ユリアの瞳①
次の日、腕の怪我は劇的には良くならないが痛みも気にならない程度になり、リンは出勤した。
ドニーズが調合してくれた漢方はローランが言うように底抜けに不味く、「もう二度と怪我などしない」と飲む度に誓うほどだった。
ザーロリフ教育担当が暫く内勤に戻すか考慮してくれていたようだが、「外勤に戻らせてほしい」と志願した。
今日は外勤に戻るためヅッタに挨拶に行く。ヅッタは外勤の制服を着て救護部隊の部屋に入って来たリンを見て目を見開いていた。申し送りが終わり、リンはヅッタに向いて頭を下げる。
「ご心配をおかけしました。お休みを頂き回復してきましたので本日からまた宜しくお願いします」
ヅッタは煮え切らない表情をしている。
「内勤にもどるんじゃなかったのか」
「この程度で遅れをとりたくありません」
張り切るリンがそう言った瞬時にヅッタは渋い顔になった。
「馬鹿も休み休み言え。傷が残るかもしれない怪我をして『この程度』というやつがいるか? 患者が目の前で同じ怪我をしてもそう言うのか?」
リンは患者が目の前で同じ怪我をしたら復帰を伸ばすように説得するだろうなと考え自分の甘さを素直に謝った。
「いいえ。復帰を止めますし、『この程度』などと絶対に言いません。私が間違っていました。申し訳ありません。」
謝罪するリンにヅッタは、「厄介な後輩の指導係になったもんだ」とため息をついた。
本当にその通りで恐縮する。
「ほら、行くぞ。無茶だけはするなよ」
「はい!」
◆
今日も救護部隊を呼ぶ内線やコールが頻繁に行き交う。テオがリンの前を通り過ぎた。急足で処置道具を運び止血開始していた。リンは辺りを見回す。けれど、目当ての人物を見つけることができない。
ユリアがいない。
その時に気づいた。
今日は軽症のコールや近場への救護が多かったため、車は1台も出ていない。喧騒の中、リンはユリアを探すために眼を凝らした。
「おい。集中しろ」
ヅッタがリンに注意する。
「ユリアが、ユリアがまたいないんです」
リンが動揺を隠せず、処置の手止める。ヅッタがすかさず、「手を止めるな」と叱り飛ばす。
「ユリアは内勤に移った。本人の希望だ」
毒の影響がまだ残っているのだろうかと処置中に雑念が入る。
「状態は回復していて何の問題もない。これ以上、足を引っ張るなら、ザーロリフ教育担当に休暇を延長させるように頼むぞ」
それは嫌だと思い必死で思考を放棄しようとした。しかし、ユリアの泣き顔が浮かんで離れない。
回復したのなら何で内勤に移動したのか。外勤を知らずして衛生師とは名乗れない。ユリアもそれは知っているはずだ。
リンはまた手を止めそうになった。しかし、ヅッタからの地割れのような圧を感じ、必死に考えを追い払う。
勤務に集中しなければ。
けれど、心のどこかで小さな煙が上がっていて視界が晴れない。
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