指先が紡ぐ光
音の無い世界で生きる彼女と、音のスペシャリストである彼。
2人が見つけた言葉よりも確かなもの。
これは2人が「心臓の歌」を聴くまでの物語
凛にとって、世界は色と光、そして「振動」でできている。
スマートフォンの画面の中で、長い指がギターの弦を弾く。
フォロワー数万人を抱える『ハル』の動画。
彼は決して顔を出さない。
パーカーのフードを深く被り、映るのは鎖骨から下と、使い古されたアコースティックギターだけ。
イヤホンを耳に押し込んでも、メロディーは聞こえない。
けれど、弦を弾く長い指のしなり、強くストロークした時に揺れるパーカーのシワ。
そして時折、リズムに合わせてトントンと床を叩く足の動き。
それらすべてが、彼女の目には鮮やかなメロディーとして映っていた。
凛は勇気を出してコメントを書き込む。
『あなたのギターを弾く指が好きです。音が聞こえなくても、あなたの歌は私に届いています』
数分後、通知が鳴る。
返信ではなく、新しい動画が投稿されたという知らせだ。
慌てて開いた画面の中で、彼はいつも通りギターを抱えていた。
そのまま、長く、しなやかな指で弦を押さえるのではなく
カメラに向かってぎこちなく、けれど丁寧に「ありがとう」の手話を形作ったのだ。
それから一度だけ頷くと、今までで1番激しく、力強く弦を震わせ始めた。
それを見た凛の心臓は、これまで感じたことの無いほど激しく波打ち、その胸を叩いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「饒舌な沈黙」本日より連載開始です。
読み終わった後に、心が幸せになるようなお話が書ければいいなと思っております。
次回からも、どうぞよろしくお願いします。




