表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/171

#039|椿010:対空スキルが覚醒した件

 ふふ……我が名はツバキ。

 かつて現世にて平穏を望み、

 今は異界にて誤解を積み重ねる者。


 我が言葉は剣となり、

 沈黙は神託と誤認され、

 中学英語は聖典に刻まれる。


 これは宿命か。

 それとも、世界の翻訳機が壊れているだけか。


 ……後者であってほしい。誰か助けて。お願い。


◇◇◇


 オサカを発って、数日。


 ローザが立ち寄る村ごとに勝手に祈り場を作るせいで、

 私は“聖女”として演説させられていた。


「我が咆哮に応えし信者どもよ……

 麦は焔の刻こそ至高 (アルティメット)!!」

(つまりパンは焼きたてがうめぇ)


 聖女じゃないし、何を話せば良いか分からないので、大好きなパンについて演説をして凌いだ。


 そして今、私はローザと共に、ナーラ方面へと続く街道を歩いていた。


 空は高く、雲は穏やか。

 関所という名の修羅場を越えた直後とは思えないほど、平和だ。


「聖女様」


 ローザが、いつもの調子で切り出す。


「この先、ナーラの街には

 “焼きそばパンを出すパン屋”があるそうです」


 ……。


「焼きそば……パン……

 ……焼きそばが入った瞬間、焔の刻が二重になる。つまり最高」


 胸の奥で、何かが静かに共鳴した。


 炭水化物と炭水化物。

 理性が拒み、本能が肯定する禁忌の組み合わせ。

 焼きそば?私と同じ元の世界の住人?


 いや、それよりも──


「ふふ……

 二つの主食を一つに束ねるとは……

 さすが、文明の終着点……」


 めちゃくちゃ食べたい。


「聖女様、すでに教典に

 “二重主食は神を喜ばせる”と──」


「待て。

 それはまだ書くなローザ

 まだ何も分からない」


 ローザは小声で「たしかに……流石です……」と言うと、

 少し残念そうに頷いた。


 その時だった。


 地面を、影が走った。


「……?」


 反射的に顔を上げる。


 空を切る羽音。

 重く、粘つく、不吉な音。


 ローザの声が低くなる。


「……来ます」


 次の瞬間。


 空から降ってきたのは、

 人一人を掴めそうな鉤爪を持つ、

 巨大な鳥型モンスター──

 《グレイヴクロウ》。


「でっか!!

 いや、でかすぎない!?」


 完全に、私を狙っている。


「聖女様、伏せて!」


「無理無理無理無理!!」


 私は足をもつらせ、地面に転んだ。


 ──次の瞬間。


 鉤爪が、私の頭上で止まった。


 止まった、のではない。


 ピカァァァァァ──!!


 んビーーーーーー♡


 私のつむじから、

 天に向かって一直線の光が放たれた。


 聖なる閃光。

 空を裂き、雲を貫き、グレイヴクロウを直撃。


 鳥は一瞬、白く燃え──

 羽毛一つ残さず、消えた。


 沈黙。


「……え?」


 私は地面に座り込んだまま、

 自分の頭を押さえた。


「……今の、なに?」


 ローザは、ゆっくりと跪いた。


 感極まった声で。


「……聖女様」


「やめて。今は何も言わないで」


「神は……

 最も天に近い部位を選ばれた」


「だから何も言わないで!!」


 *


 その直後。


 テレレレッテッテッテー♪


【ツバキのレベルが上がりました】


「ひぃっ!?

 やだやだやだ!!

 次どこ!?

 口!? 口からビームはいやあああああ!!」


【新スキルを検出中……】


「検出するな!!

 私は何も望んでない!!」


【ホーリービーム(口)を……】


「やめてッ!!」


【……習得しませんでした】


「ざけんな!!良かった!!」


【代替スキルを検出】


「代替って何!?」


【ホーリービーム(つむじ)を……】


「つむじ!?!?」


【……習得しました】


 沈黙。

 私はゆっくりローザを見た。


「……予想もしない対空ビーム!?」


 ローザはすでに手帳を開いている。


「追記します」


「早い!!」


「『聖女、冠より天を裁く』」


「お願いだからひとりにして!!」


 通りすがりの旅人親子が、私の頭を見て小さく呟いた。


「……あの人……さっき頭から光が……

 そして、モンスターを一瞬で……あぁ、神よ!!」


 そして祈りだした。


「貴方も今日からカメリア教信徒です」


 すかさず聖典を配るローザ。


「早いな!?見習いたくない!!」


 私のツッコミも虚しく、旅人が聖典を開いて、読み始めた。


「『プリンは飲み物』……『匙を投げるな。匙を持った時点で、死罪』……」


「よりによってそこ!!」

 思わず叫んだ、その時だった。


 旅人の父親が、聖典を読みながら首を傾げた。


「……あの、

 『プリンは飲み物。理解できないものは裁きにあう』

 って……理解できないんですが……」


「正常!! 貴方は正常です!!」

 旅人に握手を求めたい。ハグしたい。


 すると、ローザが即座に聖典を取り上げた。

「まだ、その境地には達しておられないようですね」


「え、いや、普通に考えて──」

 キョトンとする旅人。


「次の章を読んでください。

 『匙を投げるな』の項です」


 ローザから嫌なオーラ。


「いや、だから──」

 困惑する旅人。


「異端だァァァ!!」


 ピーーーーー!!


 ローザが叫ぶと同時に笛を吹いた。

 どこに持ってたんだ、その笛。

 あと、モンスターとか来そうだからヤメロ。


 ──そして。


 「貴様ァッ! 聖女様をバカにしてるのか!!」


 ドゴッ! バキッ!

 ローザが分厚い聖典の角で殴打する音が響く。


「痛ッ!! してません! してません!

 助けて!! 聖職者が殴って!?

 この人、私の話聞いて!!」


(もう好きにして)


 そんなカオスな中、旅人の子供が、

 恐る恐るこちらに近寄ってきた。


 私のフードと包帯を見上げて、少し首を傾げる。


「おもろい漫才中やけど、

 お姉ちゃん……あめちゃんあげるから、元気出して?」


 そう言って、小さな手を伸ばしてきた。


(漫才!?笑いの国!?)


 掌に乗せられたのは、包み紙にくるまれた飴玉だった。


 赤くて、丸くて、やたらと普通のやつ。


「……」


 一瞬、言葉が出なかった。


 頭からビームが出る女に。

 国家機密 (誤解)を背負った女に。

 聖女 (自称)に。


 この世界で、いちばん正しい距離感で

 接してきたのが、この子だった。


「……ありがとう」


 私は、そっと飴を受け取った。


 子供が、にっこり笑った。


「包帯、痛そうだから……

 甘いの食べたら、元気出るよ!」


「……うん。ありがとう」


(痛くないんだけど……でも、嬉しい)


 ローザが、横で静かに頷く。


「やはり……。

 信仰の原点は、慈悲なのですね」


「感動を台無しにするな」


◇◇◇


 私はフードを深く被り直した。


「……もう飛ぶな……私の上を飛ぶな……」


「ご安心ください、聖女様」


 ローザは微笑む。


「空を制するのは、常に聖女様です」


「制したくない!!」


◇◇◇


 こうして私は。


 焼きそばパンを求める巡礼の途中で、

 鳥に狙われ、

 頭頂部が覚醒するという

 最悪の進化を遂げた。


 道中では、

 石や草と会話する草さんという人の噂も耳にした。


 ……知らない。

 私は何も知らない。


 今日も私は、フードを深く被って歩く。


 空を警戒しながら。


 つむじを押さえながら。



 やがて──ナーラの街が見えてきた。



(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ