意地の悪い男②
アレクサンドによって聴取は淡々と進んで行った。途中、ローランが口を挟むこともなく予定時刻に終了し、リンにやっと休息の時が訪れる。
これで、もうローランの顔を見なくてすむと清正した気持ちで伸びをする。すると、ローランが首を摩りながらジッとリンの両腕に巻かれた包帯見つめ、笑みも浮かべず問いかける。
「両腕の怪我の具合はどう?」
「まあまあです」
「意地悪だな。それじゃあ、経過がわからないよ」
ローランは神妙な態度でリンの両腕を壊物を触るかのように触れる。
「山小屋にリンの血がついたガラスが大量に散らばっていたって報告書があったよ。痕が残ったら大変だ」
「私は全く気にしません」
『痕が残る』と聞いてユリアの心の傷を思い出した。何度も『置いていって』と叫ぶように願われ胸が串刺しにされたような痛みを感じた。だから、腕の怪我の痕が残ろうと気にならない。ユリアと共に生きて帰れた事が全てだ。
「全くってことはないだろ? とても目立つところだよ」
「関係ないんです。目立とうが残ろうが。ユリアと、同僚と一緒にここにいることができるのだから」
胸を張って言える。
この怪我が醜い傷痕になろうとも、気にならない。声も満足に出せない憔悴した姿のユリアを置いて逃げなかったという判断が間違いではなかったと再認識できるだけだ。
アレクサンドが「もう引き上げるぞ」とローランに声をかける。
「ちょっとだけ待ってくれ」
ローランは口を結んで何度か顎下を指で摩った後、ゆっくリンに視線をやり、話しかける。出会ってまだ2日だが一番真面目な顔をしている。
「いい漢方がある。新陳代謝を高めて傷跡が残りにくくなるものだ。創部の消毒だけじゃなく、飲み薬も飲んだ方がいい」
「でも、ノーマン医師もついてますし」
「ノーマン医師も許可済みだ。痛み止めや化膿止めと併用して飲んでも問題ない」
「処方してくれるところを知りません」
「だから」
垂れ目をさらに下げ、腕組みをしためらいながら言う。
「明日にでも一緒に行こう。非番なんだ。丁度」
「場所を教えて頂ければ自分で行けます」
「この領に来て半年だろ?寮と職場の行き来だけの生活で詳しい地理がわかるのかな」
ローランは態度を180度変え、意地が悪そうな笑みを浮かべる。実際にその通りで全く地理を理解できていない。言葉に詰まり返事をしないでいると、それを承知したと解釈したようだ。
「明日、10時に迎えに来るよ」
「帰るぞ、アレクサンド」と返事を待つ事なく撤収して行く。
その後ろ姿を見ながら何も口に出すことが出来ず、強めに地を蹴って歩く。また、明日もローランと会わなければならないと思うと苦い薬を口に含んだ時のような気持ちになる。
約束をした覚えもないのだし、すっぽかしてやろうかとも思ったが、寮の前で延々と待たれても大変困る。
そして、一番気に掛かっていることは傷痕が残ることによってユリアが気に病むことだ。
リンが気にしなくてもユリアが気にする可能性がある。その可能性がある限りは……。
行くしかないな。
選択肢が限りなくないことに漸く気づいた。
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