意地の悪い男③
翌朝、土砂降りの雨を期待していたが直射日光が照りつける晴天だった。
ローランと漢方を処方して貰いに行くだけなのだから、適当な格好でいいかと重い体を引きずって、濃い灰色のワンピースに着替えた。替えの包帯を鞄の中に忘れず入れたことを確認する。
現在、9時半だ。ローランが垂れ目を下げて意地が悪そうに口をつぐんだまま笑う光景が目に浮かぶ。
出逢った時は、「ロザリーが青い花になって月の妖精を連れて助けに来てくれた」とリンが発言しても頭がおかしくなったなどと責めず、「それは凄いな。俺にも親友がピンチの時に来てくれるといいな」と懐かしそうに目を細めてくれたのに。
あの時はいい人だと思ったのだ。
しかし、本当にあのひと時だけで以降ずっとリンを揶揄っているように思える。
寮の共用スペースに降りて、時間を潰そうと部屋を出る。階段を降りると辺りがいつもより騒がしい気がした。
ふと、寮の入り口を見るとローランが休日の服装に騎士のピンをつけて立っている。
共用スペースに偶然居合わせた寮生が囃し立てている。
「騎士様よ、うちの寮生とデートの待ち合わせかな?」
「甘いマスクで素敵ね」
「本当ね。騎士様に選ばれた幸運な子はどの子かしら」
リンは腹ただしくなった。「騎士様に選ばれた幸運な子」という言い方が非常に気に食わない。デートでも何でもないのだが、選んで貰った感がして拒絶反応を覚える。
マリウスがロザリーに言い放った「養われている身なんだから」というニュアンスを含んでいると思った。選んで頂いているという見方をされるのは絶対にごめんだ。
それもこれも待ち合わせの30分前からこれ見よがしに寮の入り口に雨樋のように立っているローランが悪い。
リンは両手の掌に爪が食い込むくらいに手を握り締めた。この時点で帰りたいと思った。まだ、寮から一歩も出ていないのに。
共用スペースの入り口から動けなくなってしまったリンは、もう一度だけローランが立つ入り口に視線を移した。
ローランが行き来する寮生に頭を下げ、一言二言会話をしている。
会話をした寮生が共用スペースに帰って来てがっかりした様子で言った。
「ただいま。あの騎士様、療養中の護衛なんだって。ロマンスじゃなくてがっかりよ」
「そうなの? デートのお相手が現れるまで野次馬根性で待ってたのに」
「この前、異国への人攫い事件で外勤中の衛生師が巻き込まれたじゃない。きっと、あの件よ」
「なるほどね」と言い合っている。その内の1人が共用スペース入り口にいるリンに気づき、両手の包帯をギョッとした目で見た。
「大丈夫なの!?」
1人の大きな声に囃し立てていた2人も振り返る。
「あ、はい。今から漢方を処方して貰いに行ってきます」
勢いに押され宙を浮くような声で返事をした。
「そんな広範囲に怪我をしたの? 外勤中よね? 騎士様方は何をなさっていたのよ」
「もちろん、薬は内服中よね。それでも痕になりそうな場合くらいにしか漢方の処方なんて考えられないわ! そうなんでしょ?!」
ロマンス云々話していたとは思えないほどの怒りを感じる。
「しっかり処方して貰いなさいね」
「騎士様が護衛に来るのも当然だわ。事件中のことだもの」
寮生の先輩方は騎士に対して青筋を立てながらもリンには、「気をつけてね」と見送ってくれた。
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