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【14万PV突破】魔王がポンコツだから私がやる。──バグってる異世界をぶん殴る女たち  作者: さくらんぼん
第10章:【サクラ】常闇のダンジョンを脱出しようー!!
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#040|桜020:走れ!お姉ちゃん!

「エスト様! エスト様! しっかりしてください!」


 私は瀕死のエスト様を背負い、ダンジョンを走っていた。


 どれくらい走っただろう。

 もう時間も方向も分からない。


 足を動かしているのは焦りだけで、

 暗闇をさまよう夢の中のように、ただ走っていた。


「ああ……私のせいだ……エスト様!」


 返事はない。


 息が、喉に刺さる。

 足が重い。

 でも、止まれない。


「もう少し……もう少しですよ!

 どうか、頑張って……!」


 背中から返事がない。

 小さな体が、やけに軽い。

 その軽さが、恐ろしい。


(……なんで、こんなことに……)


(……くそ!あの時、私が……)


 ──話は少し遡る。


◇◇◇


「チクセウ……チクセウ……

 あのトカゲめ……チクセウ……」


 ドラゴンに敗北し、

 ホームの魔王の間に戻った私は、お酒に逃げていた。


 テーブルには空き瓶が転がり、

 私はその隣で椅子にもたれかかっている。


「お姉ちゃん!?

 そのお酒! ……鬼ころし!?」


 エスト様が、二度見した。


「ど、どこにあったの!?

 ……お、鬼が鬼ころしを飲んでる……」


「黙りゃッ! 小娘がッ!」


 私はテーブルに空き瓶をガンッ!と叩きつけた。

 中身はもう空。


「ひっ……」


 エスト様が後ずさる。


「……私は……悲しいんだよ……」


 椅子から半分ずり落ちながら、涙と鼻水で顔ぐしゃぐしゃ。


「女の子がそんな顔しちゃダメだよ?」


「異世界に転生して鬼になってるわ……」


 角を指差して「見ろよこれぇ!」と叫んで、グラグラ揺れて倒れかける。


「……」


 エスト様が沈黙。


「貧乳のままだわ……」


 胸をペタペタ押さえて、目をそらす。


「……」


 エスト様が目を泳がせる。


「ドラゴンに負けるわ……」


 机に突っ伏してバンバン叩きながら泣き叫ぶ。


「……面白い」


 エスト様が小声で呟いた。


「哺乳類ですらなくなるわ……」


 床に転がってジタバタ、靴が片方すっ飛ぶ。


「あ」


 エスト様の視線が、飛んで行く靴を追う。


「はっ!? あはは……! あははははは!」


 いきなり起き上がり、ピースサインを振り回す。


「あーっはははー……んー……」


 最後は盛大にゲラ笑いしながら、そのまま机に顔面ダイブ。


 スーッと寝息を立てた。


「情緒が仕事してない!」


 エスト様が叫んだ。


 ──その時だった。


 突然ガバーーーッ!


「……ん……あぁッ!!!」


 私は突然起き上がり、エスト様の紅の瞳を真正面から見据えた。


「ひぃッ」


 エスト様が反射的に一歩下がる。


「エスト様……私はとんでもない事に気付きました!」


「酒くさッ!」


「これは大発見です! いいですか?」


「来るな! 酒くさッ!」


「私の《スキル:暴食》……これで様々な生物のスキルを食べて習得していけば……」


「う、うん……」


「……ん? スキルというか特性だよね……スキルって言うな。イライラする……クソがぁーーーーーッ!!!」


「お姉ちゃん! 女の人がそんな言葉使っちゃダメ!」


「……あれ何の話だっけ? ……あぁ。そうそう!」


「めんどくさい!!」


「このまま行けば!憧れの【究極生命体(アルティミット・シイング)】になれる可能性があるのです!!!」


「お姉ちゃん、な、何を言ってるの?」


「具体的に言うと、溶岩の中でも生きてられます。」


 私は最高のドヤ顔をした。


 さらに、めちゃくちゃ関節を曲げた奇妙なポーズをとった。


「なんか凄いこと言ってるけど頭に入って来ない!

 あと、そのポーズ!腰いわすよ!?」


「……」


 私は真顔で、奇妙なポーズのまま見つめ返した。


「ひいッ」


 エスト様は反射的に一歩下がった。


「フフフ……ウィンウィンウィン……」

 私はどこかで聞いた“足をスルスルする音”を、口で鳴らした。


「その効果音怖いよ!」


「……でもね……宇宙空間だけは無理なの……ぅぅぅ……凍るの……宇宙では凍るのよ……考えるのをやめたくなるの……よぅ……」


「お姉ちゃんーーーッ!?」


「なんかさ……“お姉ちゃん”って、

 ちょっとだけ……あったかいんだよね……

 名前じゃなくても……誰かに呼ばれるのって……

 いいな……私は……ここに居るんだな……

 家族……って……うーん……Zzz……」


 ここで私の記憶が飛んでいる。


◇◇◇


 ──翌朝。


 サクラは机に顔面ダイブしたまま、すぅすぅと寝息を立てていた。


 頬に少し涙の跡、口元には泡。

 全力で笑って泣いたあとの、ぐちゃぐちゃな寝顔。


「もう……」


 エストは苦笑しながら、棚の奥からそっと布団を取り出すと、静かにサクラの背中へとかけた。


「お姉ちゃんは……強いのに、弱いとこもいっぱいあるね」


 その寝顔を、エストはしばらくじっと見つめる。


「……これじゃ魔王失格だよ。守られてばっかりで……」


 唇を噛みしめて、視線を決意に変えた。


「……お姉ちゃんは、私のために必死に頑張ってくれてる」


 拳をぎゅっと握る音がした。


「……私だって、守られてばかりじゃいけない」


 拳が、わずかに震えた。


「お姉ちゃんに頼ってばかりじゃ、魔王になれない!」


 小さな肩を震わせながら、それでも前を見据えるように。


「私が、もっと強くならなきゃ……」


「お姉ちゃんを、守れるくらいには……」


 ほんの少し震えた指で、テーブルに突っ伏したままのサクラの髪をそっと払う。


「……いてくれて、ありがとうね」


「名前を呼んでくれて……ありがとね」


 ぽつりと、誰にも聞こえないように呟いた。


 ──サクラは「ぐごぉ……」と寝返りを打ち、机から転げ落ちる。


「!? お姉ちゃん!? ……寝てるだけかぁ……」


 慌てて抱き起こす。ちょっと安堵の笑み。


 そして、机に置き手紙を残すと、音を立てないように部屋を後にした。


◇◇◇


「はッ!? ……エスト様? ……うぅ……頭痛い……」


 翌朝、目を覚ますとエスト様の姿がなかった。


 酷い二日酔いの頭で部屋を見渡すと、机の上に書き置きが残されていた。



【お姉ちゃんがポンコツになってるので、

 1人でレベル上げをしてきます。

 私も早く魔王らしく強くならないと!

 心配しないでね☆


 追伸:

  オヤツは棚にあります。

  私の分は食べちゃダメよ?

  ちゃんと、残しといてね☆


  それから──

  お姉ちゃんのこと、べべ、別に特別だとか!?

  お、思ってないんだからねっ!?

  ……でも、ありがとう。いつも。エストより】


「バカか……ツンデレ属性まで会得したのか……?」


 それでも、胸の奥があったかい。


「……でも、ありがと。“お姉ちゃん”……呼んでくれて、ありがとな……」


 涙が出そうだった。


 私は棚のオヤツのお饅頭2人分を口に含んだ。


 ──甘さが喉に落ちる。現実が戻る。


(あ、やべ。全部食った)


 そして、すぐにハッと我に返る。


「エスト様!?」


 た、たた大変だ!

 あの子……バカなのに!? ポンコツなのに!?


 すぐさまエスト様を探しに走り出した。


 心臓が壊れそうなくらい早鐘を打つ。

 息が苦しい。

 それでも私は走るのをやめなかった。


 また失うのは嫌だ。あの朝みたいに、もう二度と冷たい手は握りたくない。


 お願い……お願いだから無事でいて……! エスト様……!


◇◇◇


 しばらく走ると、

 エスト様とモンスターが対峙しているのが見えた。


 どうやらエスト様が優勢のようだった。


「えいっ! ……ダークアロー!」


 見事な杖さばき。

 あの子は、ちゃんと強くなっている──!


「あぁ! エスト様! 良かった……勝てそうね……」


 ──だが、そのとき。


「あっ! 危ない!」


 倒したモンスターの陰から、別のモンスターが飛び出した。

 経験不足──エスト様は気づいていない!

 

「ガァァッ!!」


「きゃッ!?」


 エスト様は杖で防ごうとしたが、筋力差がありすぎた。


 熊型モンスターの一撃は、

 杖ごとエスト様を弾き飛ばし、壁に叩きつけた。

 

 ドガァァン!!


「……あ……ぅ……」


 エスト様が崩れ落ちる。


「エスト様ーーーーーッ!!!!!」


 私は駆け寄り、モンスター達をドラゴン・スクリューで瞬殺。


「エスト様! エスト様!」


「……良かった。生きてる!!

 でも……傷が深い……どうすれば……?」


「わからない。……ダメ。諦めるな。考えろ」


 考えろ。


 気を失っているエスト様を強く抱きかかえ、考えを巡らせた。


 脳裏にムダ様の言葉が過ぎる──。


『立ち止まるのは罪じゃない。

 立ち止まって、それでも進む理由を思い出せ。

 俺はいま、新宿駅で立ち止まってる。

 進む理由は──試合に遅刻しそうだからだ』


 沈黙。


 ムダ様……新宿駅苦手すぎ……。


「いや、今はムダ様どころじゃない!」


 守るって言ったのに。私が全部やるって言ったのに──。


 私のせいで……傷ついた──。


 誰か……誰か、助けてくれる人は……。


「そうだ……アイツなら、分かるかもしれない……!」


「エスト様を助けてくれるかもしれない……!」


 唇を噛みしめる。


「行くしかない!」


 血の味。


 ──走れ。


 迷っている暇なんてない──守るべきものがいるのだから。


 誰もいない世界でも……この子だけは、“お姉ちゃん”って呼んでくれる。


 それだけで、私は──もう一度、走れる。戦える。


 私はエスト様を背負い、ドラゴンの広間へと走り出した。


 心臓が、早鐘。

 息が、足りない。

 でも、足は止まらない。


 今度こそ守る。

 あの子が笑う未来を。


(つづく)



◇◇◇


──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──


『立ち止まるのは罪じゃない。

 立ち止まって、それでも進む理由を思い出せ。

 俺はいま、新宿駅で立ち止まってる。

 進む理由は──試合に遅刻しそうだからだ』


解説:


 ムダ様は人生を「遅刻寸前の朝」として生きている。


 人はいつだって、格好つけた動機よりも、

 「今ヤバいから走る」の方がずっと速い。


 ムダ様は今日も走る。

 理想を追ってではなく、集合時間を追って。

 そうしてまた新宿駅で迷う。


 それでも彼は言う──

「走ってるうちは、まだ遅刻じゃねぇ」と。


 このあと、遅刻してめっちゃ怒られた。

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