ユリアの瞳⑤
病院までの道のりを猛ダッシュで駆けた。ローランは平然とした顔でジョギングするかのようにリンについて来た。
病院の前にはユリアが所在無さ気に佇んでいる。
「ユリアっ!」
リンは精一杯手を振りながらユリアに呼びかけた。汗は額にじんわりどころではない。体力に自信のあるリンでも早退直後から動きっぱなしなため、喉の奥と胃が裏返りそうだった。
「お待たせっ、行きましょっ」
息をする度に喉に張り付く空気を無理矢理飲み干して笑顔を作る。ユリアはそんなリンの姿を見てハンカチを取り出した。流れる汗を拭こうとしてくれたのだろう。その優しさを還元すると意気込み、リンは先を急ごうとハンカチを持ち上げたユリアの手首を掴み軽く引いた。
「リン!まず、汗を」
「いいの、いいの。ほら、歩いて!」
「でも、汗が……? 後ろに騎士様が」
ユリアの視線が後ろのローランへ彷徨っている。うっかり紹介し忘れていた。
「事件の日からお世話になってるローラン騎士様よ。性格は悪いけど、フットワークは軽いの。今日はありがとうございます。こちらは友達で同僚のユリア、人生の岐路なんです。さあ、行きましょ」
ローランに一礼し、ユリアを再び引っ張る。
「雑な紹介だなー」
ローランはそう言いながらも面白そうに笑い、先頭だって歩き始めた。ユリアはリンに手を引かれながら、「私の紹介も雑過ぎない?」と小声で囁く。
「雑じゃないわ。効率を重視しただけよ」
だいぶ息を吸い込みやすくなった肺で答える。こんなところで時間を喰っている場合ではないのだ。鉄は熱い内に打てと先人達は言っていた。リンは直接誰かに言われたことはないけれど、ユリアの気持ちが暗い所で芽吹いてしまう前に光の下に連れて行きたいと思った。
「鉄は熱い内に打たなくちゃ」
リンの言葉を聞いた2人は初コンタクトながら、目を合わせて首を小さく横に振った。
「リン、汗を拭きましょう。歩きながらなら拭けるでしょう。私は手を繋いでなくてもちゃんとついて行くわ」
ユリアがもう一度、リンにハンカチを見せ渡す。
「ありがとう。通りで走り過ぎて暑いのに少し寒いなとも思ってたの」
ローランは汗だくのリンに、「ドニーズの所に着いたら、包帯も巻き直しだからね」と汗で中が蒸れているであろう包帯を指した。
「ドニーズの所の塗り薬は市販薬の倍染みるから」
リンは昨日貰った漢方の苦さを体感したばかりだ。あの底抜けに不味い漢方と比になるものならば、相当染みるだろうと察した。ローランの呼び出された仕返しか心配から来る温情かはわからないが、「余計なことを」と思うと傷が疼き始めた。
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