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魔女の館①


 大通りをしばらく歩き、細い路地を何箇所も右に曲がったり左に曲がったりした。ローランが迷いなく歩く中、リンは自分で帰路に着くことが困難だと悟った。

 いまいち、今どちらの方角に向かっているかもわからない。


 ローランは「こっちだよ」と雨上がりのような笑みで案内する。

 よく迷わないなと心の底から感心した。


「騎士は犯人を追い込む時に道を知ってなきゃいけないからね。これくらいの路地だったら、騎士は皆覚えてるよ。見直した?」


 リンが穏やかな表情で着いて来ていることを確認したローランが立ち止まる。リンが返事をする前に再び歩き出す。

 

「もう少しだよ」


 ローランが指差す方向に小さな煉瓦造りの家が見えた。



 煉瓦造りの家に到着し、重そうなドアノックをローランが叩く。


「どうぞ、お入り下さいな」


 中から年取った女性のが返事をする。

 ローランが「おはよう。失礼するよ」とドアを開けて、リンを中に促す。


 リンが一歩踏み出し見回すと、中は乾燥した草や木の実や花が両壁一面に瓶詰めされていた。その正面、カウンターの反対側に高齢の女性が黒い羽織を着て座っている。

 まるで魔女の館みたいだなとリンは思った。


 後ろから入って来たローランが「ドニーズ、世話になるな」と親しげに声をかける。


「いらっしゃいな。まぁ、取り敢えず座って見せてご覧なさい」


 ドニーズが手招きをしている。リンは引き寄せられるように足を進めた。

 リンがカウンターの椅子の前まで来るとドニーズは掌で椅子に座るように指示した。


「お名前は」


「リンと言います」


「怪我はその包帯だらけの両腕かい?」


「はい。あの、両腕と両手首を中心にガラスで切ってしまって」


 リンが両腕をカウンターの上に乗せるとドニーズは「どれどれ」とリンの包帯を取り、傷を見始める。


「随分、酷いな。切ったと言っておったが、それにしても深すぎる。刺したの間違いじゃないかい?」


 

 リンは何と説明すれば良いのか思案すると共に気まずさから沈黙する。



「縛られた縄を切るために、背中越しで割れたガラスに無我夢中で手を当て続けたんだよ」



 ローランが背後からサラッと説明する。

 リンは言うタイミングを図っていたのに余計なことをと思ったが同時に少し感謝した。単純に無茶をした自覚があるため言いにくかった。


 ドニーズは「それじゃあ、こうなるわな」と納得した様子で干した草が入った瓶を開け始める。

 漢方特有の土や草を発酵したような匂いが鼻をかすめる。


「肌が白いが生まれはどこだ?触って痒くなったり、食べられないものはあるかい?」


 ドニーズの質問にリンは的確に答える。


「スーモア国の出身です。特に今までありません」


 ふむふむとドニーズは頷き、赤い花弁が入った瓶を開ける。


「痕にならないように新陳代謝を促す薬草と、膿みにくくなる花弁も入れとこう」


 茶色の干し草と赤い花弁、その他に黄色の干し草、深緑の根っこ、細い針のような干し草などを石臼に入れ、石製のすりこぎ棒でゴリゴリと砕き始めた。


毎日、22時更新予定です。

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