外勤は危険③
首を捻ってユリアを探すと簡易ベッドの上に、手を前で組んだまま縛られ祈るような形でグッタリしているユリアが見えた。
「ユリアっ!」
リンが悲鳴をあげるように呼ぶと、片足を少し浮かせて、
タンタン
と簡易ベッドを揺らす。
ーー意識があるんだ!
芋虫のように這って、ユリアが寝かされているベッドに近づくと、目隠しもされておらず足もそのままで手のみ縛られているだけであった。ただ、毒が回っており力なく横たわっている。
手の縄さえ解くことが出来れば後は何とでもなると思い、周りを見渡すと外枠にはまったまま割れた窓ガラスが目に入った。
膝を必死に曲げ伸ばしし身体を壁に立てかけて、肩甲骨がおかしくなるのではというほど縛られた手を後ろへ上げ、身体は前屈させる。
割れた窓ガラスが掌や腕に当たる感触がする。窓の枠に腕が上がった証拠だ。
手首の間に割れたガラスが丁度挟み込むように入ることを祈り何度も挑戦する。
腕や手に生温いものが流れてきたが痛みは感じない。
何回も挑戦するとある時、手首の縄にテンションがかかった感じがやっとした。
そのままの体勢で手を斜め下に下げる。
ブチっ
縄が切れ傷だらけの両手が戻ってきた。
その両手で落ちているガラスの破片を掴み、足を拘束している縄を切る。
そして、ユリアの元に駆け寄った。
「ユリアっ!お願い返事をして。」
自身の腕や手から流れる血は気にせずさっと服で拭い、ユリアの脈をとる。呼吸状態の確認も忘れない。
橈骨動脈からユリアの確かな生命の拍動を感じ、胸骨と肋骨の動きや息の漏れ出る音の異常のなさから、取り敢えず、確かな形で生きていることがわかりほっとした。ガラスの破片でユリアの手の縄も切り、脱出を試みようとしたその時、
「リン。」
消え入りそうな声でユリアが呼んだ。
「何?大丈夫よ。絶対に助けは来るわ。私が背負うから辛いかもしれないけど行こう。」
リンがユリアの両手を握りながら言うと、ほんの少しわずかに首を横に振り、
「置いて行って。狙いは、黒髪の、女なの。」
「やつら、ヘイサースユノー国の、人攫いよ。」
「母国語が、聞き取れた。間違いない。」
ポツリポツリと漏れ出る息と一緒に小さな声ゆっくりと、けれど確かに聞こえるよう話す。
「ハーレムに、『太陽の女神』を、求めてる。」
「私を、連れて行けば、追っ手が、くるわ。」
小さな漏れ出る息と共に、目も開けずにユリアは言った。
「だから、置いて、行って。」
見えていないと分かっていてもリンは必死に首を横に振った。
「できないわ。そんなこと。」
その声にユリアが今度は小さく顎先を横に振る。
「なんで、なんでそんなことを言うの。私が友達を置いていけると思う?」
ユリアの手を堅く握って話すが反応がない。
「ねぇ、お願い。私にそんなことさせないで。」
リンはユリアの意思を無視して、背中に手を入れて起こし、背中の手はそのままにもう片方の手を膝下入れてくるりと身体を回し、簡易ベットから足のみを下ろす形を作った。
「ユリアが何と言っても連れて行くわ。」
ユリアの両手を輪のようにして、そこに頭を通し前屈みになって、リンの背中に乗せる。
ユリアの手は脱力しており、リンが手を離せば後ろに反るようにしてユリアは落ちるだろう。
そのため、目隠しに使われていた平たい布でユリアの手首をまとめ、後ろに反ってもリンの首に引っかかるようにし、ユリアの膝を抱え前屈みのまま歩き出した。
窓ガラスより少し離れた所に止まり、割れていた窓ガラスをさらに割るために、背中を丸めユリアの足を浮かせ、手を離す。空いた両手で近くにあった椅子を躊躇いなく窓ガラスへ投げた。
バリンっ!ガッシャーン!
騒音と共に窓ガラスが割れる。
再び、ユリアの足を抱えて歩き出す。
ーーもう二度と大切な友達を失いたくないーー
その想いが同じ背格好のユリアを運べるほどの力になっていた。
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