初陣を飾るとしよう。




