意地の悪い男④
リンが寮の入り口まで行くとローランは「早いね」と薄い笑みを浮かべた。
「いえ、ローラン様こそ今は30分前です」
「寮の出迎えがどう思われるかわかっていたからね。噂になるとリンが嫌だろう?」
「それで30分も前から『療養中の護衛だ』と寮生を捕まえて言っていたのですか?」
ローランは「捕まえるって言い方!」と吹き出した。
「そうだよ。助かっただろ? まぁ、俺はデートだと思われても構わなかったんだけどね」
にやりとして余計なことを言うではないか。
「最後の言葉は余計でした。それさえ無ければ、お礼を申し上げていたのに」
突き放すような態度を取るも、ローランは「予想が当たって何よりだよ」と優しい声で語る。
「ワンピース、濃い灰色なんだね。地味な色だけど、似合ってるよ。栗色の髪がさらに輝いてみえる」
「口説き文句ですか?」
「半分正解!」
ローランは今日も実に楽しそうだ。リンはささくれた気持ちで足を一歩踏み出した。
「もう行きましょう」
ローランがリンの隣を歩く。
口の端を上げ続けているので、「何がそんなに楽しいんですか」と聞いた。
「リンといると退屈しないんだ。思い出すことも多いし」
ローランの瞳の先は空へ向いている。雲一つない青空の一体何を見ているのだろうか。
「出逢ったばかりでって思うかな?」
「いいえ、私もローラン様といると祖国での嫌な記憶が掘り起こされることがあるので気持ちはわかります」
「塩対応過ぎない?」
リンがいくら冷たい発言をしても、ローランは凹んでいるような素振りさえしない。
今もクスクス笑っている。
「最初、お会いした時は優しい方だと思ったのに」
「血だらけで腕のどこを怪我しているかもわからない状態で、足が痙攣しているのに『歩けます』って言った時のこと?」
リン自身もあの状況で、「歩けます」発言はいただけなかったと思っていた。客観的に見て全然大丈夫そうではない。
「そうです。あの後、私が親友と青い花と月の妖精の話をしても、頭の心配をしませんでした。」
ローランは、「ああ、あのことか」と呟き、改めて空を見上げた。
「親友が青い花になって助けに来てくれたって言ってただろ?俺にもそんな時が来ればいいのにって思ったんだ」
ローランの顔は笑みを作っているが、雨が降っている空を見上げているかのように目を瞬いている。
「俺の親友も天国にいる。5年前にかっこよく旅立っていった。リンを見て、栗色の瞳に宿る意思が親友に似てると思ったんだ。運がなかったな。俺は親友を揶揄うことが人生の一つの生き甲斐だったんだ」
なんだその生き甲斐は、と釈然としない気持ちで、ローランの数歩前に出る。
「置いていきますよ。私は揶揄われて喜ぶ趣味はありません」
ローランはプッと吹き出して「本当、そっくりだよ」と懐かしそうに目を細めた。
「ちなみにわかってると思うが親友は男だ」
「褒められてるのか貶されてるのかわかりませんがヘラヘラしてないでさっさと歩いて下さい」
親友との思い出に胸を痛めることはわかる。リンだって、ロザリーを思えば幸せな思い出ともう会えないという悲しい現実と対面することになる。その想いがわかるリンだからこそ、ローランの行いは現実から乖離していると思った。
「いつまでも浸ってないで、現実を見てください。じゃないと、ローラン様がピンチの時に現れにくいです。目の前にそっくりさんがいるんじゃ特に」
目を丸くした後、ローランは空に語りかけるように言った。
「そうだね。立ち直れなくても踏ん張らなきゃね。悪かったよ」
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